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- ジェネラリストの診断力 Clinical Problem Solving
商品情報
内容
レジデントノートの人気連載が単行本化!病歴や診察,検査から何を読み取り、どう診断へと絞り込んでいるのか? ジェネラリストの思考プロセスを大公開!本書内の医師と一緒に考えて、確かな診断力を鍛える!
序文
なぜ総合的な能力が必要なのか? ~現代のプロフェッショナルのあり方とは
現代の複雑化する社会のなかで,今,医師をはじめとする専門家(プロフェッショナル)のあり方が根本から問われるようになってきている.
プロフェッショナルとは, ①特殊な知識と技術を支配し, ②一般大衆には保障されていない特権が与えられ, ③一般大衆には期待されない特殊な責任をもつ者,とされる.われわれ医師の特権とは,プロフェッショナルとしての自律性である.そして,この自律性を担保するために,特殊な責任,つまり公共的な使命(パブリック・ミッション)を果たすことが求められる.しかし,近年,われわれ医師のパブリック・ミッションの遂行が問われる出来事が続発している.例えば,くり返す医療事故,医師・患者間のコミュニケーション不足による対立,地域医療の崩壊などが挙げられる.このような状況のなか,特殊な知識と技術を有し高度なパブリック・ミッションを担うプロフェッショナルとして社会貢献していくことが,われわれ医療者には今まで以上に強く求められるようになってきている.
現代の科学の飛躍的な進歩とそれに伴う専門領域の細分化は,われわれ医療者を高度な知識と技能を有するエキスパートとし,そして患者に多くの利益をもたらした.しかし一方で,医療の専門分化,細分化により患者の問題が適切にマネジメントされないという不利益な状況ももたらされるようになってしまった.このため,患者を一人の人間として総合的にマネジメントする医療の必要性が叫ばれるようになってきた.ここで,総合的な思考様式は,例えば総合内科医,家庭医,プライマリ・ケア医などのジェネラリストと呼ばれる医師だけに求められる特有な能力かというと実はそうではない.直線的な思考過程でスマートに問題解決していくと思われている,いわゆる専門診療科の領域においては,その領域の最先端であればあるほど問題は複雑化し,単純な直線的・合理的思考では解決できないケースが増えてきている.よって,そこでは,より総合的,学際的知識の必要性が叫ばれ,さまざまな領域の知識を統合して専門分野を切り開いていく力が求められるようになってきている.つまり総合的な思考様式は,すべてのプロフェッショナルに求められる最も重要な能力なのである.このような能力を備えた専門家像を, マサチューセッツ工科大学のドナルド・ショーン教授は反省的実践家(reflective practitioner)と呼び,複雑な状況のなかで泥臭く問題に取り組んで解決していく専門家のあり方を提唱した.
このように,ジェネラリストという専門領域も含めたすべての専門分野における臨床判断において,真のプロフェッショナルである臨床医は,その領域のエビデンス,データだけに基づいて直線的に行動でするのではなく,reflective practice を基盤として,科学的理論,個人的経験,患者の視点,その他多くの要素を統合して幅広い学際的な視野を保ちながら"総合的に" 行動していく必要がある.
臨床判断とは何か
「医学は不確実性についての科学であり,可能性についての芸術である」ウイリアム・オスラー
医療は不確実であるから臨床は難しい.特に,取り扱う疾患や病態を限定しない総合内科の日常臨床は不確実性に満ちており,例えば,次のような状況に遭遇するのは常である.
・必要な情報は時間をかけて収集され,最初からは利用できない
・問題がダイナミックで,解決のプロセス中に変化する
・問題解決法はその状況に特異的で,一般化できない
・問題がいつ解決されたのか不明確であり,いつ解決のための追求をやめるか決断に迫られる
・完全な情報収集ができる前に治療を開始せざるを得ない
・患者が完璧に正確な情報を提供してくれるとは限らない
・患者は診断がつかないまま治療され治っていくことがある
・臨床研究ではっきりと解決されていない問題に出くわす
・臨床研究の結果だけを適用するだけでは解決できない倫理的な問題に出くわす
このような状況下では臨床医が賢明な判断をしなければならないグレーゾーンが山積している.このようななかで患者ケアをしていく際に,不確実性のなかで推論を働かせるのが臨床判断(clinical judgment)である.
