第3版の序
初版の出版から12 年,改訂版の出版から8 年が過ぎた.改訂版においては冠動脈のみならず全身の血管診療にあたることは循環器医にとって標準的なことになったと執筆したが,今や,特に下肢末梢動脈診療においては,ガイドライン改訂において,血管外科医,放射線科と協力して作成するにいたっている.したがって,本書は初版時,循環器医への啓蒙のために出版したが,今や循環器医のみならず,血管外科医,放射線科の若手医師への末梢動脈血管内治療(EVT)の入門書としての役割を担うことになった.
本邦のEVT は諸外国とは異なり,循環器医が中心となって発展してきたため,0.014 ガイドワイヤーが好まれ,マイクロカテーテル,CTO 専用ワイヤー,モノレールバルーンの開発が行われ,また手技においてもリエントリーデバイスが未承認のため,各種逆行性アプローチが発達した.また,血管内超音波(IVUS)はPCI において世界で最も高頻度に使用されているが,EVT においても高率に使用され,石灰化病変の評価に有効な光干渉断層法(OFDI)も臨床使用が可能となった.IVUS ガイドEVT はアンギオガイドよりも血管イベント低下のみならず費用対効果にも優れていることが欧米より報告され,イメージングガイドEVT は世界が注目し,日本がその中心的役割を担っている.
改訂版作成時は浅大腿動脈領域においてステントは薬剤溶出性ステント(Zilver® PTX®)を含む3 種類が臨床使用可能となったと記載したが,その後ステントグラフト(VIABAHN®),interwoven ステント(Supera™),薬剤溶出性ステント(ELUVIA™)が臨床使用可能となっている.また,今や浅大腿動脈領域治療の中心的役割を担っている薬剤溶出バルーン(DCB)は3 種類が使用可能となっており,さらに新規参入が予定されている.このような多くの新規デバイスの導入により病変形態に応じた治療戦略が構築できるようになった.末梢動脈において無症候性頸動脈,無症候性腎動脈領域は内科的治療の進化により,無作為比較試験でエビデンスを確立することができずEVT の適応は減少している.一方で下肢末梢深部静脈領域に専用の静脈ステント,血栓吸引デバイスが承認され,海外とのデバイスラグの解消が期待される.また,腎動脈デナベーション治療も新たなデバイスが開発されエビデンスが蓄積し新たな臨床使用が近づいている.このように,この8 年間でEVT 領域に大きな変化が生じたために,第3 版への改訂が必要となった.
私の経験からは,EVT 学習の最も効率的な方法は教科書を読むよりも熟練した術者の手技を見ることであり,私も毎年国内外のライブコースへ参加した.国内外におけるEVT ライブコースはWEB 環境も整備され格段に増加したが,皆がいつもこのような会に参加できるわけでなく,ライブで見たような実技を中心とした教科書があればこれからのEVT を志す若手医師に大いに参考になることは間違いない.初版,改訂版と同様に現場でEVT を数多く施行している先生に執筆をお願いし,症例を多く盛り込み,より実践的でライブに参加しているような感覚で読んでいただければとの思いで編集した.本書がこれからEVT をはじめようとする若手医師の手引書となり,経験医師にとっても新たな気づきとなり,患者の予後改善につなげていただく手助けになることを願う.
2023年7月
福岡山王病院 病院長
横井宏佳