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伝導失語-復唱障害、STM障害、音韻性錯語-
商品情報
内容
『伝導失語』に関連する問題を詳細にまとめたかつてない論考集。
失語症に関わる臨床医、コメディカルスタッフ必読の1冊。
序文
はじめに
本書は,2011年11月に鹿児島で開催された日本高次脳機能障害学会サテライト・セミナーでの講演を核として,伝導失語に関わるさまざまなテーマを追加し,サテライト・セミナー特集として編纂されたものである。講演をして頂いた方々は言うまでもないことであるが,追加執筆をお願いした方々からも,大変に得難い力作をお寄せ頂き,結果的に,極めて水準の高い「伝導失語についての論考集」ができあがった。お読み頂ければ,伝導失語関連のほとんどすべての問題について,詳細に論じ尽くされていることに気付かれると思う。筆者の知る限り,伝導失語について,ここまで幅広くまとめて論じられた類書というのは,近年,ほとんど他に見あたらないのではないかと思う。そういう意味で,本書は,失語症に関心をもたれている多くの読者にとって,極めて貴重である。
伝導失語は,その歴史的展望でも述べるように,Wernicke(1874)が感覚性言語中枢と運動性言語中枢との離断(島損傷による伝導の障害)によって,理解は概ね保たれているにもかかわらず,復唱と錯語(音韻性錯語)の障害が生じる失語型として,提唱された。その後の研究の過程で,①理解が保たれているにもかかわらず生じる復唱障害というのは,なぜ,どのようにして生じるのか,②音韻性錯語が頻発するという特徴は,どのように理解すればよいのか,といった疑問に答えるべく,さまざまな仮説が提起されてきた。要するに,その名に呼応する「伝導」の障害との関連で,①や②がどのように説明可能なのか?が問われてきたといってもよい。
Wernicke の提唱後,Liepmann ら(1914)によって,伝導失語とは「理解力と復唱能力の解離」をその本質的特徴とする失語型であることが確認され,なぜ復唱が障害され,音韻性錯語が生じるのかについて,「伝導の障害」であるよりは,「発語の準備過程」に問題がある,ということを指摘した。
その後,あらためて(島損傷ではなく弓状束損傷によって)「伝導の障害」によることを強調したGeschwind(1965)を経て,復唱のみが障害されていた症例を提示して,Warrington ら(1969)は,復唱の障害は,言語に限局した短期記憶(verbal short term memory)の障害によるものであるとした。
以後,間もなく,復唱のみが障害される症例と自発語,呼称,音読などすべての表出過程において音韻性錯語を示す症例とは区別すべきである,という見解がShallice ら(1977)によって提起され,前者は復唱型(repetition type),後者は産生型(reproduction type)と称された。これらはプロトタイプであって,実際の症例は,この二型が混在しているとみなされているが,臨床的には,純粋な復唱型というのはきわめて稀であり,ふつう伝導失語と称される際には,産生型の病像をとり,音韻性障害は,復唱にのみならず,自発話,呼称,音読など,あらゆる表出モダリティーにおいて出現する。この時点以降,伝導失語とはいっても,これは均質な失語型ではなく,亜型が存在するという考え方がひろがってゆく。よくみられる伝導失語は,産生型伝導失語(reproductionconduction aphasia)である,ということになる。いずれにしても,復唱の障害をすべて言語性短期記憶の障害で説明しきれるのか,という問いは残る。
この点に関して,時代は遡るが,Goldstein(1948)の考え方は,再考に値するように思われる。彼は,伝導失語とは言わずに,これを「中枢性失語」(Central Aphasia)と称したのであるが,そこで彼が言いたかったことは,伝導失語といわれてきた失語症状の発現機序は,決して「伝導」の障害ではなく,Vygotsuky のいう内言に相当する「内言語」の中核的障害であって,それこそが,中枢性失語の本態なのであった。
ここでいわれる「内言語」の障害というのは,みかたによれば,後にHécaenら(1955)によって「思考を音節へと展開する段階での障害」であり,Duboisら(1964)による「言語分節における第一段階における異常」(une aphasie dela première articulation),あるいは「言語情報を構音するためのプログラミングの障害」ともみなしうるもので,これは先に述べたLiepmann ら(1914)の,
「発語の準備過程」における障害説にも通じるものである。これらのさまざまな主張をざっくりとまとめるならば,伝導失語の病態を,
(1)離断(伝導)の障害とみなす立場,(2)言語性短期記憶障害とみなす立場,(3)言語における第一次分節,ないし構音するためのプログラミングの障害であるとみなす立場,に大きく分けることができるかもしれない。(1)の視点からは「伝導」の障害であるので「伝導失語」という呼称はふさわしいかもしれないが,(2)や(3)をその本質とみなす視座からは,「伝導」の障害ではなく,「内言語」の中核的障害こそがその本態であることになるので,むしろ「中枢性失語」という表現のほうが的を得ていることになる(Yamadori ら, 1975)。
こうした問題意識のもとに,以下の第Ⅰ章からⅤ章までの論文を読んで頂くならば,本書がいかに意義深いものであるかを理解して頂けるに違いないと思う。
