「遺伝子分析科学」発刊にあたって
医療はポストゲノム時代といわれ,分子生物学的技術の進歩が,疾患の診断に必要な病因遺伝子を検出する遺伝子検査を可能とし,遺伝子に基づくオーダーメイド医療に対する期待はますます高まっている。遺伝子検査を広く普及させるには,遺伝子解析研究や技術開発を追求するだけでなく,将来それを担う人材の育成が急務である。
そこで,一般社団法人日本臨床検査同学院では,遺伝子分析学分野における専門知識および高度な技術に対応できる遺伝子分析科学技術者の育成を図り,遺伝子分析および遺伝子検査技術の発展・普及を促進することを目的とし,「遺伝子分析科学認定士」の認定制度を発足させた。また,本認定制度は,遺伝子分析法の技術水準の向上とその標準化を普及させ,良質な遺伝子分析結果を提供する。これにより,国民の健康と科学技術の発展に寄与することを目的としている。「初級遺伝子分析科学認定士」は,遺伝子検査の全般に関わる業務について責任を持って遂行しうる学識と技術を有し,認定された者をいう。
同学院では,2007年6月に第1回の認定試験(初級)を実施し,その後毎年1回の認定試験により,多くの合格者を輩出してきた。これまで多くの初級遺伝子分析科学認定士が,医療機関,検査施設(衛生検査所),研究機関や民間企業等で,専門的人材として大きな役割を果たしている。とくに,本認定士による遺伝子検査の適正な利用,実施における実績にともない,本認定士制度の意義・評価が認識されつつある。
遺伝子検査は,医学に限らず,歯学,薬学,生物学,農学,獣医学,理学,家政学,栄養学など,幅広い領域で実施されている。検査担当者も理系大学出身者,臨床検査技師養成校出身者,バイオ領域専門専修校出身者など多彩である。「ヒトならびに感染微生物」に関する検査を行う者であれば,誰でも認定試験受験資格がある。したがって,この試験は,すでに遺伝子分析や検査業務に従事している技術者だけでなく,将来バイオ関連企業への就職や,またこの領域での活躍を念頭に勉強中の学生の方々の大きな目標となっている。
検査技術の進歩は日進月歩であるため,それに対応できる認定資格取得者の知識・技術レベルを確保するため,認定資格は5 年ごとの試験を中心とした更新制を採用している。2012年は第1回合格者(初級)の登録更新の有効期間の最終年となっている。また,同じ年に,制度発足の当初から計画されていた上級の資格試験として,「一級遺伝子分析科学認定士」試験を開始することとなった。「一級遺伝子分析科学認定士」は,初級認定士を既に取得した上で,高度な知識と十分な経験をもって後輩の指導を行いうる者をいう。そこで,更新試験や一級認定士試験の受験の参考書となるよう,テキスト「遺伝子分析科学」を出版することとなった。内容は,指導者に相応しい高度な知識および最近の進歩に関して学べるよう章立てを組んである。章立ての一部は,初級の認定試験の受験における参考書「遺伝子検査技術」と共通であるものの,最近の進歩を踏まえて執筆してある。基礎的な事項の一部は「遺伝子検査技術」と重複を回避するため,本テキストには記載されていない。基礎的な事項には,必要に応じて,「遺伝子検査技術」を紐解いて戴きたい。本テキストは,試験受験の準備に利用するだけでなく,遺伝子分析・検査に従事している技術者が日頃の業務の参考として専門的知識を整理するための一般科学書としても広く活用されることを期待したい。
2011年9月
一般社団法人日本臨床検査同学院 理事長 水口 國雄
遺伝子分析科学認定士試験委員会 委員長 宮地 勇人
同 教本作成委員会 委員長 舩渡 忠男