言語聴覚士のためのAAC入門

  • ページ数 : 256頁
  • 書籍発行日 : 2017年12月
  • 電子版発売日 : 2024年9月25日
4,400
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商品情報

内容

障害がある人のコミュニケーションを支援するために必要な、知識、技術、情報を網羅!

AAC(拡大・代替コミュニケーション)の定義、構成要素や導入の流れ(5W1H)を概観したうえで、知的能力障害、自閉スペクトラム症、構音障害、失語症と発語失行におけるAACのニーズや導入に際して必要な検査、アプローチの方法、実践例を具体的にわかりやすく解説しました。
言語聴覚士が臨床で出会う、さまざまな症状をもつ人たちのコミュニケーション能力の向上を支援するためのヒントを多く得ることができます。

序文

はじめに

「ホーキング博士のコミュニケーションエイド,ってどうなっているの?」言語聴覚士(本書ではSTと表記します)の方なら,一度は疑問に思ったことがあるでしょう.著名な科学者だから享受できる特殊で高度なシステムなのだろうか.いつかあの機器が市販されて,自分の担当する患者さんにフィッティングできる日は来るのだろうか.若い頃の私は,そう思っていました.

私が30年来担当する,アテトーゼ型脳性麻痺の青年がいます.ユーモアと思いやりがあり,パソコンの設定などはちょっと凝り性なところのある青年です.発語はありません.彼はトーキングエイド,Ke:nx On:Board,IntelliKey,フレキシボード,とディバイスをいくつも乗り換え,今は呼吸に影響しない姿勢を探りながら,視線入力を検討しています.彼が特別支援学校の高等部を卒業するときに約束したことがあります.「いつかホーキング博士のコミュニケーションエイドが手に入るようになったら,きっと使えるようにするからね」

情報通信技術(ICT:Information Communication Technology)は,私たちの想像をはるかに超える速度で進歩を続けています.かつて数百万円していた視線入力装置は,100分の1の価格で手に入るようになりました.ゲーム市場が巨大化した恩恵です.急成長したスマホゲームの市場規模は,日本・アメリカ・中国の3カ国でそれぞれ1兆円を超える勢いだそうです.子どもの頃に読んだ小説『ジョニーは戦場へ行った』で,主人公はわずかな頸の動きでモールス信号を産生し,気の遠くなるほどの試行錯誤を経て,意思を伝えました.

「念じたことがそのまま伝わればいいのに」

そう思っていたことがブレインマシンインターフェース(BMI:Brain Machine Interface)の実用化によって,手の届く距離まで近づいてきました.AAC(Augmentative and Alternative Communication,拡大・代替コミュニケーション)は,日本では重度コミュニケーション障害者のハイテク・ディバイスのイメージが定着しているように思います.たしかにAAC における支援技術の粋を持って,障害児者のコミュニケーション生活を劇的に変える可能性があることは事実です.しかしAAC の包括的な概念は,日本に正しく伝わっていないかもしれません.

この本は,アメリカのSLP(Speech-Language Pathologist)のD.Beukelmanによって編集され,長年読み継がれているAACのテキストブックや,ASHAのAACに関する見解を参考にしながら,AACを実践するための臨床技術を若手STに伝えるために書きました.また共著者には,各障害領域で一家言をもち,活躍する現役のSTに執筆をお願いしました.STとしての経験と洞察に裏打ちされた概説と実践例を,読者へのメッセージを込めながら書いてくれました.多忙を極める中,執筆の労を執ってくださった共著者に感謝申し上げます.

文章を書き進め,共著者とやりとりするうちに,かねて思っていたことが浮かび上がってきました.どのSTも意識的に,あるいは無意識に,広義のAACを通常の臨床活動の中で実践している,と.これについては,諸先輩方のご意見,ご指導を賜りたいと考えます.ひとりのST がその生涯で出会い,支援できる患者さんの数は限られています.この本が若いST の臨床の一つの引き出しの中に静かに根を下ろし,コミュニケーション支援を必要とする人々の社会参加の機会が広がることに繋がれば,これ以上の望みはありません.

最後に,協同医書出版社の関川宏さんに忍耐強くお付き合いいただき,ようやく出版の運びとなりましたことを心から感謝申し上げます.


2017年11月

知念 洋美

目次

【第1章】総論AACの5W1H(知念洋美)

Ⅰ.WHAT? AACの定義〜AACって何?

