原著第5版 訳者序文
自然免疫システムでは natural kille(r NK)細胞に加えて自然リンパ球 innate lymphoid cel(l ILC)が,また適応免疫システムではTh1/Th2 バランスによる免疫調節に対し,新たにTh17 細胞(T helper 17cell),制御性 T 細胞 regulatory T cel(l Treg)による免疫調節が明らかとなり,免疫システムの頑強性に対する理解が深まりつつあります.
2007 年に刊行された『基礎免疫学:免疫システムの機能とその異常 原著第2 版2006-2007 最新版』から7 年後の2014 年に『アバス-リックマン-ピレ 基礎免疫学 原著第4 版:免疫システムの機能とその異常』が刊行されました.ページ数は原著第2 版では322 ページ,原著第4 版では320 ページと2 ページの減少でしたが,第2章"自然免疫Innate Immunity"は原著第2 版では19 ページ,原著第4 版では26 ページと7 ページ(40%)増加しました.今回の原著第5 版(2016 年発刊)は,原著第4 版(2012 年発刊)の発刊から4年が経過しています.ページ数は原著第5 版では327 ページと,原著第4 版と比べ7 ページの増加であり,また第2 章"自然免疫Innate Immunity"は原著第4 版の26 ページから原著第5 版の27ページとさらに増加しました.また新たな図も追加され,原著第4 版では170 個でしたが,原著第5 版では180 個(新規の図の追加は11 個)となり,また既存の図の改訂も最新の研究成果に基づき随所で行われました.
自然免疫レセプターとしてはToll 様レセプター,NOD 様レセプターの記述がさらに詳細になり,臨床との関連では尿酸結晶に対する炎症などが記載されており,従来知られている微生物に対する炎症に加え,インフラマソームが関与する炎症が広く炎症として認識される概念の詳細が記述されています.
適応免疫においては,T 細胞の遊走に関与するCCR7 やB 細胞の遊走に関与するCXCR5 などのケモカインレセプターの働きがさらに明らかになってきましたので,これに関する記述が充実されました.
またリンパ節における抗体産生の機序の解明が進み,濾胞樹状細胞 follicular dendritic cel(l FDC)と濾胞ヘルパー T 細胞 follicular helper T cel(l Tfh)の働きが明らかになってきましたので,これらに関する記述がされました.さらに抗体産生におけるB 細胞のヘルパーT 細胞に対する抗原提示細胞としての役割が明らかとなり,詳細に記述されています.
マクロファージに関しては,クラシカル[古典]経路活性化マクロファージclassical macrophageactivation に関与するM1 マクロファージと第2[代替]経路活性化マクロファージalternativemacrophage activation に関与するM2 マクロファージ,また樹状細胞に関してはクラシカル樹状細胞classical dendritic cell とプラズマサイトイド樹状細胞plasmacytoid dendritic cell がそれぞれ詳細に記述されました.
今回腫瘍免疫に関する記述が充実しました.第10 章"腫瘍と移植に対する免疫応答ImmuneResponses Against Tumors and Transplants"は原著第4 版では17 ページでしたが,原著第5 版では20 ページであり,また図も原著第4 版の11 個から原著第5 版の13 個にそれぞれ増えています.腫瘍の治療における腫瘍免疫学の重要性の記述とともに,腫瘍免疫の集大成ともいえるチェックポイント阻害薬checkpoint blockade に関する記述が詳細にされています.
用語の解説も充実しており,原著第5 版では共生[常在]微生物commensal microbe,CTLA-4,PD-1,チェックポイント阻害薬,全身性炎症応答症候群systemic inflammatory response syndrome(SIRS)など多くの用語が新たに加わり,また自食作用autophagy,濾胞樹状細胞,濾胞ヘルパーT 細胞など多くの用語が新しい内容に改訂されています.
本書は以前から自然免疫を基盤に免疫学を記述していましたが,今回の自然免疫と腫瘍免疫のさらなる充実は,現代の基礎医学および臨床医学におけるこれらの役割の重要性を反映したものと思われます.
現在免疫学を学習している学生ばかりでなく,以前適応免疫を主体として学習してきた臨床医,研究者などにとっても最適な教科書となっています.これら免疫学発展の歴史を基盤とし現代ヒト免疫学の集大成した教科書が本書です.訳本としては,重要あるいは頻用される用語に対し,各章初出において[]内に補足として別称を付し,読者が理解しやすいように努めました.
この訳本はエルゼビア・ジャパン(株)コンテンツオペレーション部 安田みゆき様をはじめ編集部の方々の多大なご協力を得て完成いたしました.深謝いたします.
2016年 12月
東京大学大学院医学系研究科分子予防医学教授
松島 綱治 MD,PhD
昭和伊南総合病院健診センター長
山田 幸宏 MD,PhD