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- 難治性ネフローゼ症候群 巣状分節性糸球体硬化症 FSGSの臨床
商品情報
内容
序文
序文
私は,1984年に大阪医科大学を卒業し,すぐに東京女子医科大学腎臓病総合医療センター腎臓小児科に入局しました。入局の理由は,透析中のこどもたちを腎移植で救いたいと思ったからです。それから39年間,ただただ目の前の患者さんとご家族が無事に退院して自宅へ帰れることのみを願いながら診療を続けてきました。
私が医師になった1984年頃は,透析と腎移植の黎明期が過ぎ(わが国では1965年に小児腎移植,1966年に小児維持透析の最初の報告),次の発展期(1984年にCAPD,1985年にシクロスポリン,1990年にエリスロポエチンが保険適用)に向かう直前の時期でした。そのため,入局当時の透析患者さんは,重い合併症(高度な貧血,腎性骨異栄養症,成長障害,心血管疾患など)に苦しみ,生きていくのが精一杯の状態でした。さらになんとか腎移植にたどりついても,当時の免疫抑制薬では制御できない拒絶反応による移植腎機能廃絶や,重篤な感染症で命を落とす患者さんを少なからず経験しました。
末期腎不全へ進行する小児難治性腎疾患は数多くありますが,難治性ネフローゼ症候群を呈する巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS,当時はFGSとよばれていました)は,低形成・異形成腎に次いで多い疾患でした。1984年当時は,FSGSの病因や病態は全く不明で,ステロイド以外の治療法はありませんでした。なすすべもなく目の前の患者さんが透析導入となり,合併症に苦しみながら維持透析に耐え,そして腎移植を実施しても一定数の患者さんは腎移植直後に再発してしまうというきわめて難治性の腎疾患でした。
FSGSの患者さんをなんとかしたいという強い想いでLDL吸着療法(1988年)を試みました。また,日常診療に追われながらもlipid-nephrotoxicity仮説(1982 年)をもとに脂質異常症を呈するラットの研究(1990年)を始めました。さらに,1989年に腎移植直後に再発した患者さんをまのあたりにし,一部のFSGS患者さんの病因にはなんらかの液性因子が関与していることを確信しました。医師になって最初の約6年間でこのような経験をし,「FSGSの臨床」が私の生涯にわたる診療および臨床研究の最重要テーマとなりました。
本書は,歴史的動向も加味した国内外の知見を踏まえながら,自身の経験と考えを「難治性ネフローゼ症候群:FSGSの臨床」としてまとめたものです。当然ながら,私の経験は限られており,また浅学のため,本書はFSGSの教科書とはなり得ません。また,本書で記述した内容のなかには,さらなる検証が必要な事項も多々あると思います。しかし,本書がほんの少しでもFSGS診療の参考になり,現在もなおFSGSに苦しんでいる患者さんとご家族に還元されることがあるとすれば,このうえない幸せです。
2023年5月
服部元史
目次
第1章 FSGSの疾患概念形成と最新の病因分類
1.リポイドネフローゼからFSGS提唱までの経緯
サイドメモ:①リポイドネフローゼ
サイドメモ:②剖検腎(小児ネフローゼ患者の生命予後)
サイドメモ:③国際小児腎臓病研究班(ISKDC)
サイドメモ:④経皮的腎生検の導入
サイドメモ:⑤FGSとFSGS
2.FSGSを惹起する液性因子
1.腎移植後FSGS再発と液性因子仮説の報告
サイドメモ:①Milestones in Nephrologyに選出
2.腎移植後FSGS再発に対する血漿交換療法
サイドメモ:②血漿交換療法(Plasmapheresis)
3.自施設で初めて経験した腎移植後のFSGS再発症例
4.液性因子仮説に対するヒトでの証左
3.FSGSを惹起する二次性病因
1.ウイルス
2.薬剤
3.糸球体高血圧・糸球体過剰濾過を生ずる疾患
4.FSGSを惹起する遺伝的病因
1.家族性FSGS症例の集積と遺伝学的解析
2.常染色体潜性遺伝形式をとる家族性FSGSの解析と遺伝子の同定
3.常染色体顕性遺伝形式をとる家族性FSGSの解析と遺伝子の同定
4.孤発性FSGS(sporadic FSGS)とNPHS2遺伝子異常
5.腎外症状を伴うFSGS(syndromic FSGS)と遺伝子異常