 1.AACの定義

 2.AACの構成要素

  記号(symbol)/形態(form)/行動計画(strategy)/入力・出力技術(technique)

Ⅱ.WHY? AACの背景と目的〜なぜ導入するのか?

Ⅲ.WHO? AACの対象と支援者〜誰が恩恵を受け,誰が支援をするのか?

Ⅳ.HOW? AAC 導入の流れ〜どのように導入するのか?

 1.現在のコミュニケーション評価

  現在のコミュニケーション手段〜しているコミュニケーション/活動参加機会とコミュニケーションニーズ/AAC活用能力〜できるコミュニケーション

 2.目標設定

  「今日のAAC」の目標設定/「明日のAAC」の目標設定

 3.実践

 4.効果測定

 5.フォローアップ

Ⅴ.WHERE? AACの導入場面〜どこでサービスを提供するのか?

Ⅵ.WHEN? AAC導入時期〜支援の時期はいつか?

【第2章】知的能力障害および小児期発症の運動機能障害におけるAAC(知念洋美)

Ⅰ.言語症状と予後の概観

 1.原因と症状

  知的能力障害および小児期発症の運動機能障害の主たる原因/知的能力障害でみられる言語・コミュニケーション症状/小児期の運動機能障害でみられる言語・コミュニケーション症状

 2.機能改善のためのアプローチ

  言語発達を促すアプローチ/発声,構音機能の獲得・改善へのアプローチ/活動参加を支援するアプローチ/家族・保護者と支援者を支援するアプローチ

 3.一般的な予後とAAC適用の考え方

  予後に影響する因子/AACを適用する際のSTの視点

 4.本人・家族・支援者のニーズ

  本人の障害認識とニーズ/家族の障害認識とニーズ/支援者の障害認識とニーズ

Ⅱ.AAC導入のための掘り下げ検査

 1.姿勢・運動面で確認しておくこと

 2.感覚入力で確認しておくこと

 3.認知面で確認しておくこと

 4.言語・コミュニケーション面で確認しておくこと

 5.心理面で確認しておくこと

 6.社会的資源で確認しておくこと

Ⅲ.AACの考え方を軸にしたアプローチ

 1.異なるモダリティの記号を媒介に言語発達を促すアプローチ

 2.実用的コミュニケーションを拡大するアプローチ

  好きな物を選ぶ/要求/拒否/yes-no表現/報告/やりとり/質問/会話の調整

 3.子どもの支援者への支援

  モデリング/AACに関する情報共有/語彙のマネジメント

Ⅳ.臨床における実践例

 1.Aさん:発語困難な言語発達障害児

 2.Bさん:発語を拡大した脳性麻痺児

 3.Cさん:四肢麻痺と知的能力障害の重複障害児

 4.Dさん:視覚聴覚二重障害等の重複障害児

・コラム 視覚障害(東江浩美)

・コラム 視覚聴覚二重障害,盲ろう(東江浩美)

【第3章】自閉スペクトラム症におけるAAC(東川 健)

Ⅰ.主な症状と予後の概観

 1.原因と症状

 2.ASDのある人へのアプローチ

 3.一般的な予後とAAC適用の考え方

  予後に影響する因子/AACを適用する際の視点

 4.本人・家族・支援者のニーズ

  本人の障害認識とニーズ/家族の障害認識とニーズ/支援者の障害認識とニーズ

Ⅱ.AAC導入のために行う評価

 1.姿勢・運動面で確認しておくこと

 2.感覚入力で確認しておくこと

 3.認知面で確認しておくこと

 4.言語・コミュニケーション面で確認しておくこと

  言語発達全般の評価/視覚的記号のレベルについての評価/コミュニケーションについての評価/会話面についての評価

 5.心理面で確認しておくこと

 6.社会的資源で確認しておくこと

Ⅲ.AACの考え方を軸にしたアプローチ

 1.ASDなどの発達障害におけるAACアプローチの考え方と課題

 2.記号の学習

 3.ディバイスの選択

 4.ストラテジー

  個別化/連携と日常場面への支援

Ⅳ.臨床における実践例

 1.Eさん:発語困難なASD児

 2.Fさん:聴覚障害を重複するASD児

 3.Gさん:知的機能に遅れのないASD児

・コラム 発達性読み書き障害(東川 健)

【第4章】構音障害におけるAAC(西脇恵子)

