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- プライマリケアで診る発達障害
商品情報
内容
小児を診るすべての医師が扱うべき疾患、発達障害。
数年前まで発達障害の診療に真正面から取り組んだことがなかった、感染症専門医の著者が、何をどう学習し、どのように自らの診療体制を整えたかを記載。
自身の経験した事例をもとに編集して作成された実際的な内容の一冊。
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序文
発達障害は小児を診る医師すべてが扱うべき疾患であると考え,この本を執筆しました.例えば,喘息を診ることは小児プライマリケアで当然です.それと同様に発達障害もプライマリケアを担う医師が対応できなければならないでしょう.また,医療の対象は時代の変遷とともに変化しています.かつては生きるか死ぬかが医療の担う大きな問題でしたが,現在はむしろ生活の質の向上やよりよく生きるために医療があるといえます.その顕著な例が発達障害に対する医療ともいえるでしょう.
ある母親からこんな話を聞きました.彼女の就学前のお子さんには多動と衝動性がありました.育児が大変で,彼女は様々な勉強をして自分の子はADHD(注意欠如・多動症)ではないかと考えました.そして悩み逡巡したのち,思い切ってかかりつけ医(病院勤務医)に聞いてみました.その医師はその子のアレルギー疾患でのかかりつけでした.その医師は笑って,それは母親の甘やかしであると言いました.母親はひどく落胆し,その後しばらくは児の発達障害について誰にも相談することはありませんでした.私はこれを聞き,すべての小児科医は発達障害についての知識を一般的素養として持つべきと考えました.
筆者は地域総合小児医療を担当する医師で,専門は感染症です.10年前に開業し,数年前まで発達障害の診療に正面から取り組んだことはありませんした.しかし,それでは患者さんのニーズに応えることができないことに気づかされました.
全く初めての疾患を診療の対象とすることに決めてから,何をどう学習し,どのように自分の診療体制を整えたかを本書に記載しました.発達障害の診療は,日本においてあるいは世界的にもこの10年くらいで普及してきたものです.そういう点では,どのような医師にとっても初めての経験と言えます.本書では筆者の理解の過程をたどるとともに,関連領域にも触れ,さらに事例をあげての記述を行いました.
本書が同じような志向を有する方々に,実際的な内容を提供できているとすれば幸いです.勉強するとは,知識を集積することにとどまらずその疾患・患者さんの感触を体験できるようになることです.診断に際して,当初診断基準は必須ですが,そのうちにその疾患・患者さんの感触を体得すると,診断基準を超えていくことができます.
発達障害を勉強することは,筆者にとって医療に関連する他の領域を多く勉強することでした.その領域は生命科学としては神経科学が基礎であり,症状のとらえ方に心理学,支援についての看護学,さらに福祉の実際,教育,社会学・社会医学,文学・漫画などに広がりました.これは,筆者にとって実際の仕事上も知的にも楽しい作業でした.また,何名かの患者さんからはかなり親身になって,様々な問題点を教えていただきました.深謝します.
なお,本書で紹介した事例は,筆者が実際に経験した事例をもとに編集して作成したものです.特定の個人を示すものではありません.