6.遺伝性FSGS研究に関する2000年初め以降の動向
5.FSGSの病因分類
第2章 FSGSの病態
1.一次性FSGSと液性因子
1.CLCF1
2.suPAR
3.抗CD40抗体
4.sCD40L
5.CASK
6.抗ネフリン抗体
サイドメモ:①一次性FSGS/MCDと自己抗体
2.腎移植後FSGS再発例の血漿によるポドサイト傷害・障害
1.ネフリン
2.インテグリン結合キナーゼ(integrin-linked kinase:ILK)
3.血管拡張因子刺激リン酸化タンパク質(vasodilator stimulated phosphoprotein:VASP)
4.TNF α(tumor necrosis factor-α)パスウェイ
サイドメモ:①培養ポドサイト
サイドメモ:②プロテアーゼとhemopexin(ヘモペキシン)
3.一次性FSGS/MCDと免疫細胞およびポドサイト
1.T細胞
2.樹状細胞
3.B細胞
4.ポドサイト
サイドメモ:①ゲノムワイド関連解析(genome wide association study:
GWAS)と疾患感受性遺伝子
4.遺伝性FSGSの原因遺伝子
1.原因遺伝子と機能的分類
2.原因遺伝子と腎外症状,腎外症状を伴う症候群・疾患
3.原因遺伝子や病的バリアントの人種や国による違い
4.原因遺伝子の病的バリアント検出率の年齢による違い
5.成人FSGS/SRNSの原因遺伝子
第3章 FSGSの病理
1.Columbia分類
1.Columbia分類提唱までの経緯
2.Columbia分類の定義
2.Cellular lesion(CELL)
1.CELLの病理像
2.CELLとcollapsing glomerulopathyの異同
3.CELLの臨床像
4.CELLのマクロファージ浸潤とメサンギウム細胞活性化
5.増生した糸球体上皮細胞:糸球体壁側上皮細胞(PECs)の可能性
3.Mitotic catastrophe
1.ポドサイトの剝離・脱落と糸球体硬化
2.さまざまな傷害因子によるポドサイト障害
3.尿中ポドサイト
4.一次性FSGSとmitotic catastrophe
4.Foot process effacement(FPE)
1.FPEの定量的評価
2.FPE定量的評価の臨床応用
5.IgGの沈着
6.Lipid-induced glomerular injury
1.マクロファージ
2.腎糸球体内脂質沈着
第4章 FSGSの診断
1.FSGSの病因分類と臨床病理像
2.二次性FSGSの診断
3.一次性FSGSと遺伝性FSGSの鑑別
4.一次性FSGSを示唆する臨床病理所見
5.FSGS/SRNSの原因遺伝子検索の適応
第5章 FSGSの治療
1.FSGSの病因分類に応じた治療
2.FSGS/SRNSの診断と治療
1.小児特発性ネフローゼ症候群と免疫抑制薬(歴史的動向)
2.小児特発性ネフローゼ症候群の治療反応性,免疫抑制薬の適応,治療経過
サイドメモ:①免疫抑制薬の選択
3.FSGS/SRNSに対する治療
3.難治性FSGS/SRNS(腎移植後再発を含む)に対するアフェレシス
1.LDL吸着療法
サイドメモ:①LDL吸着療法
2.血漿交換療法
サイドメモ:①血漿交換療法
3.免疫吸着療法
サイドメモ:①protein A
サイドメモ:②免疫グロブリン吸着カラム
4.一次性FSGS/SRNSと難治性FSGS/SRNSに対する免疫抑制薬
1.ステロイドパルス療法
2.カルシニューリン阻害薬
3.ミコフェノール酸モフェチル
4.リツキシマブ
5.オファツムマブ
6.アバタセプト
7.アダリムマブ
8.フレソリムマブ
5.抗ネフリン抗体陽性難治性FSGS例に対する治療
1.抗ネフリン抗体の除去
2.抗ネフリン抗体の産生抑制
3.超難治性腎移植後FSGS再発例に対する新規薬剤
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書籍情報
- ISBN:9784885637391
- ページ数:176頁
- 書籍発行日:2023年6月
- 電子版発売日:2024年12月13日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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