臨牀消化器内科 2023 Vol.38 No.5 消化管狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術

  • ページ数 : 128頁
  • 書籍発行日 : 2023年4月
  • 電子版発売日 : 2023年4月19日
¥3,300(税込)
ポイント : 60 pt (2%)
今すぐ立ち読み
今すぐ立ち読み

商品情報

内容

特集「消化管狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術」

消化管狭窄に対するEBDは、一般の急性期病院であれば、頻度は高くないが、時に必要となる内視鏡手技である。手技の難易度は高くはなく、ある程度の内視鏡経験があれば実施可能である、ひとたび穿孔等の偶発症が生じると重篤化する症例もあり、安全にEBDを実施するには、一定の経験に基づく“さじ加減”が必要である。(編集後記より抜粋)

≫ 「臨牀消化器内科」最新号・バックナンバーはこちら

※本製品はPCでの閲覧も可能です。
製品のご購入後、「購入済ライセンス一覧」より、オンライン環境で閲覧可能なPDF版をご覧いただけます。詳細はこちらでご確認ください。
推奨ブラウザ: Firefox 最新版 / Google Chrome 最新版 / Safari 最新版

序文

巻頭言―本特集を企画するにあたって―


EBDの手技の確立

消化管狭窄に対する拡張術は,現在はどの消化管の部位においても軟性内視鏡の鉗子チャンネルを通したバルーンを用いた内視鏡的バルーン拡張術(endoscopicballoon dilation;EBD)が主流である.

消化管狭窄に対する拡張術の歴史を振り返ると,当初は食道の良性狭窄に対して硬性鏡やブジーを用いて透視下で行われていた1).その後,1970年代に入り軟性内視鏡の発展により,内視鏡で狭窄部を直視して鉗子チャンネルからガイドワイヤを通過させ,透視下にダイレータで拡張する方法が開発された2).この手技に使用された軟性内視鏡の「オリンパスEF」は,当時初めて送気・送水・吸引が内視鏡操作部に組み込まれたファイバースコープであり3),現在のEBD手技の原形をつくった.1980年代に入り血管拡張用バルーンカテーテルを消化管に応用したバルーン拡張術が行われるようになったが4),この時点では内視鏡の鉗子チャンネルからのバルーン拡張は8 mmが上限で,それ以上の拡張は内視鏡を抜去して透視下でのバルーン拡張が必要であった5).しかしながら1980年代後半には,内視鏡の2.8 mm鉗子チャンネルを通過するバルーン(Microvasive社製のRigiflex TTSバルーンダイレータ)が開発され,内視鏡下で18 mmの拡張まで可能となり6),本邦においても同年にその手技が報告されている7).その後さらに一つのバルーンで3段階の径で拡張できるcontrolled radial expansion(CRE)バルーン(Boston Scientific社)が開発され8),1回の手技で徐々に圧力と口径を上げての拡張術が可能となり,現在のEBDはこれらのバルーンで行われている.


EEBDの安全性

このような手技の変遷がある消化管狭窄に対するEBDであるが,その安全性についてはどうであろうか.

日本消化器内視鏡学会は1983年から2012年まで5年ごとに計6回の消化器内臨視鏡関連の偶発症の全国調査を行っている.この調査では第1回(1983~1987年)9),第5回(2003~2007年)10),第6回(2008~2012年)11)において消化管狭窄解除術の偶発症が記載されている.第1回は4,201件中13件(0.31%)で偶発症が発生している.第5回は施行が48,176件に増加しているが,偶発症は87件(0.181%)と低下している.これは前述した透視下でのバルーン拡張から,CREバルーンを用いたEBD手技への発展の影響も大きいと思われる.第6回の調査では,より詳細なデータが公表されており,消化管狭窄解除術全体では,61,601件中196件(0.318%)の偶発症発生であるが,バルーン拡張に限定すると,48,728件中103件(0.211%)であった.しかしながら4件(0.008%)の死亡が発生しており(食道1件,十二指腸1件,大腸2件),EBDは未だに一定のリスクを伴う手技と認識される.

現在,消化管の狭窄拡張術は,日本消化器内視鏡学会の専門医を取得するために必須の治療手技の一つである.専門医試験の受験資格の要件の一つに20例の治療内視鏡の症例要約の提出があるが,その治療内視鏡手技には,① 切除術,② 止血術,③ 狭窄拡張・ステント挿入の3手技を必ず含むことになっている.

