序文

本邦男性のがん罹患者数第1 位が前立腺癌であり，男性がん患者数の1/4 が尿路上皮がん，腎がんなどの泌尿器科癌です。当然，泌尿器科診療の柱はがん診療となり，ロボット支援手術，新規抗腫瘍薬の登場等で安全で質の高い医療が行われています。さらに，基幹病院を中心にがん診療の連携やさまざまなメディカルスタッフによるサポート体制も構築され，患者およびそのご家族に貢献しているものと思われます。

一方，泌尿器科診療は，泌尿器科癌を中心に幾つかのサブスペシャリティ領域を持ち，小児泌尿器科はその中の1 つです。少子化の本邦においても，小児泌尿器科疾患は少なくなっている訳ではなく，医療の発達により診療内容も高度となっています。患児のご両親は，泌尿器科医であればどなたも観てくれるものと思って泌尿器科外来を受診されます。しかし，泌尿器科の先生方で小児泌尿器科を得意としている医師は多くはありません。泌尿器科専門医をお持ちの先生の中で日本小児泌尿器科学会専門医をお持ちの先生はわずか4％程度です。これは，1960 年代から全国に小児専門病院（こども病院）が開設されたことにより，一般病院，総合病院はじめ大学病院から小児病院へ小児泌尿器科疾患患者の受診が変わっていったことが一因と思われます。もちろん，小児にとって小児診療に特化した施設での診療はメリットも多く，あらゆる点で望まれます。その反面，一般病院，基幹病院，大学病院に勤務する医師達は小児泌尿器科疾患を経験する機会が少なくなっていることも事実です。もちろん，小児科や小児外科の医師たちがカバーしてくれる機会も多いと思われますが，泌尿・生殖器を専門領域とする泌尿器科医の診療が望まれます。また，小児疾患がAYA世代，成人となった場合の診療を考えると，小児泌尿器科診療の知識は泌尿器科医にとって不可欠なものと思われます。

今回の企画は，尿道下裂などの特殊疾患は小児泌尿器科専門医へ診療をゆだねるとして，それ以外の日常診療で経験するであろう疾患を取り上げました。外来診療で小児疾患に遭遇しても対応に困らないよう，その疾患の基本的考え方，および最新の診療方針と診療内容をエキスパートの先生方に概説いただきました。その中で，外科的手技や手術の内容ではなく，治療介入の判断，治療法，さらにどのような経過観察をするのかを中心に解説いただいています。是非，未来ある子供たちのために日常診療にお役立ていただければと存じます。

佐賀大学医学部泌尿器科学講座
野口　満