よって臨床判断においては,必ずしもすべての診断・ベストな判断ができる訳ではないことを理解しておくことは重要である.これを受け入れることができなければ不確実性への不安が高まり,その結果として過剰診療が生じる.過剰診療は医師,患者,社会のいずれにとっても,よい結果にはつながらない."あいまいさに耐える" ことは臨床医の重要な能力の一つである.ここで,診断がつけられないことへの一つの対処としては,diagnosis of unknown etiology あるいはnot yet diagnosed(NYD)という診断名をつけることは有効な方法である.これにより確実さを追い求める熱望が冷まされ,また,今後の検索に関して常にオープンでいることも可能となる. いずれにせよ,われわれ日常臨床医の仕事は臨床判断において確実性を得ることではなく,最適な臨床判断をするのに十分に診断の不確実性を減少させることであることを肝に銘じておく必要がある.
なぜClinical Problem Solving か
症例の考察は後から振り返ったらどんなことでも言える.「これはそうすべきでなかったんじゃないの?」,「自分ならこうしただろう」といった議論になりがちである.いわゆる「shouda?wouda-couda」ディスカッションとなってしまうことが多い.大切なのはリアルタイムでそのときの臨床決断を悩みながら行っていく場に学習者が存在することである.過去の症例をあたかも学習者がその現場にいるかのように診断推論を行っていくためには,情報を段階的に小出しにしながら,そのときまでに得られた情報のみで推論し意思決定を行い次に進むというClinical Problem Solving の方式が最適である.この方法はKassirer らによってThe New England Journal of Medicine に掲載された.ここで推論をしている医師は優れた臨床家であり,これを教材として自分たちが行った推論とお手本となる推論を比較しながら学習してみるのもよい.
一方,本書で提示されている症例の推論者は決してベテラン医師ばかりではない.しかし実際に現場にいる医師が,悩みながら不確実な臨床状況のなかで,常に臨床の現実に忠実に向き合いながら推論したことが記載されている.いきなり最後の結末を読むのではなく,臨床状況の始まりから一つ一つの段階をじっくり読んで読者自らが鑑別を考えながら推論,臨床判断を楽しんでいただきたい.
本書が総合内科の面白さを伝えることの一助となり,総合内科の仲間が増え,多くの仲間と一緒に切磋琢磨できるようになることを願っています.
2011年ラベンダーの花が咲き誇る札幌にて
北海道大学病院卒後臨床研修センター 宮田靖志
江別市立病院総合内科 濱口杉大
目次
総論1 診断エラーをしないための思考法
1 診断の思考過程にはどのよう種類があるのか
2 診断の思考過程で,医師の頭の中はどうなっているのか
3 診断の誤りはどうして起こるのか
4 認知エラーを減らすためにどうするか
5 陥りやすい認知心理を理解して診断エラーを防ごう
6 診断エラーを防ぐ12の秘訣
総論2 総合内科医の新しい臨床推論トレーニング
1 臨床能力を磨くプレゼンテーション法
2 発症の形式と時間経過から診断にせまる
case1 胃腸がおかしくて,食欲がありません...
case2 部活後から腹痛が治まりません...
case3 おなかが痛いんです... と認知症のおばあさんが...
case4 動悸がして倒れたんです...
case5 髄膜炎は治ったんですが,また発熱して頸のリンパ節が腫れたんです...
case6 突然熱が出て,全身が痛いんです...
case7 2週間前から血便が出てるんです...
case8 ニンニク注射をしてほしいんです...と20代の女性が...
case9 病体がコワイんです... と40代の女性が...
case10 顔色が悪くて体がだるく,足に力も入らないんです...
case11 救急隊より受け入れ要請. 80 歳代 女性 , 吐血,黒色便で,血圧70mmHg台です...
case12 神経内科,整形外科,泌尿器科で診てもらっているんですが,身体がむくんできたんです...
case13 熱が出て体が痛くて治らないんです...
case14 8日前にトイレで力んで倒れ、5日前から吐いているんです...
case15 皮膚科で治療しているんですが,蕁麻疹が一向によくならないんです...
case16 微熱と頭痛が3週間も続いているんです...
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書籍情報
- ISBN:9784758117142
- ページ数:198頁
- 書籍発行日:2011年7月
- 電子版発売日:2013年1月1日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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