前述の日本消化器内視鏡学会の第6回全国調査では,それぞれの偶発症発生率は11),① の切除術を内視鏡的粘膜切除術に置き換えると0.569%,止血術は0.067%,狭窄拡張術は0.318%であり,狭窄解除術は専門医を取得するための3大内視鏡手技において中等度の偶発症リスクを伴う手技である.


EBDの標準化

そのような観点から消化管狭窄に対するEBDは,他の手技と比較して標準化についてはどうであろうか.2021年に日本消化器内視鏡学会から「クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン」が公表された12).これにより手技の標準化がなされ,小腸狭窄においてより安全なEBDが実施されることが期待される.しかしながら,その他の臓器・疾患に対するEBDについては,未だ標準化はなされていない.

欧米では,クローン病に対するバルーン拡張術のガイドライン13),14)と,食道疾患に対する拡張術のガイドラインが公表されている.とくに後者は英国消化器病学会が2004年に初版15)を,2018年には第2版16)を公表しており,食道の疾患ごとに詳細な解説がなされている.

今後は本邦においても,とくに頻度が高い食道狭窄についてはなんらかのガイドラインの整備が望まれるが,消化管狭窄のEBDは本邦においてもエビデンスが少ない領域である.また消化器疾患を対象とした本誌のような雑誌においてもEBDに関する特集が組まれることがほとんどなく,各施設の経験に基づいた手技が継承され指導されている印象をもっている.そこで本特集では,「消化管狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術」と題し,各臓器,疾患別に経験が豊富な施設,医師に執筆を依頼し,とくに実際の症例をもとに具体的な手技の解説をお願いした.実地医家の先生方や,これから専門医を取得する若手内視鏡医が,EBDが必要な場面に遭遇したときに本号を活用していただければ幸いである.


2023年2月

editor 山本 頼正
日立造船健康保険組合因島総合病院


【文献】

1) Holinger PH, Johnston KC, Potts EJ, et al:The conservative and surgical management of benign strictures of the esophagus. J Thorac Surg 28;345‒363;discussion, 363‒366, 1954

2) Lilly JO and McCaffery TD Jr:Esophageal stricture dilatation. A new method adapted to the fiberoptic esophagoscope. Am J Dig Dis 16;1137‒1140, 1971

3) Ⅷ.内視鏡医療機器の進歩 オリンパス.Gastroenterol Endosc 62;2857‒2869,2020

4) London RL, Trotman BW, DiMarino AJ Jr, et al:Dilatation of severe esophageal strictures b y an inflatable balloon catheter. Gastroenterology 80;173‒175, 1981

5) Kozarek RA:Endoscopic Gruntzig balloon dilation of gastrointestinal stenoses. J Clin G astroenterol 6;401‒407, 1984

6) Graham DY, Tabibian N, Schwartz JT, et al:Evaluation of the effectiveness of through‒the‒scope balloons as dilators of benign and malignant gastrointestinal strictures. Gastrointest E ndosc 33;432‒435, 1987

7) 岡野 均,児玉 正,辻 秀治,他:上部消化管狭窄に対する内視鏡直視下バルーン拡張術の試み.Gastroenterol Endosc 29;735‒738,1987

8) Goldstein JA and Barkin JS:Comparison of the diameter consistency and dilating force o f the controlled radial expansion balloon catheter to the conventional balloon dilators.Am J Gastroenterol 95;3423‒3427, 2000

9) 春日井達造,並木正義,本田利男,他:消化器内視鏡の偶発症に関する全国アンケート調査報告 1983年(昭和58年)より1987年(昭和62年)までの5年間.Gastroenterol Endosc 31;2214‒2229,1989

10) 芳野純治,五十嵐良典,大原弘隆,他:消化器内視鏡関連の偶発症に関する第5回全国調査報告 2003年より2007年までの5年間.Gastroenterol Endosc 52;95‒103,2010

11) 古田隆久,加藤元嗣,伊藤 透,他:消化器内視鏡関連の偶発症に関する第6回全国調査報告 2008年~2012年までの5年間.Gastroenterol Endosc 58;1466‒1491,2016

12) 山本博徳,矢野智則,荒木昭博,他:クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン(小腸内視鏡診療ガイドライン追補).Gastroenterol Endosc 63;2253‒2275,2021

