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- CIRCULATION Up-to-Date Books 15 たかが冠攣縮、されど冠攣縮
商品情報
内容
冠攣縮誘発負荷試験を知れば、冠攣縮性狭心症だけでなく心疾患すべての治療方針がみえてくる! 循環器科医が、冠動脈形成術の技術を習得するために役立つ一冊!
CIRCULATION Up-to-Date Booksシリーズ
序文
1980 年代後半に,泰江弘文先生,奥村謙先生が海外の一流誌にアセチルコリン負荷試験に関する報告を発表された.私がちょうど,市立八幡浜総合病院から喜多医師会病院に異動した時期にあたり,上司がアセチルコリン負荷試験を開始したところであった.3 年後に私がカテーテル室の責任者となり,積極的に薬剤誘発冠攣縮負荷試験を開始した.
当時(約25 年前)は,私も35 歳の若年医師であり,外来受診された方の胸部症状を聴取し,最終的に心臓カテーテル検査まで施行したが,有意な狭窄所見を呈する症例が少なかったように記憶している.そのころは,冠動脈CT 検査もなく,心筋シンチ検査や非観血的負荷試験であるトレッドミル検査・過換気負荷試験・寒冷昇圧負荷試験を駆使して虚血の診断に時間を費やした.
可能な症例にはアセチルコリン負荷試験を実施し,連続685 例におけるアセチルコリン誘発冠攣縮の頻度を報告した.当初からエルゴノビンとの差異にも興味を抱き,右冠動脈でアセチルコリン50μg 投与陰性例に,冠動脈内エルゴノビンを追加投与することで完全閉塞所見を呈する症例を多数経験した.
非異型狭心症例では,右冠動脈最大投与量であるアセチルコリン50μgが少ない可能性があると考え,1994 年から右冠動脈最大80μg 投与を開始した.また,臨床現場では,アセチルコリン単独投与・冠動脈内エルゴノビン単独投与では誘発困難な冠攣縮性狭心症例にも遭遇し,冠動脈内エルゴノビン投与後のアセチルコリン負荷試験追加も実施し,論文化した.いわゆるシークエンシャル薬剤誘発負荷試験である.
また,ドイツのグループの左冠動脈にアセチルコリン200 μg 投与に関する報告のあと,われわれ日本人におけるアセチルコリン200 μg 投与の有用性に関しても自験例をまとめ,2014 年に報告した.現在までに,薬剤誘発冠攣縮負荷試験を延べ2,900 例以上に実施したが,これらの負荷試験から非常に多くのことを学んだ.原因不明の失神例や心不全例の発生にも冠攣縮が関与している可能性や,最近では,胸痛・胸部圧迫感・胸部絞扼感などの典型的な胸部症状を呈さない冠攣縮陽性例が非常に多く存在する可能性があることも学んだ.冠攣縮から心疾患を診ることで,今まで見えなかった真実が見えてくると実感している.
愛媛の地方病院を転々としながら薬剤誘発冠攣縮負荷試験を実施してきたが,循環器の臨床現場はインターベンション全盛期に突入し,冠攣縮に関する学会発表も激減した.近隣の循環器科施設における冠攣縮の対応に興味をもち,まずは愛媛県内の循環器科施設,そして次に中国・四国地区の循環器科施設に冠攣縮に関するアンケート調査を行ったが,施設間格差が著明で,診断基準も施設ごとの対応であることが判明した.
その後,全国の日本循環器学会教育施設と教育関連施設1,177 カ所に,独自に作成したアンケートで冠攣縮の意識と実態調査を行ったが,中国・四国地区同様に,施設間格差が著明で,全国で統一性のないことが判明した.2008 年に,現国立循環器病研究センター理事長(元熊本大学医学部教授)である小川久雄先生を班長として,日本循環器学会が「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン」を策定した.その後そのガイドラインは2010 年には英文化され,世界初の英文ガイドラインとなった.
しかし,一方,臨床現場に目を向けると,いっしょに働く循環器科医が冠動脈形成術施行時には臆することなく手技を施行しているが,アセチルコリン負荷試験やエルゴノビン負荷試験時には,やや自信なくおそるおそる実施している現実を目の当たりにし,薬剤誘発冠攣縮負荷試験を安全に合併症なく施行するための本が必要と感じ,自験例をもとにこの一冊にまとめた.また,海外では,薬剤誘発冠攣縮負荷試験は危険であるとの理由で普及していない事実もある.しかし,循環器科医は,薬剤誘発冠攣縮負荷試験を合併症なく安全に実施できる技術の習得も,必須の事項の一つである.
今回,メディカ出版社の出路賢之介さんと明珎久美子さんのご理解とご協力をいただき出版にこぎつけることができ,感謝している.多列冠動脈CT 検査の普及に伴い,冠動脈造影検査まで施行する症例が減少している.冠動脈造影検査まで施行する症例であれば,循環器科医は冠攣縮の有無を精査する必要性について考慮していただきたい.また,そういう時代に循環器領域は突入したものと思われる.循環器科医が,冠動脈形成術の技術習得と同様に,安全に薬剤誘発冠攣縮負荷試験を実施できるようになるために,この本を役立てていただきたい.
