臨牀消化器内科 2021 Vol.36 No.4 消化器診療と感染対策-COVID-19 を中心に

  • ページ数 : 114頁
  • 書籍発行日 : 2021年3月
  • 電子版発売日 : 2021年3月19日
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商品情報

内容

特集「消化器診療と感染対策-COVID-19 を中心に」

本号では,COVID-19 感染拡大下における感染対策を考慮した消化器診療,また,消化器医が知っておくべき感染対策について特集している.

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序文

巻頭言
消化器診療におけるCOVID‒19 のインパクト


入澤 篤志


2020年1月9日,世界保健機関(WHO)から中華人民共和国武漢市における肺炎の集団発生が新型コロナウイルス(SARS‒CoV‒2)によるものであるとする声明が出されて以来,短期間で世界中に広がり現在でも感染拡大は続いている.2021年2月1日の報告では,アフリカ等の統計は不確かながら,全世界での感染者数は1.03億人,死亡者数は224万人を数えている.本邦においては39.2万人,死亡者数は5,833人であり,2020年1月15日に第一例目の感染報告1)がなされてから,すでに1年が経過したにもかかわらず,2021年1月には地域限定ながらも2回目の緊急事態宣言が再発出された.今後のワクチン普及による拡大抑制に期待するところではあるが,落ち着くまでにはまだまだ時間がかかりそうである.

Coronavirus disease 2019(COVID‒19)の感染拡大は,医療界も含む数多くの産業に大きなインパクトを与えたのは周知のとおりであり,われわれの消化器診療にもさまざまな問題を投げかけた.とくに,消化器診療の主軸ともいえる消化器内視鏡診療は,エアロゾル発生の危険が高いこと,その生産を海外に大きく依存していた個人防護具(personal protective equipment;PPE)の不足も相まって,緊急事態宣言下では大きく制限された.現在では,いわゆる“第一波”の際のさまざまな経験・研究を活かした“コロナ禍における消化器診療”が形づくられてきている感もあるが,COVID‒19 発生以前の診療体制に戻ってはいない.


1.COVID‒19感染拡大下における消化器診療と感染対策

COVID‒19における消化器症状は決してまれではなく,下痢・嘔吐・腹痛などの消化器特有の症状はCOVID‒19患者の20%程度で認められる2).無症候性のCOVID‒19患者も一定数存在することも知られており,消化器診療に際しては,絶えずCOVID‒19の可能性を考慮し,診療を介した自身への感染,そして院内感染の源にならないように,十分な対策をとる必要がある.診察室内のアクリル板設置などの環境整備に加えて,診察時のフェイスガード着用,しっかりとした手指洗浄はルーチンに行うべきであろう.日本消化器病学会では,「COVID‒19への消化器病診療における留意点」3)を公開し,その注意を促している.また,診療を進めるに当たっては,各症例のトリアージレベル(①致死的な疾患・緊急性を要する処置,②潜在的には生命を脅かす恐れがある疾患・時間的制約のある処置,③致死的ではない疾患・緊急性のない処置)をしっかりと評価し,各患者のCOVID‒19感染のリスク,社会的COVID‒19感染状況,そして各種検査・治療手技の感染リスクも考慮することが求められる4)

SARS‒CoV‒2の感染経路は飛沫感染,接触感染が基本5)であるが,最近では空気感染の可能性も指摘されている6),7).消化器診療の主軸となる消化器内視鏡診療は,誘発される咳嗽等による飛沫,ひいては飛沫核を発生させる可能性8)があることを十分に理解しなくてはならない.日本消化器内視鏡学会は,COVID‒19感染拡大下における消化器内視鏡診療の指針を「提言」や「Q&A」という形で公表し,状況に応じてアップデートしている9)~11).ここでは,消化器内視鏡診療に求められる感染対策として,確実なPPEの着用と手指洗浄,飛沫拡散の防止対策,密閉空間になりがちな内視鏡検査室内の十分な換気,の3点がきわめて重要であり,そのうえで各患者のリスク評価に基づいた適切なトリアージを行うことで,消化器内視鏡を介した感染伝播は防げる可能性が高いとされている.緊急性のない待機的な内視鏡検査や内視鏡検診に関しても,長期にわたる休止は患者や検診受診者に重大な不利益を生む可能性は否定できない.感染拡大下であっても,しっかりと感染対策を行い消化器内視鏡診療を継続することは,この長期化したコロナ禍において重要なことであろう.


