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- 慢性臓器障害の診かた、考えかた
商品情報
内容
慢性臓器障害とは,慢性心不全,慢性肺疾患,慢性腎臓病などのCommon diseaseをひとくくりにした呼称であり,本書が初めて提唱する概念です.個々の病態はよくみるものばかりですが,これらを総合診療の現場で臓器群(横軸),進行度(縦軸)ごとに評価することで全く新しい診療スタイルが見えてきます.総合医と専門医の協同を促進する診療フレームワークでもある本概念の実用性と面白さを詳細に解説します.
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序文
序文
本書のタイトルは「慢性臓器障害の診かた,考えかた」です.
この「慢性臓器障害」という単語は初めてみるので意味がわからないでしょうし,字面も漢字だけでとっつきにくいし,急性や重症でもないので地味そうに感じたと思います.
でもこの「慢性臓器障害」は,内科や総合診療を真面目に5年,10年と続けていれば必ず出会うCommon diseaseですし,うまく診られずに不幸な転帰をたどり,悔しい体験をすることになるPitfall だとも思っています.実際に私の経験でも,たくさんみてきた研修医達も,同じような場面で困り,迷い,失敗しながら立ち向かってきました.
「俺と同じ苦労をして成長していけ!」とは思いませんので,まだ若手の皆さんが効率よく診かたを学び,これから担当するであろう慢性臓器障害の患者さんに苦しい思いをさせないためにも,その診療の基本的な「考え方」をお伝えしたいと考えてこの本を書きあげました.
ちなみに,私が慢性臓器障害という存在に苦しめられ,足をすくわれ,悩まされ始めたのは,総合診療の専門研修が終わった後のことでした.
救急や診断学に強い初期研修で「患者が死なない」ための基本的な力は身につけ,都市部・僻地の大規模・小規模の病院で多彩な疾患をみた総合診療研修で「たいていのCommon disease はうまく診られる」という自信もついていました.その流れで,「病院に持ち込まれるあらゆる健康問題に対して,最後まで責任をもって診療をしたい」と考え,最低5年は異動・退職しない宣言をして継続的な外来でかかりつけ医としての診療を始めたのです.
そこで出会った,病気の特性も診療の仕方も知っているはずなのにうまく診られなかった患者たちはこんな人達でした.
・症状や身体所見から的確に疾患を見抜く力があるはずなのに,気付いたら終末期まで進行していて手遅れだった心不全や肝硬変の人たち.
・心血管イベント予防のエビデンスを完璧に把握して,アスピリンやスタチンやACE 阻害薬を使いこなしていたはずなのに,心筋梗塞や脳卒中ではなく臓器不全が進行して仕事も生活もボロボロになっていく人たち.
・病棟で完璧に治療したはずのCOPDやCKDの急性増悪だったのに,退院後ずっと体調が悪そうだったり,すぐに再入院してしまったりが続き,やがて自宅退院できず施設送りになる人たち.
・臓器不全や癌や心血管疾患でずっと専門医にかかっていたのに,全身状態や認知機能の影響で「標準治療の対象外」とされたとたんに医療難民となり,総合医のもとに流れ着いても苦しみが取り切れないまま亡くなっていったあの人やこの人.
こんな人達は,現代医療の狭間に落ち込んでしまった「例外的で可哀想な人々」なのかなと最初は思っていましたが,3年,5年と同じところで診療していると,「決して例外ではなく,日常的にいつでもどこにでもいる人たち」に見えてきました.
ちょうどその頃に,「総合医はCommon diseaseのエキスパートなのでちゃんと診られるようになりたいが,病院や病棟のCommon diseaseとはなんだろう?」という疑問に突き当り,調べる機会がありました.そして私が経験してきた全症例や,国内で公表されている総合病棟や一般内科病棟のデータをみてみると,総合医ど真ん中な「診断困難事例」の割合は非常に少なく,「慢性経過をたどる臓器障害の急性増悪や終末期」が非常に多いことがわかりました.
そんな紆余曲折を経て,ようやく「慢性臓器障害が進行して不幸な転帰をたどるのは,日本において超Commonなできごとだ!」と認識できるようになりました.それからは関連するガイドラインはすべて目を通し,新しい文献も極力すべてキャッチアップし,日々診療スタイルを磨き上げてきました.徐々に手応えが感じられてきたため,研修医や多職種にも共有し始め,そこでの質問や抵抗と戦うなかで,わかりやすい教え方も見えてきました.
そうやって「日常診療で感じた無力感や悔しさ」を土台に,「日々出会う患者さんの苦悩が笑顔に変わる瞬間」を燃料にして,「慢性臓器障害の診かた考えかた」が出来上がり,こうして一冊の本になりました.
