特集 ブラインド穿刺・手技
Float like a butterfly, Sting like a bee

その昔，中心静脈はすべて“ブラインド”で穿刺・挿入していました。今では超音波ガイド下で穿刺することが当たり前になり，合併症発生率も大幅に下がっています。若い研修医に「昔はエコーなんて使わずにブラインドで挿入してたんやで」と言っても，年寄りの昔話としか取り合ってもらえないでしょう。

そんな時代にもかかわらず，今号の特集ではあえて，救急現場で救急医が施行する可能性のある，超音波や透視によるガイドを使用しない穿刺・手技，すなわち“ブラインド穿刺・手技”をテーマに取り上げることとしました。

救急の現場では，まさに，どのような状況で，何が起きるかわかりません。例えば，超音波ガイドなしで中心静脈を確保しなければならないシチュエーションに陥る可能性がゼロだと言い切れるでしょうか？　例えば，心肺停止患者に胸骨圧迫をしながらPCPS を挿入するときに超音波ガイド下穿刺が確実に実施できるでしょうか？　そのような状況では，たとえ現代の救急現場でも“ブラインド”な手技が必要になるかもしれません。しかし，その手技を成功させるためには正しい手順はもちろん，より正確な体表解剖学的な理解が求められ，合併症を起こさないためのコツ・ポイントも押さえておかなければなりません。そこで，どのような状況でも救急医として“蝶が舞うように”柔軟な対応ができ，必要とあらば“蜂のように百発百中で刺す”ことができるように，現在では学ぶ機会の少ないであろう“ブラインド穿刺・手技”のスキルと知識を継承することが，本特集の第一の目的です。

一方で，本特集を読んで積極的に“ブラインド穿刺・手技”を実践してほしいわけではないことを，本誌編集委員会および編集部として明確にしておきます。ブラインドによる手技には一定のリスクがあること，状況が整っていればより安全・確実でエビデンスのある方法を選択すべきことは，自明の理です。そのうえで，“ブラインド穿刺・手技”に関する知識を備え，感覚をつかみ，理解を深めることは，超音波・透視ガイド下の手技をより確実に，安全に行うことにもつながるはずであり，これが本特集第二の，いや真の目的であると考えています。

エキスパートな先生方が培われてきた“ブラインド穿刺・手技”のスキルと知識が若い読者にも受け継がれ，現代の臨床現場でより適切に，そして安全に活かされることを期待して，本特集をお届けいたします。

『救急医学』編集委員会
企画担当：大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター　島崎　淳也