はじめに

私は，介護保険がはじまった2000年に愛媛県ではじめての在宅医療専門クリニックを開業しました．開業当初は，在宅医療に精通した職員はおらず，介護保険や在宅医療の医療保険についても全く知らない職員達ばかりでした．気がつくと，「知らない」ことが当たり前の組織になっていました．訪問看護が医療保険から入るのか，介護保険から入るのかもわかっていないのです．自分が行うサービスがどこからお金が出て，自分が提供するサービスの金額がいくらなのかもわかっていませんでした．そのような状況で患者さんに説明をしたり，自信を持ってマネジメントできる訳がありません．「患者さんにとって医療者の無知は罪」になると思ったのです．

それから私は，開業の翌年から職員向けに在宅医療の制度に対するテストを実施してきました．テストを開始した頃は職員の理解も得られず，不安や反対の意見も多く，自分たちにテストをするのかと憤慨してテストを突き返す職員さえいました．しかし，そのような職員こそ必要な知識がない職員でした．最初は，私自身がテキストを作成し，手作りのテストを職員に実施していましたが，2009年から全国の医療機関からの要望もあり，全国の医療機関や事業所に公開して参加を広げ，「全国在宅医療テスト」を無料で実施してきました．そして，2012年には全国在宅医療テスト公式テキスト「たんぽぽ先生の在宅報酬算定マニュアル」（日経BP社）を発刊しました．その後，全国在宅医療テストは，北海道から沖縄まで全国にまで広がり，2023年度は約3,000人が参加するまでに規模が拡大しています．毎年，事業所単位で参加するケースも多く，年に1回在宅医療制度の知識を勉強する機会により，患者をマネジメントする知識の習得に役立っています．

本書「たんぽぽ先生から学ぶ在宅医療報酬算定ビギナーズ」は，2018年から開始した在宅医療初心者用のテストである全国在宅医療テストビギナー版の公式テキストという位置づけです．原則として，本書の章末問題からビギナー版の問題は作成されます．改訂3版では，2024年の診療報酬改定を踏まえて，内容を刷新しています．

テスト受験者以外の方も，はじめて在宅医療に取りかかる方，在宅医療を行う医療機関や訪問看護ステーション，ケアマネジャーなどの新入職員研修・初期学習にも最適です．このテストやテキストを利用し，学習することにより職員の在宅医療に関する知識は飛躍的に向上し，「知識がなくて当たり前」の組織から「知識がないと恥ずかしい」という組織に変革することができると考えています．ぜひ，ご活用下さい．

2024年6月

永井 康徳