まえがき

超高齢社会に突入し、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になりつつあります。それに反して、医療の方向は、入院期間の短縮化や長期療養型病院の縮小に向かっています。このような現状から、今後、在宅医療や施設介護がますます必要とされ、そこに期待せざるをえません。そして国は、その期待に応えるための、さらなる在宅医療推進の方向での取り組みを検討しています。しかし、その期待に果たして応えられるような十分な体制が整えられるのか、在宅医療難民が出てくるのは必至ではないかとの危惧も否めません。

そして、これからますます、在宅医療や施設介護の一端を担う訪問看護師の質の向上や、役割の拡大が求められていきます。しかし、現場においては、少人数制の訪問看護ステーションが多数を占め、質の確保のための研修などに十分参加できないジレンマも問題となっています。

そのような現状を踏まえて、現場の実践に役立ててもらうための本を作成しましたが、今回は、さらにバージョンアップを図り、「認知症患者への訪問看護」のチャプターを新たに加えました。現在介護保険適用の患者数が医療保険よりもはるかに多く、その中でも認知症患者への支援の割合が大きくなっていると、現場では実感しています。そのため看護師は認知症患者に対する専門的知識を持って対応すべきだと思います。

従って、Web動画の内容としてもこれまでに加えて「認知症患者への訪問看護」を盛り込みました。そして、これからは、ますます在宅でのチームアプローチ・情報共有（医師、看護師、理学療法士、介護職、ケアマネジャー、薬剤師、歯科医師・衛生士など）が必要となります。その多職種協働をスムーズに進め、現場でそれぞれの力を発揮するためには、訪問看護師やケアマネジャーが要となることが求められると思います。その部分もCHAPTER １に「ケアマネジャーの役割」として追加しました。さらに、TOPICSとして「暴力・ハラスメントへの予防と対応」を、事例を交えて追加しました。

これらの動画や事例により、さらに手技の動きや対応が理解しやすくなると思います。

また、この本の特徴として、患者さんおよびご家族のご了解、ご協力のうえで、現場で撮影した写真を使用していることが挙げられ、これまでの教科書とは一味違う、リアリティーのある本に仕上がっています。

この本を、現在訪問看護を実践している方の手引書として、また、これから訪問看護を始める方や看護学生の教材などに利用していただきたいと願っています。

さらには、介護職の方々にも、状態の安定した患者さんに対する吸引や人工肛門のパウチ交換などの実施が認められる時代になっています。在宅だけではなく介護施設においても、医療依存度が高い患者さんを介護している現状があります。これらの現状から、看護職だけではなく介護職やケアマネジャーなどの皆さんへも、幅広くこの本を活用していただき、知識や技術の向上、現場での実践に、少しでも役立つことを期待しています。

最後に、撮影にご協力いただきました患者さん、ご家族の皆様に深く感謝いたします。

令和5年7月 吉日

押川 真喜子