序
生理学は医療の基礎である.生理学の原理を理解することは医学生や医師にとって必須といえる.本書は医学生および医学関連の学問を学ぶ学生が生理学を学習するために書かれた.系統講義の教科書としても問題指向型講義の参考書としても使用できる.臨床医学を学ぶようになっても,病態生理の参考書として,また参加型臨床実習の参考書としても使用できよう.
本書第3 版は初版,第2 版と同様に,生理学の重要な概念を器官系と細胞レベルで記載してある.第1 章,第2 章は細胞生理学と自律神経系の基礎を,第3 章から第10 章までは器官系別に,神経生理学,循環機能,呼吸機能,腎機能,酸塩基平衡,消化・吸収,内分泌,生殖機能について,記述した.器官系同士の関連に関しては,内的恒常性を統合的に保つ機構として強調してある.(訳注:日本語版には第4 章として血液学を追加した)
本書第3 版は,生理学の学習を進めるために以下の特徴を有する.
• 本文:本文の文章は明解で簡明である.明解な見出しにより,内容の構成と階層が理解できる.複雑な生理学的情報を系統的,論理的,段階的に提示した.あるプロセスが順を追って進行するときは,段階ごとに本文でも図中にも同じ番号を付して関連づけた.その処理過程の特徴を段階で分けて強調するため, • を文頭につけてパラグラフに分けた.本文中で疑問文を提示して,学生が疑問に思うことを強調してある.さらに,その疑問を熟考し,解答することで,学生は難しい概念を説明できるようになり,思わぬ記載や一見矛盾するような内容を理論的に説明できるようになると思う.各章の末尾に参考文献や推薦図書をつけ,さらに詳細な内容や歴史的見地からの理解のため,学生に単行本,教科書,総説,古典的論文を読んで貰えるようにした.
• 図表:図表は本文と関連して使用しても単独で概説として使用してもよい.表は本文の内容をまとめ,再構成し,項目ごとに比較するようにするとよい.たとえば,①胃腸ホルモンのホルモン・ファミリーについての比較,分泌に対する刺激や部位の比較,ホルモン作用の比較などが行われている表,②カルシウムイオンにおけるホメオスターシス異常の病態生理学的特徴を比較する表,③異なる心組織における活動電位の特徴を比較する表などがある.イラストには順序立てて説明が入っており,主表題から単純な図解,複雑な順番が振ってある図解,フローチャートなどがある.
• 数式と例題:数式と例題は統合して本文中に記載した.数式の用語と単位はすべて記載し,数式の生理学的な意味をことばで述べた.例題には完全な数式の答えと説明を付し,学生に正しい手順で理解できるようにした.記載した手順に従うことで,学生には類題や関連題の解法を学ばせ,自信をつけさせるようにした.
• 症例:それぞれの症例提示には,典型的な疾患の患者を想定して用いた.臨床所見と提示した治療法は生理学の原理に従って説明した.器官系の関連を強調するために統合的アプローチを用いた.たとえば,Ⅰ型糖尿病の説明では内分泌系だけでなく,腎,酸塩基平衡,呼吸,心循環系の異常として説明した.
• 練習問題:章末に「Challenge Yourself」として練習問題を記載した.問題は短答式とし,単語,語句,数字で答えるようにし,問題を解くことにより単独の事実を思い出すというより基本や概念を応用するようにした.問題の順序はランダムとし,さまざまな形式で記載した.各章を学習した後に本文を参照せずに解答することで理解の補助となろう.このようにすることで,学生は内容の理解をかため,弱点を確認できる.解答はまとめて巻末に掲げた.
• 略語と正常値:略語と正常値を巻末に掲げた.本書を通じて略語と正常値を活用する習慣をつけてほしい.
本書は,著者が掲げる3 つの信念が貫かれている.①どんな複雑な情報でも系統的に段階を踏んで論理的に掲示すれば明解に伝達できる.②印刷された文書でも工夫次第で授業で直接教えるのと同じ効果が期待できる.③初学者は,正確な情報を繰り返し,明解に提示される教材を望んでいて,熟練者に求められるような細部について文献を挙げて述べるようなことは求めていない.教師の声が伝わってくるような,厳選された基本的な情報が論理的に順を追って述べられる教科書は学習効果の上がるテキストであるといえる.本書は長年の教育経験をもつ,プロフェッショナルの教師が講義をして上げられる学習効果を,読むことで得られるように工夫した学生のためのテキストである.
本書の読者は,生理学の学習を楽しんでほしい.そして,生理学の原理を学ぶことで,これから始まる職業的キャリアを通じて,成果を享受してほしい.
リンダ・コスタンゾ
生理学教授;
ヴァージニアコモンウェルス大学
ヴァージニア医科大学
リッチモンド,ヴァージニア州
順天堂大学大学院医学研究科器官・細胞生理学教授