2.消化器病診療におけるNew standard の構築と課題

人類の歴史を振り返ると,これまでも社会構造を揺るがす世界的な感染症蔓延が幾度も起きている.有名なところでは,1347年から1351年に全世界で7,500万人が亡くなったとされるペストの流行,1918年から1920年に流行したスペイン風邪(インフルエンザ,全世界で5,000万人が死亡)が挙げられよう.そのほかにも,梅毒,天然痘,コレラ,AIDS(後天性免疫不全症候群)など,さまざまな感染症が問題となってきた.これらの疾患はその時々で恐ろしい災厄であった一方で,社会構造や社会活動を変えるきっかけになってきたことも事実である.南部アフリカの国々では,1990年代以降の急速なAIDS 流行拡大により,働き盛りの年代の男女に早すぎる死をもたらし,結果として経済活動の停滞が起きた.しかしながら,このことは南部アフリカで問題となっていた国家間・民族間戦争への資源投資を人命に投資するべきとの意識改革へと繫がり,国によっては抗AIDS政策が重要な国策となり,人々の生活・性習慣などに変化が起き,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染拡大が制御されてきた12).また,近年の経済界に目を向けてみると,2002年のコロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行を機に,電子商取引が飛躍的に成長したとされる.

このように,人類はさまざまな問題・困難事例が生じるたびにそれを克服し,いわゆる“new standard(新しい日常)”をつくってきた.今般のコロナ禍における大きな変革としては,オンライン教育のようなバーチャル化したさまざまなサービスが生まれ,医療界ではオンライン診療の普及が加速した.各組織においてもオンライン会議形式が通常の形態となり,われわれの学術集会でさえも,オンライン化は今や参加者が求める重要な形式になっている.

このような変革のなか,われわれは消化器診療領域における“new standard”をしっかりとつくりあげ,次代に継承していかねばならない.消化器診療においては,患者の体に触れて診察することが必須であり,そして,腹部超音波や消化器内視鏡等のさまざまな機器を用いて患者に対峙する.消化器内視鏡診療に関しては,簡易な防護具を身にまとうだけで施行していた施設も多いであろう.しかし,このCOVID‒19感染拡大により,消化器内視鏡は上部・下部ともにエアロゾル発生の危険が高い手技であることが改めて認識され,今ではキャップ,フェイスガード,マスク,長袖ガウン,グローブによるしっかりとしたPPE着用での内視鏡施行が当たり前になってきた.また,各種検査や外来診察後の手洗い・消毒の標準的施行もルーチンワークとしてほとんどの消化器医が実行していると思われる.このような対応はCOVID‒19 拡大前も当然すべきことではあったが,限られた施設・医師のみが施行していたのではないだろうか.その“当たり前”を確実に実践するようになったことは,COVID‒19がもたらした“変革”であろう.そして,診察室などへのアクリル板設置,陰圧室の整備など,さまざまな飛沫感染・空気感染対策も広がっている.このような施設整備などが推進されたことも,COVID‒19のインパクトといえる.われわれは,この時代に提唱された“new standard”を実践しながら次世代にしっかりと伝え,より進化した“new standard”の構築に尽力していかねばならない.


本号では,COVID‒19感染拡大下における感染対策を考慮した消化器診療,また,消化器医が知っておくべき感染対策について特集している.いずれCOVID‒19 は収束していくと考えられるが,今回のCOVID‒19の問題が落ち着いた後も,新たな感染症・pandemicが発生する可能性を考慮し,あらゆる感染症に対応できる消化器診療体制をしっかりとつくりあげていくことが,このコロナ禍を医療現場で経験したわれわれに課せられた使命であろう.本号がその礎の一つになれば幸いである.



