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- 感染症診療のロジック
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内容
序文
本邦では近年臨床感染症に対する医療者の関心が高まっています.感染症を適切に診断し治療出来るようになれば確実に患者の予後は改善しますので,これは非常に好ましいことです.
従来,本邦では臨床感染症に関する関心は低いと言わざるを得ませんでした.感染症学は医学の中でもマイナーな分野となりつつありました.理由の一つとして,20世紀のめざましい科学・医学の発展の中で抗菌薬・ワクチンなどの微生物に対抗する手段が発達し,感染症がやがては克服されるように見えたことが挙げられています.感染症の問題が社会や医療者の関心の的から外れていくのに伴い,感染症を専門とする方は減り,医学のなかでの扱いも徐々に小さくなっていったのです.
この趨勢の中で,医学部での医学生教育および医師臨床研修の中で臨床感染症に割かれる時間は削られ,軽視されるようになりました.その結果何が起こったでしょうか ? 感染症臨床においては適切な方法が広まらず,各人が経験のなかで見よう見まねで対処法を身につけていくという事態になりました.筆者は多くのベテラン医師から「自分たちは感染症について全くといっていいほどに学ぶことが出来なかった,誰も系統立てて教えてくれなかった」という声を頂いています.感染症の診療の過程では多くの困難なことがありますが,個々の医師は独学の方法で対処していくしかなかったのです.
臨床感染症への関心が再度高まるにつれて,適切な感染症診療の方法とその習得方法への関心が高くなりました.ここを提示できれば,多くの方々が無理なく感染症の診療方法を学び,臨床に役立てることが出来るようになります.
しかし,系統的な感染症診療の方法を伝える書物は殆どありません.感染症が「冬の時代」となるなかで,感染症診療の方法論については殆ど知見が積み重ねられてこなかったためでしょう.しかし幸い本邦では,臨床感染症の先駆者の先生方によって適切な感染症診療の方法が臨床現場で伝えられてきていました.私もその恩恵を被った一人です.しかし,本来このような診療の方法論は多くの医療者に伝えて実践して頂くべきものです.言語化して伝達を容易とし,なおかつ客観的な批判の目にさらしてこそ,この方法論は広く浸透しなおかつ深化していくと考えました.
そこで,本邦の先達の思考の枠組みを元に,実臨床のなかで念入りに検討を加ね,感染症診療の流れと要点をまとめ,感染症診療の構造を明らかにしようと試みたのが本書なのです.
本書は,南山堂の月刊誌「治療」に連載した内容を元にしました.執筆の間にも考えは深まっていったものですから,内容を全面的に見直し大幅に加筆修正を加えました.内容は,総論(キホン),各論(モンダイ)に分かれています.総論では感染症診療の考え方の筋道を解説しました.これが全ての基本であり,感染症診療の学びのなかでの最重要点です.各論では,患者さんの抱えてくる症状・異常所見などの「モンダイ」(この時点では患者さんや家族のことばレベルの問題であるので,あえてカタカナで記しています)を入り口とし,患者さんの「モンダイ」を的確な「医学的問題」の形に変換し具体的な診療につなげていく流れを解説しています.解説にあたっては,読者の皆さんの理解を促すために指導医と研修医の会話形式で内容を展開し,著者が解説していくという形をとりました.
本書の内容が読者の皆様の感染症診療に少しでも光を照らし,結果として本書が本邦の感染症臨床の失われた20年を取り戻し,その発展に寄与することを心より願っています.
2010年 2月
大曲 貴夫
目次
5つのロジックでわかる感染症診療のキホン
キホン1 抗菌薬に「使われて」いませんか ?
Ⅰ 抗菌薬適正使用って何 ?
Ⅱ 感染症診療-つまずくポイント-
Ⅲ 抗菌薬適正使用-その定義-
Ⅳ 感染症診療には,ロジックがある
キホン2 事件は現場で起きている-まずは患者背景を理解する-
Ⅰ 患者背景を知ることの実際
Ⅱ 患者背景を知ることがなぜ重要か
1.年齢・基礎疾患から微生物を推定する
2.曝露から微生物を推定する
キホン3 感染している臓器はどこだ ?
