はじめに

数年前であっただろうか，コロナ前の日本整形外科学会総会の時と記憶している．日本スポーツ医学財団の松本秀男先生の発案で，有志が集まった．後世に残るスポーツ医学の成書・聖書を作りたい，松本先生の熱い思いが語られた．もちろん全員，合意した．総論，上肢編，下肢編，体幹編の4冊組と十分聖書に値するボリュームである．私は体幹を任された．歴史に残る教科書と言われたため，内容，人選に半年かかった．時間をかけて申し訳なく思っているが，最高の人選になったと自負している．

さて内容であるが，5章の構成を考えた．1章から4章は部位別である．頚椎，胸郭，胸腰椎，骨盤・股関節に分類した．頚椎，胸郭の章では骨折，疲労骨折，捻挫，頚椎・頚髄損傷などの外傷に加え，ヘルニアや脊髄症といった変性baseの疾患にも焦点を当てた．確定診断の新しい取り組み，最小侵襲内視鏡手術の最前線も解説していただいた．胸腰椎の章では，代表的である分離症，椎間板ヘルニア，骨端輪骨折に加え，これまで謎の腰痛と言われていた非特異的腰痛にも焦点を当てた．非特異的腰痛のpain generatorを可視化し，病態を確定することで完治に導ける．最小侵襲である全内視鏡手術（8 mm切開，局所麻酔，背筋損傷最小限）の最前線も詳細に解説され心強い．骨盤・股関節の章では骨折，骨端症，グロインペインといった通常のスポーツ外傷・障害の解説はもとより，FAI，弾発股，梨状筋症候群にも触れていただいた．

本書の特徴は最終章である．近年，体幹運動療法の進化は目覚ましい．Joint by Joint Theory，Active Corrective Approach，筋膜スリング，ダイアゴナル，エロンゲーション，アーティキュレーション，アイソレーション，インテグレーション，聴きなれない用語が並ぶ．これらは最先端の現場では，当たり前に行われているのである．アスリートを支援するスポーツドクターならば，必ず理解し，そして実践していただきたい．締めは，これらの理論を巧みに操るモーターコントロールである．ヨガ，ピラティス，体幹シナジーが代表的である．次の10年，これらの理論と技がgold standardになるであろうと確信している．その先駆けとしての本書の上梓は，歴史的であり，まさに体幹の聖書・成書であること，体感している．通読し，体幹を体感していただきたい．

「一葉知秋」

一枚の葉が落ちたのを見て，秋が来たことに気づく．つまり，わずかな現象から，事の本質を察知すること．些細な病態から症状を呈しやすいアスリートの痛み．しっかりと診察しなければ確定診断は困難である．一葉知秋のごとく，些細な症状や画像所見を見逃さず，病態の本質を見究めていただきたい．その確定されたpain generatorを最小侵襲手術，最先端運動療法を駆使することで，アスリートが再びフィールドで輝く．スポーツドクター冥利に尽きる．本書が必ずその一助となることを信じ，自信を持って推薦したい．

2022年7月

徳島大学医学部運動機能外科学（整形外科学）
西良浩一