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- HbA1cの読み方 数理糖尿病学のすすめ
商品情報
内容
糖尿病患者の血糖コントロール状態を表す最も重要な指標はHbA1cであり、グリコアルブミンが第2の指標となっていますが、それらが血糖とどのような関係にあるか把握できていますか? 統計学的な方法ではなく、生理学的病態を数学的に解析する田原氏独自の手法で改めて糖尿病診療のあり方を考えていきます。
序文
はじめに
数理糖尿病学というのは私が創成した、数学的な手法を用いて糖尿病を研究する分野のことです。このような研究を始めたのは、1990年頃からHbA1cに関する臨床研究を開始したことにあります。当時、HbA1cの臨床的有用性はほぼ確立されていましたが、その生理学的振る舞いはきちんと解明されていませんでした。我々は、HbA1cの生成代謝機構をモデル化し、このモデルを数学的に解析するという方法でHbA1cと過去の血糖の関係などを明らかにしました。この成功をきっかけにHbA1cに関する多くの問題についての数学的研究を進める中で、次第に「数理糖尿病学」という領域が私の中で形成されていきました。
研究で得られた結果のうち、臨床で有用なものは日本糖尿病学会で発表してきましたが、最も大きな成果は、糖尿病に関するいろいろな問題が、「数理糖尿病学」という新しい考え方で研究できること自体にあります。
本書では数理糖尿病学の内容を、複雑な数学的表現を取り除き、できる限り基礎的な知識のみで理解できるように工夫してお伝えしていきます。また、本研究で得られた臨床で役立つ結果だけでなく、研究そのものの面白さをお伝えできればと考えています。
■工学系研究者から医師へ
私は医学部に進学する前、1967年に東京大学工学部応用物理系を卒業し、1972年に大学院を修了しました。ここは今まで誰もしたことがない革新的かつ実用的な研究を手掛ける研究者を育成するという目的で1964年に開設された部門です。学生の間は、特定の専門を持たず、物理や数学など基礎的なことばかり勉強しました。大学院では実験物理学を専攻し、過去に行われた実験の再現から研究を始めました。金属の破壊に関する研究をしたのですが、データが集まってくると従来の説では説明できない未知の現象が出現し、必死にその現象の解明を目指しました。その結果、新しいモデルの構築と数学的解析に成功し、学位論文にまとめることができました。この時に初めてモデル化と数学的解析の方法を学びました。
大学院修了後、富士通研究所に就職しましたが、5年近くたった頃、親戚から「大阪大学に学士入学制度ができたので、医師になってみないか」という誘いを受けて受験したところ合格。学生生活は2度目でしたが、授業内容が面白く、直ちに医学に魅せられました。医学部卒業後は大阪大学の老年科に入局。大学では糖尿病専門医としての訓練を受けるとともに、グルカゴンに関する研究を行いました。その後、移籍した現在の病院でも、内科医兼糖尿病専門医として働きながら、HbA1cとグリコアルブミンの研究を行ってきました。工学部で得た知識はそのまま臨床と研究の双方にとても役立ちました。臨床医と研究者の両立で忙しい日々でしたが、研究をすることで臨床での疲れが癒され、私にとって研究はなくてはならないものになりました。
■HbA1cに関する研究-数理糖尿病学の始まり
HbA1cとグリコアルブミンに関する研究を始めたのは1990年頃です。HbA1cは現在では糖尿病の臨床において不可欠になっている検査ですが、当時は未解決の問題が多数残っていました。最たるものは、「HbA1cはいつの血糖を反映するか?」という最も基礎的な問題でした。
当時、大多数の文献には、「HbA1cは1カ月前の血糖を表す」と記載されていました。その根拠は、「HbA1cと過去の血糖の相関を調べると、1カ月前の血糖と最もよく相関する」という観察結果でした。しかし、1カ月前の血糖というのは何を意味するのでしょうか? 1カ月前のある1日の血糖なのか、それとも1カ月前の数日間を指すのか? このような疑問に対するきちんとした答えのないまま、何となく「HbA1cは1カ月前の血糖を表す」とされていたのです。
ですが、私はHbA1cに関する記載に大きな疑問を抱きました。赤血球中のヘモグロビンは生成時には糖化されていませんが、血中を流れる間に同じく血中を流れるグルコースと次第に結合し、グリコヘモグロビンが生成されます。日々生成されたグリコヘモグロビンは次第に赤血球内に蓄積され、120日後に赤血球の寿命が尽きると、赤血球と共に血中から除去されます。このようなグリコヘモグロビンの生成代謝機構を考えると、HbA1cは何らかの形で過去120日間の全血糖値を反映しているはずだからです。
HbA1cと血糖の関係について研究を進めるうちに、血中におけるグリコヘモグロビンの生成代謝に関する数学的モデルを構築することができ、このモデルを解析することにより、HbA1cと過去の血糖値の関係、HbA1cの動的変化などをきれいに説明することができました。このようにして、数理糖尿病学が始まりました。当時は未解決の問題が多数残っていました。最たるものは、「HbA1cはいつの血糖を反映するか?」という最も基礎的な問題でした。