Ⅰ 臨床診断推論の,重要な切り口としての「臓器」,「系統」
Ⅱ 臓器を適切に絞っていくことは,感染症を診る目を豊かにする
1.臓器を詰めれば,患者の重症度を正確に把握することができる
2.臓器を詰めれば,微生物を推定することができる
3.臓器を把握しておけば,その後の患者の状態変化を把握するのに役立つ
キホン4 微生物プロファイリング-原因となる微生物は ?-
Ⅰ 微生物を詰めることがなぜ重要か ?
Ⅱ 微生物を詰めることと,抗菌薬治療との関係
Ⅲ 微生物を詰めるための2つのステップ-その実際-
1.原因となる微生物を推定する
2.微生物を同定することの意義
Ⅳ 微生物学的検査の実際
1.塗抹検査
2.培養検査
3.抗菌薬感受性試験
Ⅴ 微生物検査室に行こう!
キホン5 「強い抗菌薬」「弱い抗菌薬」なんて存在しない
Ⅰ 抗菌薬に「強い」「弱い」など,ない
Ⅱ 抗菌薬治療は2ステップ-empiric therapyからdefinitive therapyへ-
Ⅲ まずはempiric therapyを選ぶ
Ⅳ 次にdefinitive therapyに変更する
キホン6 Empiric therapyの選び方
Ⅰ 抗菌薬の選び方とは
Ⅱ Empiric therapy選択の実際
Ⅲ 「画期的な新薬」に対して,どう接するか ?
Ⅳ Empiric therapyの選択-どこまでカバーすべきか ?-
Ⅴ Empiric therapyの選択,再び-「常にフルカバーでなければならない」というドグマ ?-
キホン7 Definitive therapyの選び方
Ⅰ Definitive therapyは,そもそも必要なもの ?
Ⅱ Definitive therapyへの変更は,なぜ必要 ?
Ⅲ 抗菌薬変更に抵抗する医師の心理
Ⅳ どの菌が原因菌 ?-培養結果,ちゃんと読めてますか ?-
1.培養で出た菌はすべて原因菌で,すべて治療の対象となるのか ?
2.培養で出なかった菌以外は,原因菌ではないのか ?
Ⅴ 感受性試験結果の読み方,間違ってないですか ?
1.症例から考えてみる54
2.「MICが低い薬=効果の期待できる薬」ではない!
Ⅵ じゃあ,いったいdefinitive therapyはどう選ぶ ?
<COLUMN> De-escalationとEscalation
キホン8 適切な経過観察
Ⅰ 経過観察-診るべきところを間違えると,痛い目にあう-
1.CRPの値を「勝手に解釈」して診療をするのは,もうやめよう
2.どこを診るべきか ? それは臓器ごとに違う
Ⅱ 改善しているか/悪化しているかの判断-典型的な経過を知っておく-
Ⅲ 適切な指標を用いて経過観察を行う
キホン9 よくならないときに考えるべきこと
Ⅰ よくならないのは,すべて抗菌薬のせいか ?
Ⅱ 「よくならない」ように見える原因
1.診断が違う
2.そもそも自然経過ではないのか ?
3.膿瘍や閉塞はないか ?
4.そもそも抗菌薬が必要な状態か ?
5.感染以外の要因では ?
6.抗菌薬は原因微生物をカバーしているか ?(耐性菌を含む)
<intermission> 診断が得意になるには ?
患者のモンダイ別感染症アプローチ法
モンダイ1 排尿痛・頻尿がある
Ⅰ 尿路の症状からどう考えていくか ?
1.尿路症状を伴う疾患は膀胱炎だけではない
2.頻度の高い疾患さえおさえていればよい ?
3.鑑別診断の系統的なあげ方
4.漠然と尿路感染と考えるのはやめよう
Ⅱ 尿路感染:診断から治療へ
1.無計画な検査はやめよう
2.単純性膀胱炎の原因微生物は ?
3.膀胱炎のempiric therapyは ?
モンダイ2 咳・痰が出る
Ⅰ 「咳」から何を考えるか ?
Ⅱ 肺炎か ? 気管支炎か ?
1.この患者に胸部X線写真は必要か ?
2.肺炎と気管支炎,区別はつくのか ?