Atsushi Irisawa

獨協医科大学医学部内科学(消化器)講座(〒321‒0293 栃木県下都賀郡壬生町大字北小林880)


文献・参考URL(2021年2月現在)

1)厚生労働省:新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(1例目)(令和2年1月16日).

2)Pan, L., Mu, M., Yang, P., et al.:Clinical characteristics of COVID‒19 patients with digestive symptoms in Hubei, China:a descriptive, cross‒sectional, multicenter study. Am. J. Gastroenterol.115;766‒773, 2020

3)日本消化器病学会:新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)への消化器病診療における留意点.

4)日本消化器病学会:新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)への消化器病診療における留意点;表1 COVID 感染を考慮した検査・治療の適応.

5)Yu, I. T., Li, Y., Wong, T. W., et al.:Evidence of airborne transmission of the severe acute respiratory syndrome virus. N. Engl. J. Med. 350;1731‒1739, 2004

6)WHO:Transmission of SARS‒CoV‒2:implications for infection prevention precautions. scientific brief;9 July, 2020.

7)CDC:SARS‒CoV‒2 and Potential Airborne Transmission. scientific brief;Updated 5 Oct, 2020

8)Hussain, A., Singhal, T., El‒Hasani, S.:Extent of infectious SARS‒CoV‒2 aerosolisation as a result of oesophagogastroduodenoscopy or colonoscopy. Br. J. Hosp. Med(. Lond) 81;1‒7, 2020

9)Irisawa, A., Furuta, T., Matsumoto, T., et al.:Gastrointestinal endoscopy in the era of the acute pandemic of coronavirus disease 2019:Recommendations by Japan Gastroenterological Endoscopy Society(Issued on April 9th, 2020). Dig. Endosc. 32;648‒650, 2020

10)Furuta, T., Irisawa, A., Matsumoto, T., et al.:Clinical Questions and Answers on Gastrointestinal Endoscopy during the Novel Coronavirus Disease 2019 pandemic. Dig. Endosc. 32;651‒657,2020

11)日本消化器内視鏡学会:新型コロナウイルス(COVID‒19)関連情報.

12)アフリカ日本協議会:アフリカの指導者達,エイズに宣戦布告.

目次

特集「消化器診療と感染対策―COVID—19を中心に」

巻頭言:消化器診療におけるCOVID‒1 のインパクト/入澤 篤志

1 .COVID‒19拡大下における消化器診療と感染対策

(1)消化器診療とCOVID‒19/四柳 宏

(2)COVID‒19拡大下における消化器診療/伊佐山浩通

(3)COVID‒19拡大下における消化器内視鏡診療/古田 隆久

(4)COVID‒19拡大下における消化器がん検診/青木 利佳

(5)日常の消化器診療におけるSARS‒CoV‒2感染対策/松田 浩二 他

(6)診断的消化器内視鏡におけるSARS‒CoV‒2感染対策―大学病院・大規模総合病院での対応/堀内 英華,炭山 和毅 他

(7)診断的消化器内視鏡におけるSARS‒CoV‒2感染対策―当院(病床数80床)における対応/原田 一道 他

(8)治療的消化器内視鏡におけるSARS‒CoV‒2感染対策/潟沼 朗生 他

(9)外科的治療(手術室)におけるSARS‒CoV‒2感染対策/日比 泰造

2 .感染性消化器疾患診療における感染対策

(1)知っておくべき感染性消化器疾患と感染対策/長谷川 諒,上原 由紀

(2)消化管感染症診療における感染対策/古本 洋平 他

(3)肝臓感染症診療における感染対策/中西 裕之 他

(4)胆道感染症診療における感染対策/山宮 知,入澤 篤志

(5)プリオン病における感染対策―消化器内視鏡診療の立場から/横井 千寿 他

〔連載〕

検査値の読み方

 慢性肝疾患における線維化の推測―肝細胞癌患者高リスクグループの囲い込み/吉田 英雄

内視鏡の読み方

 胃粘膜下腫瘍様隆起を呈した粘膜内異所性幽門腺の1例/沖元謙一郎,加藤 順 他

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書籍情報

  • ISBN:9784004003604
  • ページ数:114頁
  • 書籍発行日:2021年3月
  • 電子版発売日:2021年3月19日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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