原著第9版 著者序文
『分子細胞免疫学』(Cellular and Molecular Immunolgoy)第9版は,大部分を改訂し,この教科書が科学の進歩に乗り遅れないようアップデートしました.同時に旧版の特長である簡潔かつ理解しやすいスタイルを維持するよう努めました.新しい情報を付け加える際には,重要な概念の説明をつねに最優先し,教科書全体のボリュームは増やさないように努めました.さらに,より明瞭で正確かつ完全な教科書をめざすため多くの章を書き直しています.
現代の免疫学を貫く思想は,免疫学とはつねに進歩し続けている学問であり,それはいまや免疫応答メカニズムに関する根本原理を確立するだけでなく,それらの原理をもとに病気を理解し新しい治療法を生みだす段階にある,ということです.過去20年間の免疫学的治療法の革命的進歩には目をみはるものがあります.そのうちの最もイノベーティブかつ効果的な治療法のいくつかは,基礎研究の発展により,免疫系の活性化や制御メカニズムが詳細に解明されたことから生まれました.このことに私たち免疫学者はとても満足しています.本書第9版では免疫学と臨床医学の関連に特別な注意を払い,新しい免疫学的治療法がもたらす効果,その強み,弱点について特に強調して記述しました.
免疫学の臨床応用的側面だけでなく,重要な新しい進歩が得られた基礎免疫学の領域では,その根本的概念をアップデートしました.例えば,自然リンパ球,インフラマソームの活性化,胚中心において濾胞性ヘルパーT細胞が抗体産生に果たす役割,新規の記憶T細胞サブセット,そしてエフェクターT細胞の生理的あるいは病理学的な役割については,旧来の見方を改め新しい見解を記述しました.
これまでの版と同様,各章は他章を参照せずそれぞれの章だけを読めば理解できるように書かれています.このためには,各章間で基礎的概念や一般的原理について重複して記述することがときに必要となります.そのような重複は非常に有用であると私たちは感じています.それによって読者は学習内容を確実に記憶し,そして各章についての記述を他章とは独立して理解できます.このような試みは学部で本書を使った教育を行う際にも役に立つと思います.各章を1回1回の講義のなかで,それぞれ独立して教えることが可能となるからです.
文章だけでなくイラストレーションも,本書はつねに改善させています.すべてのイラストレーションは視覚的により深くかつ明瞭に理解できるように改訂しました.新しい図を加え,以前に使用されていた図は再評価し,時には正確さを期すために入れ替えました.本書を読みやすくするためのデザイン上の工夫はこれまでどおりとしました.例えば "テイクホームメッセージ(take-home-message)"を際立つものにするために太字でイタリック体(訳者注:日本語版では太字)のテキストを使用しています.参照文献のリストは,最近の総説を取り上げ,意欲的な読者が特定のトピックを掘り下げて理解できるようにしました.その参照文献のリストはテーマごとに設定し,読者にとって最も役に立つ総説や原著を見つけやすくしました.またこの第9版には,読者がアクセスできるオンライン上のリソースについてのリストも含めています.
個々のトピックについて私たちを補助してくれた人たちをアルファベット順に記します.Drs. Mark Anderson,Jason Cyster,Andrew Gross,Richard Locksley,Miriam Merad,Michael Rosenblum,Wayne Shreffler,and Catherine Wu;彼らは皆,私たちに快くアドバイスやコメントを与えてくれました.イラストレーターであるDavidと,DNAのイラストを描いたAlexandra Bakerはつねに本書のパートナーであり明瞭さや正確さについてかけがえのない助言をくれました.Elsevir社のスタッフはとても重要な役割を果たしています.編集者であるJames Merrittはつねに私たちを支持し励ましてくれました.マネージングエディターのRebecca Gruliowは本書の準備段階から発行まですべての過程にかかわってくれました.Ryan Cookはデザインの責任者であり,John Caseyは発行までのすべての段階でかけがえのない存在でした.本書執筆にあたり,揺るぎないサポートと執筆への理解を示してくれた私たちの家族にはこのうえなく感謝しています.最後に,私たちの教え子こそが本書を生み出したインスピレーションであり,彼らへの感謝を私たちはもち続けています.免疫学というサイエンスの考え方を深め,その知識を明瞭かつ意義がわかるよう最大限に伝えるためにはどうしたら良いか私たちが学んだのは彼らからだからです.
Abul K. Abbas
Andrew H. Lichtman
Shiv Pillai