原著者序文
生理学は医療の基礎である.医学生や実地医家にとって,生理学の原理をしっかりと理解することは必須である.本書は生理学を学ぶ医学や関連分野の学生を対象としている.教科別カリキュラムの参考書としても,統合型カリキュラムや問題解決型カリキュラムの教科書としても使うことができる.上級生には,病態生理学・内科学の講義やクリニカルクラークシップでの参考書としても役立つであろう.
前版と同様に本書第6版においても,生理学の大切な概念を臓器系レベルと細胞レベルで説明した.第1章と第2章は細胞と自律神経系の生理学の基礎的な概念を説明した.第3章から第10章で主要な臓器系を扱った.すなわち,神経系,心血管系,呼吸,腎臓,酸塩基,消化器系,内分泌系,生殖の生理学である.そして,ホメオスタシスを実現する統合のしくみを明瞭にするため,各臓器系の連関を強調して説明した.
生理学を学びやすくするために,本版では以下に述べる工夫を行った.
本文は読みやすいように簡潔にまとめた.明確な見出しによって,学習内容の構成や階層構造の見当がつくようにした.複雑な生理機構の情報は,論理の流れがわかるよう,ステップごとに順を追って整然と説明した.そして,ある過程が特定の順序で起こる場合は各ステップに順に番号を振り,説明図と本文の番号も対応させた.読者が疑問に思うであろうことを予見して,本文中の各所に例題を入れた.熟考したうえで問いに答えることによって,難しい概念や,予期せぬ相反した知見を筋道立てて説明する方法を学ぶことができる.章末には簡潔なまとめを記した.
• 表と図は本文とあわせて学習に用いることができるが,独立でも使えるように作成してあるので,復習用にも役立つであろう.表には分類や比較やまとめを記している.例を挙げると,(1)消化管ホルモンをファミリー,分泌される部位,分泌を刺激する因子,作用に関してまとめて比較できるようにした表,(2)Ca2+ホメオスタシス異常をきたす疾患の病態生理の特徴を比較した表,(3)異なる心組織ごとの活動電位の特徴を比較した表.図には表題をつけ,名称は図内に書き入れ,シンプルな図解やステップ順に番号づけした複雑な図解,フローチャートなどを用いた.
数式と例題は本文に組み入れた.数式のすべての項と単位には説明をつけて,さらにそれぞれの数式を生理学的な文脈に位置づけられるように言葉で説明した.例題には数値計算の解答をつけて,さらに理屈を正しいステップで追えるように解説した.説明のステップを追えば,類題を解けるだけのスキルと自信を身につけることができる.
• 症例に学ぶ臨床生理学をコラム(Box)で掲載して,典型的な疾患の擬似患者を呈示した.臨床所見と推奨される治療について,基礎をなす生理学的な原則に基づいて説明した.患者の病態をさまざまな臓器系から検討して,統合的な理解をはかった.例えば,1型糖尿病の症例は,内分泌系の障害のみならず,腎臓,酸塩基,呼吸,心血管系にも障害が生じるからである.
練習問題を各章末に掲載した.練習問題は,簡潔(単語,語句,数字)に答えさせるように作成したが,個別事項の記憶を試すのではなく,学んだ原理や概念を問題解決のために応用できることを目標とした.問題の形式はさまざまで,出題順もランダムになっている.各章を学習したあとに,本文を参照することなく解いてみると効果的であろう.そうすることによって,内容の理解度を確かめて,理解が不十分な箇所を知ることができる.解答は巻末に掲載した.
教材動画を掲載した(電子書籍・英語版).複雑な原理は口頭での説明のほうが理解しやすいかもしれないので,一部のトピックには補助教材として短い動画を用意した.
• 略語と正常値を掲載した.よく使われる略語や正常値を本書の学習を通じて繰り返し参照すれば,慣れて使いこなせるようになるであろう.
本書は私が教育に対して抱いている3つの信念を体現している.⑴たとえ複雑な情報であろうと,体系的,論理的,段階的に説明すれば,明解に伝達することができる.⑵印刷された本でも対面授業に引けをとらない効果的な教育ができる.⑶内容が正確で教育効果が高く,専門家のみに必要な詳細は省いてある,参考文献リストのない教材が初学生には望ましい.本書はあくまで学生を読者に設定し,地に根ざしたプロフェッショナルな説明を繰り広げている.
読者が本書で生理学を楽しみながら学ぶことができれば望外である.生理学の原理を習得すれば,専門職としてのキャリアを通じて報われるであろう.
Linda S. Costanzo