「たかが冠攣縮であるが,されど冠攣縮である」.これからの循環器科医には,臨床現場の真実を見抜く力を養ってほしいものである.
2016年 9月
愛媛県立新居浜病院 副院長
末田章三
目次
・はじめに
【第1章 薬剤誘発冠攣縮負荷試験施行前】
1 はじめに
2 症例提示(冒頭の一例)
・症例提示
3 アセチルコリン・エルゴノビン負荷試験の歴史
・薬剤誘発冠攣縮負荷試験の重要性の認識
・アセチルコリン
・エルゴノビン
4 ガイドライン(JCS2008)に記載されている薬剤誘発冠攣縮負荷試験
5 ガイドライン(JCS2008)策定前のわが国の薬剤誘発冠攣縮負荷試験実施状況
6 ガイドライン(JCS2013)記載されている冠攣縮性狭心症の診断基準
7 薬剤誘発冠攣縮負荷試験の位置づけ(海外とわが国のガイドラインの対比)
【第2章 薬剤誘発冠攣縮負荷試験の実際の方法】
8 アセチルコリン負荷試験
・注射液作製と負荷試験方法
・アセチルコリン投与量
アセチルコリン200μg投与例
アセチルコリン80μg投与例
9 エルゴノビン負荷試験
・注射液作製と負荷試験方法
・エルゴノビン投与量
10 薬剤誘発冠攣縮負荷試験の除外症例
11 腎機能低下症例の場合
12 硝酸薬投与のタイミング
13 薬剤誘発冠攣縮負荷試験の結果の記載方法
14 薬剤誘発冠攣縮負荷試験時の心電図記載
15 一時的ペースメーカー挿入の必要性とどこから挿入するか
16 左右共用力テーテルの使用の推奨
17 上腕動・静脈穿刺法
18 橈骨動脈穿刺法
19 アセチルコリンとエルゴノビンの使い分け
【第3章 薬剤誘発冠攣縮負荷試験に伴う合併症とその対策】
20 合併症の頻度と対策
21 ショック合併例への対応
22 アセチルコリン負荷試験後に発作性心房細動を認める場合
23 合併症の比較
【第4章 薬剤誘発冠攣縮負荷試験の成績】
24 薬剤誘発冠攣縮負荷試験における誘発冠攣縮頻度
25 人種差に関して
【第5章 薬剤誘発冠攣縮負荷試験の限界】
26 一過性の完全または亜完全閉塞(>90%狭窄)を認めるが心電図変化を認めない場合
27 アセチルコリン負荷試験時の胸部症状と有意の心電図変化
28 シークエンシャル負荷試験
29 若年者にはシークエンシャル負荷試験を考慮する
30 総合的な診断が必須
31 アセチルコリン負荷試験は回施枝誘発冠攣縮が少ない
【第6章 薬剤誘発冠攣縮負荷試験の問題点】
32 ドーズリスポンスするか
33 左右どちらの冠動脈から開始するか
34 硝酸薬投与後も薬剤誘発冠攣縮負荷試験を行う
35 カテーテル誘発冠攣縮を認める場合
36 カテーテルがwedgeする場合
37 右冠動脈が低形成の場合
38 アセチルコリンとエルゴノビンは同じ反応するか
39 診断することに意味があるのではなく重症度を把握する
【第7章 薬剤誘発冠攣縮負荷試験の今後の検討課題】
40 服薬下薬剤誘発冠攣縮負荷試験
・臨床的指標
・服薬下薬剤誘発冠攣縮負荷試験での治療薬の効果判定
・服薬下薬剤誘発冠攣縮負荷試験の効果
41 非虚血性心疾患への薬剤誘発冠攣縮負荷試験
42 心不全例への薬剤誘発冠攣縮負荷試験
43 失神例への薬剤誘発冠攣縮負荷試験
44 今後の薬剤誘発冠攣縮負荷試験
45 性差を考慮した薬剤誘発冠攣縮負荷試験の必要性(特に女性にはアセチルコリン負荷試験を推奨する)
46 薬剤誘発冠攣縮負荷試験の結果のサマリーを患者に手渡す意義
47 冠攣縮を有する中等度狭窄部位への冠動脈形成術
48 省略アセチルコリン負荷試験の可能性
【第8章 たかが冠攣縮,されど冠攣縮】
49 胸部症状を認めない冠攣縮性狭心症(無痛性冠攣縮性狭心症)
・症例提示
50 泰江先生からのメッセージ
51 おわりに
・引用・参考文献
・索引
・著者紹介
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書籍情報
- ISBN:9784840458351
- ページ数:160頁
- 書籍発行日:2016年10月
- 電子版発売日:2016年11月11日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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