医学用語の考え方,使い方

  • ページ数 : 172頁
  • 書籍発行日 : 2022年5月
  • 電子版発売日 : 2022年5月4日
2,970
(税込)
m3.com 電子書籍ポイント: 54pt ( 2 %)
m3ポイント:1%相当 point-info
今すぐ立ち読み
今すぐ立ち読み

商品情報

内容

その医学用語の使い方、エビデンスありますか?

「喘鳴や頭蓋の読み方は?」「頸部と頚部はどちらが正しいのか?」など,医療現場はもちろん,日常においても使用される用語や漢字の使い方に関する疑問.それらの疑問を解消するための根拠が,「あの先生がこう言っていたから」「パソコンで変換できたから」になっていないだろうか.本書では医学用語を使うためのできるかぎりの根拠を示し,さらに自分自身で解決するための具体的な実践例も紹介する.すっきりとした極論ではうまくいかない現実を直視するために,医学用語の基本から学んでいこう.

※本製品はPCでの閲覧も可能です。
製品のご購入後、「購入済ライセンス一覧」より、オンライン環境で閲覧可能なPDF版をご覧いただけます。詳細はこちらでご確認ください。
推奨ブラウザ: Firefox 最新版 / Google Chrome 最新版 / Safari 最新版

序文

おわりに


医学用語とひとくちにいっても,どちらかというとラテン語の語源などに焦点を当てた本か,読み方などのあんちょこ本がメインであるなか,本書の立ち位置は少し特殊と思われるかもしれない.本書を読まれた方には,医療と日本語の問題は,案外,切り離せない問題ということがすこしだけでも伝わっていればありがたいと思っている.

むしろどうしてこんなことを調べているのかと思われる方もいると思うので少し説明しておきたい.筆者はまず,なにより漢字好きだ.幼少期から漢字辞典を書き写すのが好きだったし,中学高校時代は漢字辞典を常に持ち歩いた時期もあった.

漢字検定も受けたが,そこで飽き足らなかったのは,漢検主催の懸賞論文の存在と,そこで「研究」という道を知ったからだった.高校のときに地元の地名に使われる漢字について調べ上げることをして,粗削りなものなのにその頑張りを評価していただいたことがあった(『「杁」という字について』).これが励みになり,調べて事実を探ることの楽しさを感じていた.ただ高校生当時,iPS細胞などの発見があって,そちらの方面にも大きく心を動かされていたので,文学部にいくか悩んだ挙句,最終的に医学部に進学した.

その後も漢字への興味は尽きず,医学部の講義が終わった後に,夕方から文学部の講義に潜り込みながら,医学用語を観察することにした.すると意外にもかなり不統一なところが見えてきた.特に気になったのは「楔入圧」の読みで,学生という立場を逆に利用していろんな人に読みを尋ねたが,誰に聞いてもあんまりはっきりした答えは返ってこなかった.調べてみると用語集での扱いもばらばら,歴史を遡っても事態は収拾せずさらに混沌とした状況が明らかになるばかりだった.

また調べ始めて気づいたことは,同じような医学と日本語,漢字について調べている人が(蘭学~明治時代はわりといるが特に現代については)ほとんどいない,ということだった.誰もいないなら,筆者のようなものでも何かしらこの分野に還元できるものがあるかもしれないと,現在も調べ続けている.とはいえ,日本語学や中国語学などの文学部の基本的な素養や訓練を受けることなく,「なんとなく」で研究を続けてしまっている現状には,不安感が常に伴い,重大な前提や手法を見落としているかもしれないという恐怖と日々戦っている.その裏返しとして根拠をできるだけ明確に示そうと努めている.医学方面でも,日々の臨床などでひっそりと医学用語の使われ方を観察している若手の一医療関係者に過ぎず,特に他分野の用語の実際は知らないことが多いので,現状とかけ離れた記述をしていれば,ここにお詫び申し上げる.医学分野についても筆者の知識の多寡で差が出ないよう,できるだけ主観ではなく文献を示そうと努めた.また,本書を執筆している間に,筆者が属している日本精神神経学会で精神科用語検討委員会に参加するようになり,日本医学会の用語表記基本指針策定ワーキンググループにも声がかかった.実質的に何かができたわけではないが,用語管理の実際を経験して考えをブラッシュアップしつつ,今後,最終的に用語に関する悩みが減るような取り組みをしていきたいと考えている.

言葉はうつろいゆくもので,医療分野という広くて狭い専門分野のなかでもそれは例外ではない.日々医学が進歩して新しい医学用語が生まれる一方で,古い言葉が保存されているこのアンバランスな感じは観察していておもしろい.ただ医療は実践を伴うものである以上,言葉の観察と分析だけでは済まされない.どう管理し,整理してよりよくしていくかという視点も重要になる.そのためには古くから使われてきた用語にも手を付けなければいけないこともあるだろう.筆者としては,生半可な知識や感情論で,言葉を扱ってほしくはなく,できれば過去の議論を参照し,それに基づいて堅実な議論をしていってほしい.用語施策そのものに携わらない医療関係者のみなさんにとっては,「理系分野だし漢字や日本語は苦手」だから適当にその場の空気に合わせたらいい,で済ませてほしくない.医療分野こそ日本語がたいせつだということをしっかり認識して,最低限の部分を自己解決できる能力を身につけてほしい.これが漢字や日本語を愛する医療関係者の願いであり,本書がその一助となれば幸いである.

本書をなすにあたって,中外医学社の桂彰吾氏,笹形佑子氏にはお世話になった.

