はじめに
母性看護は、母子の生命の尊重、人間としての尊厳性と権利の尊重を基盤にしており、ケア対象者の心身の安全と快適さを図り、育児の基本技術、自らの健康保持や健康増進を行えるセルフケア能力習得へのケア、母子(親子)の絆を深める相互作用へのケアなど、多様な看護技術の習得が求められます。看護実践力は、学内で学習した知識・技術・態度が実習の場で統合されて習得されますので、そのケアの基本となる理論と根拠に基づいた技術を、ケア対象者とかかわりながら相互作用のもとに、的確に効果的に行う学習が必要となります。
2016年(平成28年)度看護師学校・養成所の入学定員は65,605人で、内訳は大学21,394人、短期大学1,930人、高等学校(5年一貫制・専攻科)4,420人、文部科学省指定専修学校980人、厚生労働省指定専修・各種学校36,881人です(平成29年度文部科学省 高等教育局 医学教育課資料)。一方で、出生数は減少の一途をたどり、2016年は976,979人(平成28年人口動態統計[概数])で出生数は100万人を切りました。母性看護実習のケア対象である妊婦・産婦・褥婦、新生児の減少に伴い、教育機関での実習施設確保は困難を極めているのが実情です。これらの実態に対し厚生労働省医政局看護課から、都道府県看護主管部(課)長宛てに「母性看護学実習及び小児看護学実習における臨地実習について」の通知(平成27年9月1日付)が出されました。要旨は、母性看護学実習3週間/ 90時間中、産科医療施設において実習を行わない実践活動外の学内実習等の内容です。具体的には紙上シミュレーションを重視し、モデル人形等を用いて看護を学ぶ学習法です。本通知に関しては、看護教育者から反論する諸々の意見が出されています。
産科実習施設の減少に伴い十分な実習での学びができないなかで、母性看護技術を精選して、その要点を理論的に原理の解説を行い、安全に確実に一つひとつの技術を習得できる学習教材として、2008年に「写真でわかる母性看護技術」を発刊いたしました。しかし、母性看護の実習体験をする機会はますます少なくなっており、先般「写真でわかる母性看護技術アドバンス」を刊行し、時代の推移のなかで必要とされる看護技術と、技術の理論を可視化してイメージ化を図り、実際の技術に適応させていく方法として、母性看護技術のWeb動画を作成いたしました。
本書では、骨子となる母性看護技術を精選してWeb動画とし、誌面と併せてWeb動画も有効に活用していただけるよう編集いたしました。
Web動画では、看護学生が最もかかわる頻度の多い観察と看護技術として、以下の内容を収録しました。
CHAPTER2「貧血症状・バイタルサインの観察」「子宮収縮状態の観察・子宮底長測定」「下肢浮腫の観察」「観察終了後」
CHAPTER3「バックケア」
CHAPTER4「呼吸の観察」「心拍の聴診」「体温の測定」「全身の観察」
CHAPTER5「体重の測定」「身長の測定」「胸囲の測定」「頭囲の測定」
CHAPTER6「沐浴」「着替え」「オムツ交換」
CHAPTER7「新生児用ベッドからの抱き上げ(縦抱き、横抱き)」「縦抱きから横抱きに変更する場合」「新生児の寝かせ方」
CHAPTER9「新生児の探索行動」CHAPTER10「吸着(ラッチ・オン)」
CHAPTER11「搾乳の実施」
なお、CHAPTER3の「バックケア」は、まだ一般化しておりませんが、褥婦の快適さを促すケアとして習得したい技術として加えました。
本書は、看護学生の皆様には演習や自己学習の教材として、実践で看護技術を追求している看護師・助産師の皆様には、看護学の専門性と立ち位置を自覚しながら活用し、発展させていただきたいと思います。
最後に写真撮影に快くご協力くださいました母子や家族の皆様、様々なかたちでご協力くださいました日本赤十字社医療センター看護部をはじめ周産母子・小児センターの皆様方、ほか関係する多くの方々、インターメディカ社長・赤土正幸様をはじめスタッフの皆様に感謝いたし、厚く御礼申し上げます。
2019年12月吉日
平澤美惠子