3.高齢者が「いつもと違う」ときには肺炎も考える
4.肺炎の診断,胸部X線写真はどの程度役に立つ ?
5.重症度を知る-CRPのみで判定する ?-
Ⅲ 肺炎の原因微生物を突きとめる
1.市中肺炎の微生物学的鑑別診断は ?
2.市中肺炎診療でグラム染色を使いこなす!
3.市中肺炎診療における尿中抗原検査の使い方
Ⅳ 市中肺炎の治療,どう組み立てるか ?
1.治療はどう選択する ?
2.治療はどこでオシマイにするか ?
Ⅴ ワクチンで予防を!
モンダイ3 のどが痛い
Ⅰ それでよいのか,咽頭痛の診療 ?
Ⅱ 咽頭痛から診断に迫る
1.インフルエンザとウイルス性上気道炎の違い
2.A群β溶連菌感染,どう見分けるか ?
3.伝染性単核球症を見落とすな!
4.見落としてはいけない危険な咽頭痛とは ?
Ⅲ ウイルス性上気道炎の原因微生物は ?
Ⅳ ウイルス性上気道炎のマネジメント
1.痰や鼻汁が膿性だったら抗菌薬の適応 ?
2.かぜに抗菌薬で七難隠す ?
モンダイ4 下痢がある
Ⅰ 下痢だったらすべて腸炎 ?
1.「下痢=腸管感染症」ではない
2.下痢症とは-まずは定義が重要-
3.下痢症こそ病歴が重要
Ⅱ 下痢症診断「タイプ分け」のポイント
1.患者情報から下痢を類型化する
2.下痢のタイプ分けに有用な質問は ?
3.下痢症の3タイプ:小腸型・大腸型・発熱腹痛症候群型
Ⅲ タイプ分けから原因究明へ
Ⅳ 下痢症のマネジメント
1.身体所見-まずは脱水の評価が重要-
2.便培養なんて意味はない ?
3.治療はどうするか ?
モンダイ5 肌が赤くて痛い
Ⅰ 足が赤く腫れているとは,どういうことか ?
1.鑑別診断はどう考えるか ?
2.「一発診断」は諸刃の剣!
Ⅱ 皮膚軟部組織感染は,解剖学的部位でタイプ分けする
1.皮膚軟部組織感染にもいろいろある
2.せつ・よう
3.丹毒
4.蜂窩織炎
5.壊死性軟部組織感染症
Ⅲ 見落とし,発見の遅れを避けたい病態-壊死性軟部組織感染症を早く見つけ出すには-
Ⅳ 微生物を詰める
1.背景から見えてくるものは ?
2.微生物学的検査の意義は ?
Ⅴ 治療はどうするか ?
1.せつ・よう
2.丹毒
3.蜂窩織炎
4.壊死性軟部組織感染症
Ⅵ 予防だって重要!
モンダイ6 リンパ節が腫れている
Ⅰ リンパ節腫大:難しいのはなぜか ?
Ⅱ リンパ節腫大の診断の鍵
1.構造・分布・支配領域(リンパ領域)を知っておく
2.リンパ節腫大が起こるのはどのような疾患か ?
3.リンパ節の所見のとり方-局所の所見と分布(局所性・全身性)が重要-
4.患者背景・診療のsettingで,鑑別診断は違ってくる
5.「リンパ節腫大」以外の情報を聞き出して,診断に役立てる
Ⅲ 実際にはどう読み解くか ?
モンダイ7 発疹がある
Ⅰ 発疹のある患者へのアプローチ
Ⅱ まずは発疹を知ろう
1.代表的な発疹とその表現
2.発疹の診察のポイント
3.便利なリソース
4.鑑別診断のために必要なこと
5.患者背景・診療のsettingで,鑑別診断は違ってくる
6.各発疹ごとの,重要な鑑別診断
モンダイ8 腹部が痛い
Ⅰ 背景からわかること
Ⅱ 腹痛とは
1.痛みには種類がある
2.とはいえ,痛みの場所は重要
3.痛みのストーリーも重要
4.「やばい」腹痛
Ⅲ 痛み以外の症状は,何を語る ?
