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- 極論で語る緩和ケア
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内容
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序文
監修者・まえがき
きょく ろん【極論】
(1)極端な議論.また,そのような議論をすること.極言.
(2)つきつめたところまで論ずること.
[大辞林 第四版(三省堂)より]
医療は常に「加算的」でなくてはならない.
自分が内科の研修を始めた1990年代は,まだこうした考え方が色濃く残っているご時世でした.実際サイエンスの発展と共にできることは年々増えていき,特に自分が専門とする循環器内科ではその傾向が顕著だったように思います.が,その一方で,「加えるもの」がなくなると,
敗 北
であるという視点から脱却できずにいたのも事実です.そして当時は「研究」こそが,ここの課題を乗り越える唯一無二の手段であると信じられていました.
そこから20年が経ち,確かに「研究」からも多くの成果が上がりました.しかし,それで全ての限界を乗り越えることができたかといえば,決してそうではありません.確かに先進的な手技や新たな治療薬が導入され,その概念が変わるほど予後がよくなった疾患も存在します.しかし,「この世で確かなものは死だけ」という根幹は変わっておらず,どこで線を引くのかという議論は,ますます複雑なものになっています.
こうした状況に1つの光明を示してくれたのが,「緩和ケア」という領域の発展です.本書は「DNR」や「ACP」といったキーワードのその先,学問体系としての「緩和ケア」がどのようなものなのか,米国で実際に実践されている植村先生に紹介いただいています.
その内容で,自分が最も印象に残っているのは,
「もうできることはありません」
と二度という必要がない
という一言です.この言葉は,「何かを日々加えなくては」という強迫概念から多くの医師を解放してくれるのではないでしょうか.
緩和ケアは全領域が対象です.植村先生の提供してくださったノウハウは,我が国の現場でも,必ず役に立つと信じております.
本書の内容が,みなさまの「患者中心の医療とは何か」という問いの回答に少しでも近づくきっかけとなれば幸いです.
2023年8月吉日
監修者 香坂 俊
著者・まえがき
今から10年前,私は緩和ケア,特に非がんの緩和ケアを学ぶために渡米しました.米国で学んできた緩和ケアのエッセンスを,可能な限り詰め込んだのが本書です.
渡米前は日本で内科医として勤務していましたが,どれだけエビデンスに基づいた「正しい」治療をしても,亡くなっていく患者が一定数いました.そのような患者に効いてもいない侵襲的な治療を続ける以外にやれることがないという従来の医療に強い疑問を感じていたのです.そんな折,肺塞栓症による呼吸不全で搬送され,挿管を拒否している患者を担当しました.大腸がんから出血しており,抗凝固剤も使えず,呼吸困難で苦しむ患者を前になす術すべがありませんでした.くしくも,呼吸困難には「オピオイドが効果がある」とどこかで読んだことを思い出し,保険適応がないと反対する薬剤師を押し切ってモルヒネを使ってみました.すると確かに呼吸困難が緩和され,患者は亡くなりましたが,家族から驚くほど感謝されたのです.肺塞栓症のガイドラインには,呼吸困難に苦しみながら死にゆく患者に,どのように対応するかは書かれていません.緩和ケアを学ぶ必要性を痛感しましたが,非がんの緩和ケアは日本ではほとんど行われていないことを知り,渡米を決めました.
緩和ケアと老年医学の草分け的存在として知られるマウントサイナイ病院で,両分野の研修を受けられたことは人生最高の出来事でした.研修を通じて,いかにして「患者が本当に求めている医療」を明らかにし,それを「どのように提供するのか」を学んだのです.通常の医療では「もうやれることがない」と見捨てられるような困難な状況の患者に対して,何をすべきかわかるようになり,医師として,大きなやりがいを感じるようになりました.そして緩和ケアは,
全ての医療者が身に付けるべき基本的な「技」である,
と確信するに至ったのです.自分が学んだことを日本の医療者にも伝えたいという思いはずっとありましたから本書執筆のオファーは,まさに渡りに船でした.
しかし,1つだけ大きな懸念がありました.それは,日本では制度上の問題により「できない」緩和ケア(例.非がんの緩和ケア)がたくさんあるが,その制約をどうするのか,という問題です.私は日本で緩和ケアを行った経験がなく,具体的にどの部分に制約があるのか,把握することは不可能です.ですから,米国で普段行っている緩和ケアを,そのまま書くことにしました.
本書に書いてあることは米国臨床の常識ではありますが,日本臨床では実施不可能なことが含まれている可能性があります.そうした記述も『極論』の醍醐味かもしれませんが,皆さんには,さらに一歩踏み込んで,こう考えてほしいのです.「どうして,日本ではこれができないのだろうか?」,それは「医学的・倫理的に妥当なことなのか?」,それとも「日本の制度を変える必要があることなのか?」と.そのため,読者が吟味できるように引用文献もたくさん入れました.
日本でも多くの患者さんが,適切な緩和ケアを受けることができず苦しんでいる状況があるのかもしれません.本書が日本の緩和ケアを少しでも前進させるきっかけになれば,これ以上の喜びはありません.
【極論で語る】シリーズの執筆という名誉を与えてくださった香坂俊先生,読者が理解しやすいようかゆいところに手が届く素晴らしいイラストを描いてくださった龍華朱音先生,どうもありがとうございました.原稿の遅れなどにも辛抱強く対応してくださった丸善出版企画・編集部の程田靖弘様には,いくら感謝してもしきれません.