本書では現場の息吹を伝えることに心がけました.そして,その現場の息吹を一般化・抽象化することを目標としました.抽象化できたとき,関連他領域といつの間にかつながっている実感を持てます.その時,他領域への理解が可能となります
そのような体験を皆様と共有できることを願っています
2016年 3月
黒木 春郎
目次
序章 かかりつけ医こそ発達障害診療を
発達障害と関わることは医療者の義務
発達障害診療の必要性と医療体制のギャップ
かかりつけ医こそ発達障害診療の基盤となるべき
どのようにして発達障害を学ぶか
第1章 発達障害の社会的背景
発達障害は増加しているか
医療化という概念
発達障害の医療化
発達障害は<認知の多様性>
発達「障害」という言葉をめぐる問題
発達障害に医療が介入することの意味
第2章 当院の診療体制
プライマリケアで発達障害診療に取り組んでみて
課題その1―採算性
課題その2―新しい疾患概念を診療に取り入れる方法
具体的な診療体制
第3章 発達障害を理解するために
発達障害を理解するためのポイント
専門外の医師が発達障害に取り組むには
<認知の多様性>を理解し生物学的基盤を身に付けること
疾患の具体的なイメージを持つこと
一人の患者さんとご家族から深く学ぶ
文学と発達障害
発達障害をどうとらえるか
第4章 システム神経科学からみた発達障害―自閉スペクトラム症における時空間処理と感覚統合
システム神経科学と発達障害
時間順序判断課題とは
時空間処理に関係する脳の活動
認知リハビリテーションの方法開発へ
第5章 学校教育の現場について
教育現場との連携の必要性
医療と教育は交わらない
個人情報に関する考え方の違い
医療の目的と教育の目的の違い
教育現場では何をしているのか
大原小学校の取り組み
学校の先生と患者さんの個人情報について話すときに注意すべきこと
学校の先生と連携するには
カンファレンスの具体例
子どもにとって学校とは何か
学校と様々な発達障害
具体的な役割分担を明確にすること
学校からの情報提供
第6章 薬物療法の実際
ADHD治療薬
合併疾患に対する治療薬
発達障害と医療・薬物療法
投薬の適応
合併する身体症状の治療
第7章 家族看護の視点から
研究成果1) 発達障害児を養育する母親の気づき
研究成果2) 発達障害児を養育中の母親の精神的健康の現状
研究成果3) 発達障害児を養育する家族のエンパワメントに関連する要因
研究成果4) 親が感じる養育上の自信のなさ
研究成果5) トリプルP(Positive Parenting Program)の実施効果
研究成果6) 児の診断と児への告知
症例編
症例1 N. S. 君(2歳 男児):乳幼児期のASD児に見られる特徴
症例2 B. R. 君(5歳 男児):幼児期のADHD児に見られる特徴
症例3 M. S. 君(8歳 男児):小学校低学年のASD児の症例
症例4 T. V. 君(9歳 男児):小学校低学年のADHD児に見られる特徴 その1「多動衝動」
症例5 W. W. 君(8歳 男児):小学校低学年のADHD児に見られる特徴 その2「不注意」
症例6 T. W. さん(12歳 女児):ASD児の身体症状としての遺糞への対応
症例7 B. N. さん(8歳 女児):発達障害の診断告知の難しさが際立った症例
症例8 D. T. 君(12歳 男児):より早期に治療を開始することが適切だったと思われるADHD児の症例
症例9 C. D. 君(13歳 男児):スクールカウンセラーの勧めで受診し治療が奏効したADHD児の症例
症例10 A. T. 君(8歳 男児):保護者との信頼関係構築後に治療的介入が可能となった症例
症例11 K. T. 君(12歳 男児):思春期を迎えた本人の意志で投薬を中止した症例
症例12 T. J. 君(8歳 男児):母親に困り感がなく,投薬を中断して経過観察となった症例
症例13 T. M. 君(8歳 男児):憔悴する母親の負担感を軽減することに主眼を置いた症例
症例14 O. S. 君(9歳 男児):心理検査(WISC―IV)結果のフィードバックを通じた学校との連携例
症例15 M. K. 君(10歳 男児):心理検査(K―ABCII)結果のフィードバックを通じた学校との連携例
症例16 T. N. さん(15歳 女児):ASD児の不眠と激しい常同運動に甘麦大棗湯が著効した症例
症例17 D. N. さん(18歳 女児):ASD児の不眠と激しい常同運動に抑肝散加陳皮半夏が著効した症例
症例18 E. I. 君(6歳 男児):選択性緘黙の児に抑肝散加陳皮半夏が著効した症例
症例19 C. A. 君(9歳 男児):ADHD治療薬の副反応に漢方薬が著効した症例
症例20 T. K. さん(15歳 女児):うつ状態の背景にASDが存在した症例
症例21 E. N. さん(47歳 女性):児の診察を契機に発見された成人のADHD症例7
症例22 Z. Z. さん(24歳 男性):難治性うつの背景に成人の発達障害が存在した症例
症例23 J. S. 君(13歳 男児):思春期の反抗挑発症の背景にADHDが存在する症例
症例24 U. H. 君(12歳 男児):思春期の素行症の背景にADHD,ASDが存在する症例
巻末資料
資料1 亀田クリニック発達外来問診票 問診票(保護者の方へ)
資料2 外房こどもクリニック 心理相談 問診表
資料3 外房こどもクリニック発達検査問診票
終わりに―多様性の受容または他者理解の可能性
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書籍情報
- ISBN:9784498145429
- ページ数:160頁
- 書籍発行日:2016年5月
- 電子版発売日:2016年7月1日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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