本音を言えば,全国の医学部を行脚してすべての医学生・研修医に直接伝えたいことばかりですが,体が一つしか無いためそれも叶いません.せめてこの本を熟読していただいて,日本の慢性臓器診療の向上を手伝っていただけると嬉しいです.
2020年 冬
札幌医科大学 総合診療医学講座
佐藤 健太
目次
1 はじめに
よくある事例×臓器別診療
■ 事例1:感染症をきっかけに心不全を繰り返し衰弱した75歳男性
■ 事例2:心・腎不全終末期に過ごせる病棟を確保できず,最期の苦しみが長引いた92歳女性
■ 事例3:圧迫骨折の治療は適切だったが,Polypharmacyを整理できず退院後寝たきりになった82歳女性
目標・メッセージ
本書の概要,対象読者と用語の定義
2 慢性臓器障害診療の現状と展望
1 専門医からの慢性臓器障害の見えかた,その限界
各学会ガイドラインから読み解く問題
■ 臓器が異なっても共通する特徴
■ 各変化ごとの問題点
2 総合医からの慢性臓器障害の見えかた
総合医の専門性とは
総合医はCommon diseaseのエキスパート
総合医の診療対象
■ 厚生労働省人口動態統計の死亡数・死亡率のデータから
■ WHOの「寿命と健康への負荷の大きさ=DALY」の統計データから
総合医が関わる5大Common disease
■ 慢性疾患のBig3
■ 急性疾患のBig2
総合医の診療場面
3 総合医と専門医の理想的な協働
主役が総合医,サポート役が専門医
日本版総合医の強み
専門医と総合医との連携パターンConsultationとRefferal
■1.Consultation
■2.Referral
総合医と専門医の望ましい連携
3 慢性臓器障害の捉えかた
1 慢性臓器障害の定義
2 慢性臓器障害の特徴
疫学的特徴
横断的特徴
縦断的特徴
研修上の特徴
3 よくある事例×慢性臓器障害診療
事例1のハッピーエンド
■ 事例1: 感染症をきっかけに心不全を発症したが,早期対応で軽症にとどめ,長期間自宅生活を維持できた75歳男性
事例2のハッピーエンド
■ 事例2: 心・腎不全終末期になっても,疾患改善よりQOL 維持を優先することで最期まで自宅で過ごせた92歳女性
事例3のハッピーエンド
■ 事例3: 重篤な合併症を起こす前にPolypharmacyの整理と慢性筋障害の治療が間に合い,骨折後も旅行を楽しめている82歳女性
4 慢性臓器障害の横軸「臓器群アプローチ」
1 慢性臓器障害の6臓器・3群
2 慢性臓器障害の呼称
3 各論1 臓器別アプローチ
第1群 心肺障害
第2群 肝腎障害
第3群 脳筋障害
4 各論2 Multimorbidity(多重疾患)へのアプローチ
Multimorbidity の疫学,特徴
Multimorbidity の全体を扱うために
■ Multimorbidity における問題リストの作り方
Multimorbidity の診療の進め方
■ Multimorbidity への対応の原則
■ 実際の診療の手順
5 慢性臓器障害の縦軸「ステージアプローチ」
1 各ガイドラインにおける「ステージ」の捉え方
2 慢性臓器障害のステージアプローチ
3 慢性臓器障害の疾病軌道
4パターンの疾病軌道
疾病軌道のバリエーション
4 慢性臓器障害の担当医
5 ステージと介入の呼称
ステージの呼称
介入の呼称
■ 予防
■ 薬物療法
■ 非薬物療法
6 ステージアプローチ各論─ステージごとの評価と介入
ステージごとの評価と介入
1 ステージA:リスク期と健康増進
2 ステージB:不顕性期と疾病予防
3 ステージC:有症候期と複数臓器障害
4 ステージD:非代償期と急性増悪
5 ステージE:終末期と非がん終末期ケア
7 慢性臓器障害の拡張「5大Common diseaseへ」
臓器別・ステージ別から,慢性臓器障害全体像へ
慢性臓器障害から,5大Common diseaseへ
個別疾患から,多重疾患へ
Diseaseから,health problemへ
全体像を学んだあとの,専門領域の深め方
あとがき
索引
コラム
1.本を書いてみたい人へ 佐藤流執筆ツールと参考書籍 前編
2.本を書いてみたい人へ 佐藤流執筆ツールと参考書籍 後編
3.PBC も原発性胆汁性“肝硬変”から“胆管炎”へ
4.De-novo
5.簡易的な禁煙指導(Ask&Advice)についてのエビデンス
6.終末期心不全における医療デバイスの停止
7.認知症終末期での人工栄養
8.終末期の金銭的問題をクリアするために
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書籍情報
- ISBN:9784498014107
- ページ数:312頁
- 書籍発行日:2021年2月
- 電子版発売日:2021年1月26日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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