序文
第89回日本消化器内視鏡学会総会会長を終え,藤田保健衛生大学(現藤田医科大学)の定年も終えた機会に,大阪医科大学(現大阪医科薬科大学)ならびに藤田保健衛生大学在職中に執筆した原稿や講演スライドなどをまとめて形にして残そうと考え執筆を思い立った.作成に当たり共著で多くの先生を煩わすのは心苦しく思い,出版社からの勧めもあって単著で出版することにした.
本の内容・構成について,若手の消化器内科医を対象に実臨床の場で役に立つ実践的なものにしたいと思った.小生の独断かもしれないが,数多く出版されているアトラス的な本は概して疾患項目,病態生理や治療の記載が少なく,逆に,教科書的な本は項目こそ網羅的だが内容の記載や消化管診断の根幹となる画像呈示が乏しいと思われる.また,本の構成や内容に独自性を持たせたものは,内容を辞書的に調べる際に不便を感じることが小生自身少なからずあった.したがって,若手医師が疾患の内容やX線,内視鏡などの画像について忙しいベッドサイドの合間に手元でちょっと調べたいときの利便性重視をコンセプトに,本書ではオーソドックスな教科書的スタイルを踏襲しつつ,病態生理や画像とその説明をできるだけ多くした.本書における引用文献は紙面的制約もあり十分に網羅できなかったが,記載したガイドラインからの孫引きや,発表者と発表年のみを記載し読者に調べてもらうことを期待した.また,執筆に時間がかかったため当初の記述から内容が古くなったものは,後から変更加筆しできるだけ更新したつもりである.
本書は炎症編と腫瘍編の2部(2冊)構成となっている.炎症編は7章からなり,全章にわたって疾患項目をできるかぎり多く網羅し解説を加え,非常に多くの画像を呈示していることが本書を手にすればわかっていただけるものと思われる.第1章には昨今関心の高いIBDを取り上げた.とくに潰瘍性大腸炎より一般臨床医にはなじみのうすいクローン病を,今後増加傾向が見込まれることよりあえて潰瘍性大腸炎よりも前の項に置いた.IBDは病態生理も諸説あり免疫,遺伝子,他の因子など多岐にわたるので,より実践的に診断・治療指針を中心に記している.第2章の感染性腸炎,第6章の全身性疾患(血管炎,アミロイドーシスなど),その他の章でも疾患項目,内容など他書よりも充実したものになったと自負している.画像を多くしたため紙面の制約からIBSなどの機能的疾患は除外したが,便秘治療は「第7章Ⅶ.宿便性潰瘍」の項に記しておいた.
本書は,疾患をできるだけ網羅しその病態生理,鑑別診断,治療ならびにふんだんな画像を盛り込んでおり,このようなスタイルの単著は他にあまり見ないものと思っています.本書が先生方の日常診療に役立つことを願っています.
本書作成に当たり,患者さんの診療に苦楽をともにし,画像提供にも多大な協力をいただきました村野実之先生をはじめ諸先生方に深く感謝いたします.また,本書完成に向けて終始大変な作業・協力をしていただきました(株)日本メディカルセンターのスタッフの皆様に感謝いたします.
最後に,私事で恐縮ですが大学勤務時代から今まで小生を支えてくれた妻の桂子に感謝の想いを伝えたいと思います.
2022年8月
医療法人伯鳳会大阪中央病院消化器内科 顧問
医療法人正啓会西下胃腸病院 名誉院長・顧問
藤田医科大学 客員教授
平田 一郎