特集：疲労骨折を克服する－予防から最新の保存療法戦略まで－

今回の特集は，「疲労骨折を克服する－予防から最新の保存療法戦略まで－」というテーマにしました．疲労骨折は，アスリートにみられるoveruse障害の代表的な疾患であり，骨に繰り返し外力が加わることで生じる過労性骨障害といえます．強度が低下した骨に生理的範囲内の外力が加わって生じる脆弱性骨折とは異なり，アスリートから生まれる高エネルギー運動による負荷に，健常な骨が耐えられなくなり生じるものです．アスリートにとって高いパフォーマンスを実現するためには，より高い運動エネルギー発揮が求められる反面，骨にかかる負担は尋常でなく，生理的な骨修復・再構築能を上回ることになります．皆さんは，アスリートの骨から発せられる“悲鳴”をいち早く捉えることができているでしょうか．また，その悲鳴に対して，的確に対応することができているでしょうか．さらに，悲鳴を繰り返さないために再発予防の指導がうまくなされているでしょうか．本特集は，アスリートの選手生命を脅かす代表的な難治性疾患である疲労骨折について，まず病態を理解し，各部位の疲労骨折の特徴と攻略法，再発防止のための保存療法について学ぶ機会になると思います．今回の企画では整形外科医による構造修復の手術療法だけでなく，特に，理学療法士やトレーナーによる予防法・再発防止といった身体機能・動作の変容に重点を置いた内容としました．

まず「疲労骨折を理解する」として5つの項目を取り上げました．骨代謝から考えた疲労骨折のメカニズムについて順天堂大学の金子晴香先生，疲労骨折のリスクファクターについて東京医科歯科大学の柳下和慶先生，疫学について弘前大学の木村由佳先生にまとめていただきました．また，臨床で問題となる女性アスリートについて東京大学女性診療科の中村寛江先生，トップアスリートについて国立スポーツ科学センターの半谷美夏先生に，その特徴を解説していただきました．次に，「部位別診断と攻略法のトピックス」として7部位の疲労骨折を取り上げました．肘頭疲労骨折（慶友整形外科病院 貝沼雄太先生），腰椎分離症（札幌医科大学 藤本秀太郎先生），骨盤部疲労骨折（JIN整形外科スポーツクリニック 仁賀定雄先生），下腿疲労骨折（田岡病院 大西純二先生），足関節内果疲労骨折（京都府立医科大学 生駒和也先生），足舟状骨疲労骨折（タケダスポーツ＆ビューティクリニック 武田康志先生），第5中足骨疲労骨折（同愛記念病院 立石智彦先生）といずれもスポーツ現場でよく見かける疲労骨折ばかりです．そして最後に「最新の保存療法戦略」として4つの戦略を取り上げました．物理療法（筑波大学 金森章浩先生），biologics治療（関西福祉科学大学 下村和範先生），予防法としてのリハビリテーション（トヨタ自動車 岡戸敦男先生），コンディショニング（帝京大学 松田匠生先生）と，明日から使える実践的な内容です．

本特集号が，アスリートのキャリアエンドを少しでも減らす一助になるものと願っています．ぜひ，ご一読いただければ幸いです．

特集編集：熊井　司（早稲田大学教授）