はじめに

骨転移は，痛み，骨折，神経圧迫などを伴い，がん患者のquality of life（QOL）やactivities of dailyliving（ADL）を損なう大きな要因の一つである。骨転移では，しばしば緊急かつ集学的な対処が必要な症例があり，またリハビリテーションや自宅療養に向けての支援など，各診療科・職種の円滑な協力が必要である。このような連携を強化するために骨転移キャンサーボードが有用であり，連携の強化によって情報・思考・方針が共有化され，診療が円滑になり，治療の適正化が期待できる。また，骨転移診療に対する意識の向上により，見落としの減少，早期発見につながる。さらに，教育・研究上のメリットもあり，知識・経験の共有はスタッフの育成に有用であり，症例集積をすることで診療面・学術面における発展にもつながることが期待できる。

しかし，人的にも時間的にも制約のある中でキャンサーボードを行うには障壁もある。そこで，2021 年の日本放射線腫瘍学会（JASTRO）第34回学術大会において，「先行施設に学ぶ骨転移キャンサーボードの上手な進め方」というタイトルで日本緩和医療学会—JASTRO 合同シンポジウムが行われた。今回のシンポジウムでは，①　骨転移キャンサーボードを普及するために，②　意義・有用性についてアピールし，③　新たに始める施設が参考にできるように，④　効率よく進めるコツを考察するということを目的とした。各演者の先生方には，

・キャンサーボードの有用性

・キャンサーボードで優先的に相談すべき症例

・各施設のキャンサーボードの運用状況

・各診療科の役割

・円滑な運用のための工夫や課題

・症例の効率的なピックアップ方法

・緊急手術・照射の対応

・スタッフの育成

・意識改革

・地域での連携・啓蒙活動

などを中心に議論していただいた内容を投稿いただいている。キャンサーボードを進めていくには，自施設の状況に合った運用方法を模索していく必要があるが，本特集の先行施設の経験が参考になれば幸いである。

最後に，厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業「がん治療における緩和的放射線治療の評価と普及啓発のための研究（茂松班）」での取り組みの一つに「骨転移キャンサーボードの推進」が課題として挙げられ，本特集にも投稿いただいている中村直樹先生を中心としたワーキンググループで「骨転移診療において多職種・多診療科で協議すべき病態に関する提言」を作成し，JASTRO ホームページに掲載される予定となっているので，参考にしていただきたい。

江島泰生（獨協医科大学病院　放射線治療センター）
山口　崇（神戸大学医学部附属病院　緩和支持治療科）