監修にあたって

医療系の学生が最初に学ぶ専門科目は，解剖学と生理学だと思います。どちらの科目もからだの「しくみ」を勉強します。医療は，病気や怪我によって傷ついた人間のからだを，もとの健康な状態に戻す仕事をします。したがって，「健康な」つまり正常なからだの状態を知っていなければ，もとに戻すことなど，最初から不可能です。正常なからだの状態についての知識は，医療にかかわる者にとって，必須かつ最も大事です。

からだの「しくみ」を主に構造面から解析する学問が解剖学であり，機能面から解析する学問が生理学です。当然，両者は密接に関連していますが，それぞれ専門家がおり，別々な授業として，別々な教科書を用いて講義されることが普通です。学問は日進月歩で進んでおりますので，これは当然といえば当然のことなのですが，初めて解剖学，生理学を学ぶ学生にとっては，これは容易なことではありません。同じ「しくみ」を，構造面と機能面からそれぞれ理解し，自分の頭の中でそれを統合するという学習方法は，初めて医療を勉強する学生にとっては，最初は非常につらいものですし，場合によっては，すぐに授業についていけなくなります。

また，からだには，山ほどの「しくみ」があります。そのどれ1つがうまく動かなくなっても，患者さんには大変な苦痛になります。したがって，そのどれ1つの学習もおろそかにはできません。いきおい，解剖学の授業も生理学の授業も微々細々にわたっていきます。もちろん，これはこれでよろしいのですが，初めて医療を学ぶ学生にとっては，今教わっていることが，からだ全体からみたとき，いったいどの部分の「しくみ」なのか，だんだんとわからなくなっていきます。まるで，森の中を迷っているような状態になり，わけがわからなくなって，ドロップアウトする原因になりかねません。

卒業するまでには，解剖学は解剖学として，生理学は生理学として十分な知識をもっている必要があるのは当然のことでありますし，卒業後の医療職を全うするうえで，からだ中のさまざまな「しくみ」について，十分に理解しておく必要があることも当たり前でありますが，解剖学と生理学を勉強し始めたばかりのところで，もしその勉強法に無理があって，医療に対する興味が急に失せるような事態が起こるとすれば，とても残念な気がします。

本書は，そのようなことが，医療系の初学者に決して起こらないことを願って企画されました。まず，イラスト（絵）を多用し，難しい文章を読まなくても直感的に理解していただくように努めました。学生の皆様に興味をもっていただくことが最も大事だと考えたからです。次に，解剖生理学として，両者を分けずにいっしょに記述しました。このほうがより自然だからです。そして，できるだけ分量を減らして，からだ中のことを一気に理解していただくことを目指しました。宇宙船から地球を眺めたときのように，からだの全体像のイメージを早くもっていただきたかったからです。

当然，この本だけでは解剖学，生理学の学習は不十分です。それぞれの授業で指定された教科書を熟読する必要があります。しかし，分厚い教科書を初めて見て，急に戦意が喪失したり，教科書を読み進んでいるうちにだんだんと気分が萎えていった学生さんには，是非とも本書をお勧めします。きっと頭の中がリフレッシュされるでしょう。

2014年4月

林　洋