はじめに

「がん対策基本法」の理念の下，2007年6月，患者の視点を大幅に取り入れた「がん対策推進基本計画」が閣議決定された．がん医療の初期段階から患者の意向を尊重し，心のケアを展開するために，以下のことが取り組むべき施策として盛り込まれた．

緩和ケアについては，

・治療初期から身体症状の緩和や精神心理的な問題への援助

・がん患者，その家族に対して心のケアを行う医療従事者の育成

国においては，

・「緩和ケアチームの設置」を拠点病院の指定要件

・より質の高い緩和ケアを実施していくため，緩和ケアに関する専門的な知識や技能を有する医師，精神腫瘍医，緩和ケアチームを育成していくための研修がん医療における告知等の際には，

・がん患者に対する特段の配慮が必要であることから，医師のコミュニケーション技術の向上に努める．

・告知を受けた患者の精神心理的サポートを行う人材の育成など，体制の整備に向けた研究を進めていく．

心のケアを担う人材育成のために，日本サイコオンコロジー学会（http://www.jpos-society.org/）は，2006年から学会総会に合わせて，サイコオンコロジーの基本に忠実に，各種研修会やe︲learningを用意してきた．また，2007年度から厚生労働省委託事業として，コミュニケーションや精神症状緩和（うつ病・せん妄）に関する研修会が国立がん研究センターをはじめ，がん専門病院の院内研修，文部科学省がんプロフェッショナルプラン，がん診療拠点病院などで全国開催されている緩和ケア研修会で学ぶことができるようになった．

最近，サイコオンコロジーの基本について研修会やe︲learningによる学習はできるようになったが，ナースを含む医療スタッフから基本編を終えてより専門性を必要とする様々な場面で実践に即した学習をしたいとの声が寄せられるようになってきた．コミュニケーションの基本や，せん妄・うつ病の知識だけでは対応できない，複合的なケースについても学びたいとの声である．そこで，本書は，精神腫瘍医として日々，ナースから実際に相談を受けてきた経験をもとに，緩和ケアに携わるナースと，一歩先のサイコオンコロジーについて一冊にまとめることができた．誰もが遭遇する落とし穴や早晩直面する課題について，できるだけ図表や絵を多用しわかりやすい説明を心がけたつもりである．「がん対策基本法」施行5年目の今年，本書が心のケア向上の橋渡し役となって，意向に添ったがん医療の実現の一助となれば幸いである．

2011年9月

編者を代表して　内富　庸介