最後に,Freud(1891)が「伝導」の障害を強調した経緯を簡単に述べておきたい。Wernicke の流れでここまで述べてきた「伝導」とは相当に異なる考え方なので,無駄な誤解を招くことがあってはならないと思い,あえてふれておくことにした。Freud は,Wernicke の師であったMeynert が「神経細胞内に記憶心像が貯蔵される」といった考えを述べたことを痛烈に批判し,「神経細胞に記憶心像が宿る,などということはありえない」ことを強調し,中枢と称されている部位も,結局は神経細胞の集合から成り立っているわけであるから,言語中枢をふくめ,失語で問題となる解剖学的基盤は,細胞間の伝導の障害であって,そういう意味において,(アナルトリーを除く)すべての失語は,「伝導」の障害に帰着するものであったのである。つまり,Freud においては,「伝導」の次元が相当に異なるのである。神経学的次元と心理学的次元との関連を立ち入って考究し,苦闘していたFreud にとって,これらを混同しているとしか思えないMeynert の「神経細胞内に記憶心像が貯蔵される」といった言明は,許し難いものであった。Freud のいう「伝導」というのは,神経細胞間の解剖学的離断であって,そこにこそ失語症の基盤があると考えたのである。
1)Dubois, J., Hécaen, H., Anjelergues, A., et al. : Étude neurolinguistique de l’aphasie de conduction.Neuropsychologia, 2 : 9 ― 44, 1964.
2)Freud, S. : Zur Auffassung der Aphasien. Deuticke, Leibzig und Wien, 1891.
3)Goldstein, K. : Language and Language Disturbances. Grune & Stratton, New York, 1948.
4)Geschwind, N. : Disconnexion Syndromes in animals and man. Brain, 88 : 237― 294, 585 ―644, 1965.
5)Hécaen, H., Dell, M.B., Roger, A. : L’aphasie de conduction. L’encéphale, 44 : 170― 195, 1955.
6)Liepmann, H., Pappenheim, M. : Uber einen Fall von sog. Leitungsaphasie. Z ges NeurolPsychiat, 27 : 1, 1914.
7)大橋博司: 臨床脳病理学. 医学書院, 東京, 1965.
8)大東祥孝: 精神医学再考-神経心理学の立場から. 医学書院, 東京, 2011.
9)Shallice, T., Warrington, E.K. : Auditory ― verbal short term memory impairment and conductionaphasia. Brain & Language, 4 : 479 ― 491, 1977.
10)Warrington, E.K., Shallice, T. : The selective impairment of auditory verbal short―termmemory. Brain, 92 : 85 ― 896, 1969.
11)Wernicke, C. : Der aphasischen Symptomenkomplex. Max Cohen & Weigert, Breslau, 1874.
12)Yamadori, A., Ikumura, G. : Central(or conduction)aphasia in a Japanese patient. Cortex,
11 : 73 ― 82, 1975.
13)山鳥 重: 解説: H.リープマンとM. パッペンハイム-いわゆる伝導失語の剖検例.「神経心理学の源流, 失語編, 上」. 創造出版, 東京, pp.195 ― 212, 1982.
京都大学名誉教授, 周行会湖南病院顧問 大東祥孝
目次
第Ⅰ章 伝導失語とは?
1. 伝導失語の診断
2. 伝導失語症候のバリエーション
―音韻と意味をめぐるエチュード:「復唱障害」の意味するもの―
3. 伝導失語論の歴史的展望
第Ⅱ章 音韻性錯語
1. 音韻性錯語
2. 失語症の音韻論的障害の検討
第Ⅲ章 復唱障害,言語性短期記憶障害
1. 言語性短期記憶(short-term memory : STM)について
2. 純粋STM症候群をめぐって
3. 復唱障害について
第Ⅳ章 特殊型,小児の病態
1. logopenic progressive aphasia
2. 発達と音韻論的障害
3. 小児の伝導失語と発達性読み書き障害―音韻障害と音韻認識障害
第Ⅴ章 伝導失語の言語治療
1. 伝導失語の言語治療―WM障害の立場から
2. 伝導失語の言語治療―音韻操作障害の立場から
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書籍情報
- ISBN:9784880028439
- ページ数:290頁
- 書籍発行日:2021年12月
- 電子版発売日:2025年1月10日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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