Ⅰ.言語症状と予後の概観

 1.原因と症状

  構音障害の主たる原因/構音障害で見られる主な症状

 2.機能改善のためのアプローチ

  運動や感覚の機能に直接アプローチする方法/代償手段を使ってアプローチする方法/コミュニケーション行動全般を向上させる意義

 3.一般的な予後とAAC適用の考え方

  構音障害の予後に関係する因子/AACを適用する際のSTの視点

 4.本人・家族・支援者のニーズ

  患者本人の障害認識とニーズ/家族・介護者の障害認識とニーズ/支援者の障害認識とニーズ

Ⅱ.AAC導入のための掘り下げ検査

 1.姿勢・運動面で確認すること

  発声発語器官の運動機能/上肢・下肢・体幹・顔面の感覚や運動機能/発話に関する明瞭度/疾患特異の重症度や機能分類

 2.感覚入力で確認すること

  聴覚の検査/視覚の検査/触覚の検査

 3.認知面で確認しておくこと

  意識レベル/全般的な知能/記憶の機能/遂行機能

 4.言語・コミュニケーション面で確認しておくこと

 5.心理面で確認しておくこと

 6.社会的資源で確認しておくこと

Ⅲ.AACの考え方を軸にしたアプローチ

 1.歯科補綴装置:運動機能にアプローチする方法

 2.ジェスチャー:外部手段を使わないアプローチ

 3.表情:外部手段を使わないアプローチ

 4.口形を見る方法:外部手段を使わないアプローチ

 5.口形と文字列を並列させる方法:外部手段を使わないアプローチ

 6.書字:ローテクノロジーな手段

 7.文字盤:ローテクノロジーな手段

  五十音表を指さす方法/透明文字盤:ローテクノロジーな手段

 8.コミュニケーション専用の機器を使う方法:ハイテクノロジーな手段

  トーキングエイド/レッツチャット/ボイスキャリー ペチャラ

 9.コンピュータやタブレットなど汎用機器を使う方法:ハイテクノロジーな手段

  トーキングエイドfor iPad/指伝話/指伝話ボード/伝の心/オペレートナビTT/ハーティーラダー

 10.音声合成ソフトを使用する

 11.入力の方法

Ⅳ.臨床における実践例

 1.Hさん:パーキンソン病

 2.Iさん:ALS

 3.Jさん:ALS

 4.Kさん:小脳梗塞

 5.Lさん:脳外傷

・コラム 聴覚障害(木場由紀子)

【第5章】失語症と発語失行におけるAAC(吉畑博代,村西幸代)

Ⅰ.言語症状と予後の概観

 1.原因と症状

  原因/主な症状

 2.機能改善のためのアプローチ

  刺激・促通法/機能再編成法/認知神経心理学的アプローチ

 3.一般的な予後とAAC適用のための考え方

  回復に影響する因子/AACを適用する際のSTの視点

 4.本人・家族・支援者のニーズ

  本人の障害認識とニーズ/家族の障害認識とニーズ/支援者の障害認識とサポート

Ⅱ.AAC導入のための掘り下げ検査

 1.姿勢・運動面で確認しておくこと

 2.感覚入力で確認しておくこと

  視覚/聴覚

 3.認知面で確認しておくこと

 4.言語・コミュニケーション面で確認しておくこと

  言語面/コミュニケーション面/言語・非言語を用いたコミュニケーションの運用面

 5.心理面で確認しておくこと

 6.社会的資源で確認しておくこと

Ⅲ.AACの考え方を軸にしたアプローチ

 1.発展段階にいる人たち

 2.状況文脈を利用して選択を行う人たち

 3.自立前の状態にいる人たち

 4.機器の保存メッセージを使う人たちと新しいメッセージをつくり出す人たち

 5.特定のニーズをもつ人たち

  スマートフォンを使用した喚語思い出し支援アプリ/要約字幕作成支援ソフト

Ⅳ.臨床における実践例

 1.Mさん:前言語訓練【村西 幸代】

 2.Nさん:言語機能訓練からAAC のディバイスとして活用【村西 幸代】

 3.Oさん:描画やジェスチャーの訓練【村西 幸代】

 4.Pさん:携帯電話のメール操作訓練【吉畑 博代,平山 孝子】

 5.まとめ【吉畑 博代,村西 幸代】

・コラム 高次脳機能障害(西脇恵子)

・言語聴覚士向けのリソース(知念洋美)

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書籍情報

  • ISBN:9784763995735
  • ページ数:256頁
  • 書籍発行日:2017年12月
  • 電子版発売日:2024年9月25日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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