1.発熱
2.血便・下血
3.嘔吐
4.術後患者の随伴症状
Ⅳ 身体所見のコツ
1.バイタルサイン
2.腹部の診察
3.腹部の疾患と筋硬直
4.骨盤・後腹膜の所見はとりにくい
5.「痛み止めは腹痛の患者には禁忌」は本当か ?
Ⅴ 画像診断に頼りすぎない
Ⅵ 早期診断が難しいのは,なぜか
モンダイ9 これは敗血症 ?
Ⅰ 敗血症診療はなぜ難しいのだろうか ?
Ⅱ まずは敗血症の定義から
Ⅲ 敗血症診療ではスピードが命-1分1秒を絶対にムダにしない-
Ⅳ とはいえ,敗血症診療は難しい-難しくしている問題とは-
Ⅴ 何より,敗血症を可能な限り早期に察知する!
Ⅵ 臓器を無理に絞り込まない...むしろ対象臓器を広くとる!
Ⅶ 原因微生物を詰める...やはり対象微生物を広くとる!
1.まずは微生物の推定
2.適切に同定するためには-とくに血液培養に注目-
Ⅷ 抗菌薬選択の基準
Ⅸ 全身支持療法が重要!
Ⅹ 敗血症診療のポイント-手落ちがないようにする,ということ-
1.早く察知する
2.原因臓器・系統を広く推定する
3.原因微生物を広く推定する
4.支持療法をきっちりと施行する
<COLUMN>「是か」「非か」の二元論での議論はやめよう!!(CRPを例に)
モンダイ10 これは「かぜ」 ?
Ⅰ なかなか渋く奥の深い疾患「急性上気道炎」-たかが「かぜ」,されど「かぜ」-
Ⅱ まずは「典型的な急性上気道炎」を知ろう!
Ⅲ 急性上気道炎「的な」状態の患者の鑑別疾患は ?-なんでもかんでも「かぜ」ではダメ!!-
1.アレルギー性鼻炎
2.インフルエンザ,RSウイルス感染
3.アデノウイルス感染(咽頭結膜熱,流行性角結膜炎),エンテロウイルス感染(アポロ病)
4.咽頭炎,伝染性単核球症など
5.副鼻腔炎,中耳炎
Ⅳ 急性上気道炎の主な原因微生物
Ⅴ 急性上気道炎の治療はどうする ?-急性上気道炎に抗菌薬はそもそも不要-
Ⅵ 「急性上気道炎」をゴミ箱診断に用いない!不用意に抗菌薬を出さない!
モンダイ11 急性上気道炎が治らない
Ⅰ 「かぜが治りません!」...そのときにどうするか ?
Ⅱ 「治らない急性上気道炎」の鑑別診断
1.「鼻づまりがとれない」
2.「耳が痛い」
3.「咳が続く」
Ⅲ 「かぜだと思ったのに,まさか...」の罠
1.ベースレート(疾患存在可能性)のヒューリスティクス
2.Anchoring(係留)と修正のヒューリスティクス
モンダイ12 高齢者の様子がおかしい
Ⅰ 高齢者は感染症に罹患しやすい!
1.高齢者は栄養状態がよくない
2.加齢による免疫不全状態にある
3.施設内での流行に曝されやすい
4.デバイスの使用率が高い
Ⅱ 高齢者の感染症は,わかりにくく,扱いにくい
Ⅲ 高齢者の感染症診療には,コツがある
1.背景から入る-高齢者に多い感染症を知っておく-
2.症状・所見を丹念にとり,軽微なものでも軽く扱わない!
3.一般的に症状・所見が出にくい疾患も改めて押さえておく
Ⅳ とはいっても難しい...問題を絞り込みきれないときにはどうすればよいのか ?
モンダイ13 抗菌薬で副作用が出た
Ⅰ 抗菌薬によるアレルギー
1.出現頻度
2.種類
3.実際の対応方法
Ⅱ 抗菌薬関連の下痢症
1.診断方法
2.治療マネジメント方法
Ⅲ 抗菌薬による肝・胆道系副作用-肝・胆道系の酵素上昇,肝炎から黄疸まで-
1.種類
2.起こしやすい主だった抗菌薬と具体的な反応
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書籍情報
- ISBN:9784525231514
- ページ数:196頁
- 電子版発売日:2011年5月31日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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