そして,執筆をずっと支えてくれたGemmaとSayaに感謝を込めて.
2023年8月吉日
著者 植村 健司
目次
第1部 緩和ケア総論
1章 緩和ケアとは?[What is palliative care?]
極論1 緩和ケアはがんだけでなく,全ての重症疾患が対象
極論2 緩和ケアは終末期だけにあらず
極論3 プライマリ緩和ケアは全ての医師が身につけるべき知識
極論4 生命延長だけがゴールではない
コラム1 ホスピス・緩和ケアの母 / コラム2 日本における緩和ケアの発展
2章 予後の予測[prognostication]
極論1 終末期病を見逃すな
極論2 危篤状態でも治癒の可能性は過少評価しない
極論3 大きく4つのトラジェクトリ―を把握せよ
極論4 緩和ケアはよりよく生きるためにあり
コラム1 小児緩和ケアでは意思決定や死の説明が難しい
3章 死の過程[imminent death]
極論1 死の過程は進行性かつ不可逆性である
極論2 治療のゴールを確認する
極論3 躊躇せず集中的症状緩和を試みる
極論4 comfort feedingで患者と家族をケア
極論5 緩和的鎮静の深さはRASSで測る
コラム1 在宅での看取り / コラム2 死の過程で生じる症状と対処法
4章 コミュニケーション[communication]
極論1 コミュニケーションのプロとして治療のゴールを話し合う
極論2 キャパシティーは判断内容と時間に依存する
極論3 「代理意思決定は複雑で難しい」と知る
極論4 コミュニケーションスキルで感情に対処する
極論5 SDMはソムリエの作業に似ている
コラム1 ヘッドラインと沈黙の効果 / コラム2 ACP の進め方
5章 精神的症状・機能障害[psychiatric symptoms & functional impairment]
極論1 重症疾患患者にうつ症状は多いが見逃しも多い
極論2 不安には非薬物療法も有効
極論3 せん妄はキャムの流れで評価
極論4 ADLとIADLで機能障害の低下を評価する
コラム1 不眠
第2部:疾患別の緩和ケア
6章 認知症[dementia]
極論1 認知症は死に至る病である
極論2 末期認知症患者を見逃すな
極論3 体重減少・嚥下障害にPEGやTPNはNO
極論4 痛みはあるが,その痛みは無言
極論5 定時投与で認知症患者の痛みをコントロール
コラム1 認知症患者はどのように亡くなるのか? / コラム2 認知症の留意点
7章 が ん[malignant tumor]
極論1 進行した固形がんは早期から緩和ケアする
極論2 がんの治療目的を患者と一緒に考える
極論3 緩和目的の放射線治療はその目的を明確にする
極論4 他科専門医を巻き込んで包括的なケアを提供
極論5 急変する血液がんは事前準備がとにかく大事
コラム1 嘔気について / コラム2 頭頸部がんはつらい症状が多く,多くの専門科との連携が必要
8章 心不全[heart failure]
極論1 心不全の死期予測はとにかく難しい
極論2 最も効果のある緩和ケアは心不全の治療
極論3 ゴールの話し合いも「最善を望み,最悪に備える」
極論4 終末期ではICDの停止も検討する
コラム1 destination therapyの是非
9章 肺疾患 [lung disease]
極論1 呼吸困難には全人的な評価・介入が必要
極論2 急性・慢性・強度・生活への影響で評価する
極論3 呼吸困難の緩和は原疾患の診断・治療を優先する
極論4 オピオイドは効果を見極めながら慎重に行う
極論5 人工呼吸器の中止は患者・家族の権利
コラム1 意思疎通できない患者はRDOSで評価 / コラム2 COPDの緩和ケア
10章 腎不全[kidney failure]
極論1 血液透析は万能ではない
極論2 腎不全患者のACPは緩和ケア医を巻き込む
極論3 腎不全患者の痛みを見逃さない
極論4 安全に使用できるオピオイドを知っておく
極論5 透析中止の判断は慎重に.予後プロセスも説明する
コラム1 透析を導入しない選択肢(+緩和ケア)もある
11章 痛みの処方箋(オピオイド基本編) [Pain management: Opioids part 1]
極論1 「オピオイドナイーブ」と「オピオイド常用者」に分けて考える
極論2 短時間作用型モルヒネは4時間効果が持続する
極論3 痛みの波に応じてレスキュー.目安は1時間毎
極論4 オピオイドローテーションはオピオイド治療の要
極論5 オピオイドローテーションの黄金律をマスターする
コラム1 持続静注か,間欠静注か
12章 痛みの処方箋(オピオイド応用編) [Pain management: Opioids part 2]
極論1 オピオイドの副作用は3つのキモを押さえる
極論2 PCAの有用性と禁忌を知る
極論3 PCAの持続速度変更は原則24時間以上経ってから
極論4 フェンタニルを使いこなす
極論5 パッチは血中濃度の把握が大事
コラム1 見逃されがちな副作用 / コラム2 フェンタニルパッチ / コラム3 神経障害性疼痛 / コラム4 非がん性慢性疼痛
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書籍情報
- ISBN:9784621308486
- ページ数:224頁
- 書籍発行日:2023年10月
- 電子版発売日:2023年10月5日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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