末筆ながら感謝申し上げる.


令和4年3月

西嶋佑太郎

目次

第1章 はじめに

1)漢字のとめ・はね

2)医学用語も似たようなもの

3)どちらでもいいが,なんでもいいわけではない

4)本書の構成

第2章 医学用語の前提となる日本語・漢字の知識

1.医学用語を語る前に

2.手書きと活字

3.常用漢字表と混ぜ書き

1)常用漢字表の目的―表内外の境界線

2)同音の漢字による書き換えと,混ぜ書き

4.活字と文字コード―表外漢字字体表

1)JIS漢字

2)表外漢字字体表

5.専門用語と漢字

1)ことばの「位相」

2)専門用語行政

3)漢字がどう扱われてきたのか

第3章 医学用語総論 「なんでもいいわけではないこと」

1.医学用語とは

2.医学用語とふつうのことばは何が違うのか

1)語彙の違い

2)専門用語ではなぜ難しい言い方をするのか

3)表記,読みからみた違い

3.医学用語集,医学用語辞典の概要

1)医学用語集総論

2)『日本医学会 医学用語辞典』

3)『文部科学省 学術用語集 医学編』

4)各分野の用語集概観

4.用語集の凡例

1)用語集の凡例をみること

2)漢字字種

3)字体

4)用語の読み

5)凡例を振り返って

5.用語集を使ってみる:実践編

1)用語集の使い方

2)用語集の選び方

3)用語集を使った調べもの

第4章 医学用語各論

1.「脊」は手書きでどう書くか

2.「頸部」と「頚部」はどちらが正しいのか

3.「鼠蹊」と「鼠径」と「鼡径」

4.「癌」と「がん」を使い分けるべきか

5.「膣」「腟」はどちらが正しいか

6.「掻痒」か「搔痒」か「瘙痒」か

7.「腔」を「クウ」と読むのは間違いなのか

8.「頭蓋」は「ズガイ」か「トウガイ」か

9.「肉芽」を「ニクゲ」と読むのは誤りか

10.「楔入圧」はなんと読むか

11.喘鳴は「ゼンメイ」か「ゼイメイ」か

12.「熱発」は間違いか

13.「抗菌薬」か「抗生物質」か.「抗─生物質」か「抗生─物質」か

14.「理学所見」か「身体所見」か

15.「御侍史」と「御机下」のこと

第5章 これからの医学用語

1.医学用語をめぐる最近の研究・取り組み

1)医学用語の歴史

2)それぞれの言葉の歴史

3)学術用語としての側面

2.用語に潜む差別の問題

1)痴呆→認知症

2)精神分裂病→統合失調症

3)血管炎の病名変更と,新型コロナウイルス

4)「奇形」をめぐる議論

5)「優性/劣性」をめぐる遺伝用語の変更

6)「障害」の表記をめぐる議論

7)「障害」と「症」と「病」について

8)偏見を理由とする用語変更をどうしていけばいいのか

3.医学用語のわかりやすさ

1)患者・家族など非医療関係者にどう伝えるか

2)看護・介護分野で進められる用語の簡易化

3)医学系教育のなかでの用語問題

4)「わかりやすさ」は良いことだけなのか

4.これからの医学用語に求められること

1)用語集,用語辞典に関して

2)非医療関係者へ向けての視点

コラム

1 漢字廃止論と医師たち

2 昭和初期の医学用語統一,改良運動

3 医学用語に使われる漢字の数(昭和版)

4 作成者が特定できる医学用語

5 誤読から変更された用語

6 印環細胞癌の「印環」とは

7 ある医学用語がいつ頃からあるのかを調べてみる

8 日本製の漢字 「腺」と「膵」

9 用語の起こりを調べる難しさ―「麻酔」

10 中国人も医学用語を読み間違える?

おわりに

索引

便利機能

  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応
便利機能アイコン説明
  • 全文・
    串刺検索
  • 目次・
    索引リンク
  • PCブラウザ閲覧
  • メモ・付箋
  • PubMed
    リンク
  • 動画再生
  • 音声再生
  • 今日の治療薬リンク
  • イヤーノートリンク
  • 南山堂医学
    大辞典
    リンク
  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応

対応機種

  • ios icon

    iOS 最新バージョンのOSをご利用ください

    外部メモリ:10.8MB以上(インストール時:25.6MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:43.3MB以上

  • android icon

    AndroidOS 最新バージョンのOSをご利用ください

    外部メモリ:10.8MB以上(インストール時:25.6MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:43.3MB以上

  • コンテンツのインストールにあたり、無線LANへの接続環境が必要です(3G回線によるインストールも可能ですが、データ量の多い通信のため、通信料が高額となりますので、無線LANを推奨しております)。
  • コンテンツの使用にあたり、m3.com電子書籍アプリが必要です。 導入方法の詳細はこちら
  • Appleロゴは、Apple Inc.の商標です。
  • Androidロゴは Google LLC の商標です。

書籍情報

  • ISBN:9784498148222
  • ページ数:172頁
  • 書籍発行日:2022年5月
  • 電子版発売日:2022年5月4日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

まだ投稿されていません

特記事項

※ご入金確認後、メールにてご案内するダウンロード方法によりダウンロードしていただくとご使用いただけます。

※コンテンツの使用にあたり、m3.com 電子書籍が必要です。

※eBook版は、書籍の体裁そのままで表示しますので、ディスプレイサイズが7インチ以上の端末でのご使用を推奨します。