13) Rieder F, Bettenworth D, Ma C, et al:An expert consensus to standardise definitions,diagnosis and treatment targets for anti‒fibrotic stricture therapies in Crohn’s disease.Aliment Pharmacol Ther 48;347‒357, 2018

14) Shen B, Kochhar G, Navaneethan U, et al:Practical guidelines on endoscopic treatment for Crohn’s disease strictures:a consensus statement from the Global Interventional Inflammatory Bowel Disease Group. Lancet Gastroenterol Hepatol 5;393‒405, 2020

15) Riley SA and Attwood SE:Guidelines on the use of oesophageal dilatation in clinical practice. Gut 53(Suppl 1);i1‒i6, 2004

16) Sami SS, Haboubi HN, Ang Y, et al:UK guidelines on oesophageal dilatation in clinical practice. Gut 67;1000‒1023, 2018

目次

【特集目次】 「消化管狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術」

巻頭言 /山本 頼正

1.EBDの適応と治療前の評価/田中 匡実,菊池 大輔 他

2.EBD施行時の抗血栓薬の取り扱い/前嶋 恭平,小野 敏嗣 他

3.EBDにおける処置具の選択と手技の注意点/北見 元哉,青山 育雄 他

4.EBD施行時の偶発症とその対策/港 洋平 他

5.EBD後のステロイド局注の有用性/由雄 敏之 他

6.食道癌ESD後狭窄のEBD/高橋亜紀子 他

7.食道癌術後・化学放射線治療後の狭窄に対するEBD/吉永 繁高 他

8.上部消化管の良性疾患瘢痕狭窄に対するEBD/吉田詠里加 他

9.小腸疾患に対するEBD/大和田 潤,矢野 智則

10.大腸疾患に対するEBD/横山 薫 他

11.消化管術後狭窄に対するRIC法/山崎 剛明,矢野 友規

〔連載〕「胃炎の京都分類」の使い方 第11回 自己免疫性胃炎の萎縮未完成期内視鏡像(初期像を含む)の特徴/小寺 徹

〔連載〕内視鏡の読み方 内視鏡的に三つのコンポーネントを有した胃底腺粘膜型腺癌の1例/吉田 尚弘 他

〔講座〕消化器内科医が知っておきたい内視鏡AI ―検出支援システム(CADe),病理診断予測(CADx)の普及状況/森 悠一 他

〔連載〕胆 膵超音波内視鏡の読み方と描出法 第11回 膵嚢胞性病変4/前原 耕介,肱岡 範

〔連載〕消 化管異物の診断と治療 成人胃内異物の内視鏡治療/田邉  聡 他

〔連載〕大腸ポリープに挑む 第12回 大腸がん検診・大腸ポリープ切除後サーベイランスにおけるリスク層別の意義 ―大腸内視鏡検査の有効活用に向けて/関口 正宇

便利機能

  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応
便利機能アイコン説明
  • 全文・
    串刺検索
  • 目次・
    索引リンク
  • PCブラウザ閲覧
  • メモ・付箋
  • PubMed
    リンク
  • 動画再生
  • 音声再生
  • 今日の治療薬リンク
  • イヤーノートリンク
  • 南山堂医学
    大辞典
    リンク
  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応

対応機種

  • ios icon

    iOS 10.0 以降

    外部メモリ:15.8MB以上(インストール時:34.4MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:63.3MB以上

  • android icon

    AndroidOS 5.0 以降

    外部メモリ:15.8MB以上(インストール時:34.4MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:63.3MB以上

  • コンテンツのインストールにあたり、無線LANへの接続環境が必要です(3G回線によるインストールも可能ですが、データ量の多い通信のため、通信料が高額となりますので、無線LANを推奨しております)。
  • コンテンツの使用にあたり、M2Plus Launcherが必要です。 導入方法の詳細はこちら
  • Appleロゴは、Apple Inc.の商標です。
  • Androidロゴは Google LLC の商標です。

書籍情報

  • ISBN:9784004003805
  • ページ数:128頁
  • 書籍発行日:2023年4月
  • 電子版発売日:2023年4月19日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:2

まだ投稿されていません

特記事項

※ご入金確認後、メールにてご案内するダウンロード方法によりダウンロードしていただくとご使用いただけます。

※コンテンツの使用にあたり、M2Plus Launcherが必要です。

※eBook版は、書籍の体裁そのままで表示しますので、ディスプレイサイズが7インチ以上の端末でのご使用を推奨します。