監修の序

室伏広治氏は「心・技・体」のすべてを兼ね備えた稀代のアスリートとして長年活躍してきた．しかし，その競技人生は必ずしも順風満帆ではなく，腰痛や膝痛などの運動器障害との闘いでもあった．運動器の不調を自覚したときには，トレーナーとともにその不調を招いた動作不良を推察し，動作を改善するための様々なエクササイズを実践し，身体機能を向上させて不調を乗り越えるだけではなく，競技パフォーマンスを高めてきた．この試行錯誤こそが，室伏広治を五輪金メダリストのみならず，最高齢での世界陸上競技選手権金メダリストや日本陸上競技選手権20連覇という今後も破られることはないであろう偉業を成し遂げたトップアスリートたらしめた所以といえる．

立場が変わって，日本国民の「人生を健康に生き抜く力」であるライフパフォーマンスを高める旗振り役になった現在，自身の身体機能を自ら評価し，その機能低下部位を自覚したうえで，自発的に介入エクササイズを行う“Koji Awareness（KA）” を開発し普及させる活動を行っている．Koji Awarenessはまさに，室伏氏が自ら経験してきた身体機能評価と改善方法を伝授するものである．

健康寿命を延ばすためにメタボ健診を行い，疾病を未然に防ぐ方策は普及してきているが，健康寿命に大きな影響を与える運動器の機能評価と介入方法が十分に開発されていない現在において，Koji Awarenessは非常に有益なツールであると考える．本法を活用することで人々の運動器機能が向上し健康寿命が延びることにより，わが国のみならず人類すべてが抱える数多くの問題が解決されていくことが期待される．

2024年11月

早稲田大学スポーツ科学学術院教授
金岡恒治

序文

現代社会において，日常生活にスポーツやエクササイズを取り入れることは，生活の質を高め，生きる力を与えてくれるものです．しかし，スポーツを生涯楽しみ続けるためには，身体をただ使うだけではなく，定期的なメンテナンスを行うこともトレーニングと同じくらい重要です．

マッサージや治療といった他者の力を借りることも大切ですが，自分自身で身体をケアし，メンテナンスすることが欠かせません．自らの身体に対して責任をもち，その機能を維持・向上させるためには，日常的に意識して取り組むことが必要です．

この書籍では，長年のアスリートとしての経験と研究を通じて開発した“KojiAwareness（KA）” を紹介しています．KAは，誰でも簡単に実践できるセルフスクリーニングと改善運動を組み合わせた方法であり，アスリートだけでなく，日常生活のなかで身体のバランスを保ち，より快適に過ごしたい方々にも役立ちます．

KAスクリーニングテストにより自らの身体の問題点を把握し，それを改善していくことで，日常生活をより豊かに，スポーツやエクササイズをより楽しむことができるでしょう．この本が，読者の皆様にとって，自分の身体と向き合い，その機能を最大限に引き出すための手助けとなれば幸いです．

2024年11月

室伏広治