当時、大多数の文献には、「HbA1cは1カ月前の血糖を表す」と記載されていました。その根拠は、「HbA1cと過去の血糖の相関を調べると、1カ月前の血糖と最もよく相関する」という観察結果でした。しかし、1カ月前の血糖というのは何を意味するのでしょうか? 1カ月前のある1日の血糖なのか、それとも1カ月前の数日間を指すのか? このような疑問に対するきちんとした答えのないまま、何となく「HbA1cは1カ月前の血糖を表す」とされていたのです。
ですが、私はHbA1cに関する記載に大きな疑問を抱きました。赤血球中のヘモグロビンは生成時には糖化されていませんが、血中を流れる間に同じく血中を流れるグルコースと次第に結合し、グリコヘモグロビンが生成されます。日々生成されたグリコヘモグロビンは次第に赤血球内に蓄積され、120日後に赤血球の寿命が尽きると、赤血球と共に血中から除去されます。このようなグリコヘモグロビンの生成代謝機構を考えると、HbA1cは何らかの形で過去120日間の全血糖値を反映しているはずだからです。
HbA1cと血糖の関係について研究を進めるうちに、血中におけるグリコヘモグロビンの生成代謝に関する数学的モデルを構築することができ、このモデルを解析することにより、HbA1cと過去の血糖値の関係、HbA1cの動的変化などをきれいに説明することができました。このようにして、数理糖尿病学が始まりました。
■数理糖尿病学とは?
最初に述べたように、数理糖尿病学は数学的な手法を用いて糖尿病を研究する分野です。一般的な臨床研究との違いを分かっていただくために、臨床医学における通常の研究と比較してみたいと思います。
通常の臨床研究は、
①患者さんのデータをできる限り多数集める
②統計学的解析を行い、その中に有意な関係を見つける
③有意な関係が見つかれば、その生理学的意義を検討するという方法で行います。
通常の臨床研究はここで終わりですが、数理糖尿病学では、ここから新しい研究が始まります。それは、
①想定される生理学的モデルを組み立てる
② そのモデルを数学的に記載する(静的なモデルの場合は多くは1次式で近似します。動的なモデルの場合は微分方程式になります)
③臨床的条件に合わせて数式を解き、臨床データと比較する
④ 結果が臨床データと一致すれば研究は成功、一致しない場合は、モデルを修正し、同じ検討を繰り返すという方法で研究を行うことです。数理糖尿病学の最大の特徴は定量的に検討することです。理工学系ではこのような研究方法は標準的な方法で、私にとってはこれが普通の方法ですが、医学系では数学的解析を行う訓練がないので、なじみがないかもしれません。
疾患のモデル化と数学的解析という考え方は、糖尿病の診断や治療技術にも広く応用できる手法だと考えられます。数学的解析手法が求められる分野は医学全般に多数あると思われますので、読者の皆さんにこの手法の考え方を知っていただき、今後の研究に役立てていただければと思っています。
田原保宏
目次
1章 HbA1cはいつの血糖を表すか?
HbA1cはいつの血糖を表すか?
HbA1cと血糖の関係はどんな機構で決まるか?
HbA1cの動きを読む
HbA1cと血糖値の関係
2章 グリコアルブミンはいつの血糖を表すか
グリコアルブミン:第2の血糖コントロール指標
HbA1cとグリコアルブミンの相互変換
HbA1cとグリコアルブミンの乖離
HbA1cとグリコアルブミンを併用した場合の血糖コントロール指標の読み方
肥満患者におけるグリコアルブミンの見方
糖尿病透析患者での血糖コントロール指標の見方
3章 HbA1cとグリコアルブミンの個人差を考える
ACCORD試験で示されたHbA1cの個人差の重要性
HbA1c・グリコアルブミン、その対比の推移を簡単に見る方法
CGMを用いてHbA1cとグリコアルブミンの個人差を定量する
HbA1cの個人差が及ぼす糖尿病診断への影響
4章 高齢者の糖尿病の考え方
高齢者糖尿病、忘れてはいけない栄養のこと
続・高齢者糖尿病、忘れてはいけない栄養のこと
患者別に血糖コントロール目標を設定する
5章 日常生活でHbA1cを応用する
HbA1cの質と血糖変動
HbA1cの季節変動を診る
糖尿病の診断と高血糖症の診断
血糖コントロール目標HbA1c<7%にエビデンスはあるか?(その1)
血糖コントロール目標HbA1c<7%にエビデンスはあるか?(その2)
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書籍情報
- ISBN:9784296206803
- ページ数:256頁
- 書籍発行日:2025年1月
- 電子版発売日:2025年1月16日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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