最近痛みに関する関心が高くなってきています.また新たに多くの鎮痛薬が臨床で使用可能となり,治療手段も多岐になってきています.現在,痛みに関する書籍が多く出版されています.しかしながら,これらの出版物の多くが,痛みの治療法のガイドブック的なものであり,痛みに関する基礎的な生理学,薬理学,解剖学などに基づいた記述は多くないように感じています.また,痛みの治療を行う上級クラスの臨床医を十分に満足させる基礎と臨床がバランス良く記述された本格的な日本語の本は少ないのが現状です.そこで,今回麻酔科医を対象とした「痛みのScience & Practice」シリーズを上梓することといたしました.本シリーズは,麻酔科専門医およびペインクリニック専門医を目指す医師を対象としています.そしてペインクリニックを専門としない麻酔科医でも,痛みに関する正しい基礎知識に裏打ちされた,より良い診療の指針となるシリーズを目指しています.痛みに関する基礎的・臨床的知見は日進月歩です.本シリーズでは,最新の知見と治療法をまとめることを意図しています.そして痛み患者を診療するのに必要な基礎医学的知見と,エビデンスに基づいた治療を記載することを目指しました.このような気持ちをこめて,シリーズ名を「痛みのScience & Practice」と命名いたしました.
麻酔科はペインクリニック以外でも,手術時の痛みのコントロール・術後痛管理など,痛み治療にかかわることが多い診療科です.痛みをコントロールすることの多い麻酔科医にとって,「痛みのScience & Practice」は必読の書となると考えています.
1冊250ページくらいの書籍を,年に4冊程度出版していく予定です.各巻の企画は編集者の1人が作成した原案を,編集会議で何度も検討し,全員の納得が得られる状態まで練り上げました.それぞれの1冊は,一つのトピックを多面的に理解できるよう編集しています.また,より理解しやすくするために多くのカラーイラストを入れています.
本シリーズは,多くの麻酔科医に新しい痛みの知見を紹介することができるシリーズとなっていると確信しています.本シリーズが今後の日本における痛み診療の発展に貢献できることを期待しています.
禎心会病院 表 圭一
熊本大学 山本 達郎
順天堂大学 井関 雅子
信州大学 川真田 樹人
痛みの治療法として,従来より薬物療法,神経ブロック,リハビリテーション,物理療法などが行われてきていますが,近年,痛みの病態が徐々に明らかにされてきているのに伴い,種々の低侵襲的な痛み治療が行われるようになってきています.特に,インターベンション技術が発達してから,それを痛みの治療に応用するようになり,痛みの治療方法の幅が飛躍的に広がっています.
Waldmanが1996 年に最初に使用した「痛みのインターベンション治療」という言葉は,「インターベンション技術を単独または他の治療法と組み合わせて用いることにより,痛みとその関連した疾患の診断や治療を行う医学専門分野(The National Uniform Claim Committee)」を示しています.これは薬物による内科的治療と手術による外科的治療の間に位置する治療法で,薬物の副作用も少なく,大きく切り開く手術の必要がない低侵襲的な治療法といえます.痛みのインターベンション治療には,目的神経の永久遮断(アルコール,高周波熱凝固),外科的処置(椎間板髄核摘出術,脊髄くも膜下注入ポンプ植え込み,脊髄電気刺激,神経癒着剝離術など)が含まれます.
これまで,痛みのインターベンション治療として,多種な神経ブロック療法(盲目的,画像下)が行われてきており,数々のその手技に関する成書も出ています.本書では,局所麻酔薬による可逆性神経ブロックを除いた,現在本邦で行われている痛みのインターベンション治療法を,その原理,適応,手技,症例を提示することで,初心者でも理解できるように構成しました.本書が痛みのインターベンション治療の手引書となり,痛み診療の発展に貢献できることを期待しています.さらに,今後,その有用性から,その適応範囲も広がり,痛みの治療の中で重要な位置を占めることになると考えられます.これらの治療法の基本,手技を習得することにより,これから次々と新たに開発,商品化されていくインターベンション治療法の理解にも役立つと確信しております.
2014年10月
禎心会病院ペインクリニックセンター 表 圭一