はじめに
平成23年(2011年)に保健師助産師看護師学校養成所指定規則の一部が改正され、「助産師に求められる役割と機能」と「助産師に求められる実践能力」が提示され、これらを踏まえて、「助産師教育の技術項目と卒業時の到達度」の一部が改変されました。本改正においては、社会環境や出産環境の変化に対応できる助産師の能力強化が掲げられております。そのうえで、今後より強化されるべき助産師の役割と機能の9項目を明文化しております。
そこで今般、これら助産師教育の目指す目標を前提にした新刊、「新訂版写真でわかる助産技術アドバンス」を刊行いたしました。
本書は、2012年に発刊した「写真でわかる助産技術」を基盤にしたもので、助産師の専門能力の一貫として、妊婦を対象にした「妊婦の主体性を尊重し、その人らしい出産に向けて、安全で母子にやさしい助産の技術(わざ)」を取り上げました。
さらに、「女性の主体性を尊重した助産の技術(わざ)」に焦点を当て、妊娠期の診断とケア、分娩期の診断とケア、産褥期の診断とケア、新生児期の診断とケアの具体的技術を、わかりやすく実践的な動きで修得できるよう映像化してWeb動画を付録として作成いたしました。
助産の技術(わざ)の遂行には、女性中心(母子とその家族を含む)の質の高い助産とケア提供が求められます。助産師は法律に準拠した責任を持つ専門職であることから、助産師の基本となる適正能力(コア・コンピテンシー、core competencies)に基づいて、実践能力を洗練していく必要があります。
日本の助産師のコア・コンピテンシー(日本助産師会、2009年)は、「助産師の理念」に基づき<生命の尊重><自然性の尊重><智の尊重>を中心に位置づけ、<倫理的感能力><マタニティケア能力><ウィメンズヘルスケア能力><専門的自律能力>の4要素をもって構成されております。適正能力の維持には、時代性と社会のニーズを取り込んだ助産師教育と、教育の動向を熟知しながら理論と並行して自己学習を積み重ね、実践での体験を大切にしながら、修得能力を専門職として維持・発展させる日々の研鑚が求められます。
女性の主体性を尊重した助産の技術(わざ)
女性が主体性を持つ出産を振り返ると、出産の体位は平安末期の「飢餓草紙図」や近世の佐々木茂庵の「産家やしない草」では坐産が主流を占め、出産体位の自由性がうかがわれます。しかし、明治期の西洋医学の導入に伴い、消毒法と援助者主体の仰臥位産が一般化されました。地域内で助産師が主体性を持って妊婦に寄り添う助産のありようは、昭和35年(1960年)を境に施設内分娩に移行し、「自ら生む出産」から施設内で「安全に産ませる分娩」へと主軸が変化してしまいました。
これら出産の場やケアの変化に対して、1960年代後半から1970年初頭にかけての第2期ウーマン・リブ運動の流れにより、出産の場の民主化が求められ、産婦主体の自然分娩の重要性を女性に意識化させました。出産に対する意識の変革は、1988年に翻訳されたジャネット・バラスカスの著書「アクティブ・バース」が拍車をかけました。すなわち、妊娠時から自己の身体を自覚して健康保持に努め、出産時には産婦自らの心身の自由性が、自己の出産方法を見出して産む決意を自覚させて、自然で本能的な主体性の出産を成しとげる
ことを科学的な検証のもとに示されたのです。
日本においても産婦主体の自然出産は、妊婦や家族を尊重する各施設において取り入れられております。この自然で本能的な主体性のある出産を女性が成しとげられるよう、人間性あふれる助産の技(わざ)を妊婦に関わりながらケアのあり様を探求している熟練助産師の方々に、理論性を持って科学的な検証のもとに、その助産技術を展開して頂きました。
Web動画で示す助産の技術(わざ)
今日の看護学教育においては、分娩数の減少に伴い、母性看護学や助産学の教育目的に照らした堅実な実習ができなくなってまいりました。妊婦と新生児の方々を対象に、直接ケアを通して得られる実習体験は、豊かで貴重な学びになります。
このように、貴重な実習体験が少なくなってきた動向のなかで、このたび助産師の適正能力の修得に向けて、助産の技術(わざ)を理論に基づいて可視化してイメージ化を図り、そのイメージを実際の助産に適応させていく方法としてWeb動画を作成いたしました。
旧版では、妊婦と新生児に対する基本技術をカラー写真と理論に基づく解説で構成しましたが、本書では、骨子となる助産技術を精選してWeb動画といたしました。誌面と併せてWeb動画も有効に活用していただきたいと思います。Web動画で示す技術は、①妊婦に対し基本となる診察技術、②応用を培う技術、③助産師が臨床で実践している技術の追加、で構成しております。①妊婦に対し基本となる診察技術では、レオポルド触診法、超音波ドプラ診断装置による聴診、トラウベによる聴診、子宮底長測定、全身の触診(応用を培う技術)、内診の基本(内診台を使用する方法、クスコ式腟鏡の使い方)、一般的な胎盤娩出法を掲げました。②応用を培う技術では、分娩期における体位ごとの産痛緩和のケア、分娩体位別介助法(仰臥位、膝手位、側臥位)を掲げております。③助産師が現場で実践している技術として、NST(ノンストレステスト)、臍帯血採取を追加するとともに、早期新生児の観察を映像化して、詳細な観察から新生児の異常の早期発見ができるようにしました。
本書は、助産師学生の皆様には演習や自己学習の教材として、実践で助産技術を追求している助産師の方々には助産師の専門性と立ち位置を自覚しながら活用し、発展させていただきたいと思っております。
最後に快く写真撮影にご協力くださいました母子や家族の皆様、様々な形でご協力くださいました日本赤十字社医療センター看護部はじめ周産母子センターの皆様方、深谷赤十字病院看護部はじめ産婦人科医師・産科棟の皆様方、みづき助産院の皆様方、他関係する多くの方々、インターメディカ社長・赤土正幸様はじめスタッフの皆々様に感謝いたし、御礼申し上げます。
令和3年1月 吉日
平澤美惠子・村上睦子