巻頭言
興味のあることをみつける

私が慈恵医大を卒業した際，1つ上の学年より，ストレート研修から現在のようなローテーション研修に変更されていた。しかし制度が始まったばかりで研修がかなりいい加減に思えたため，私はとりあえず全身を診る科で研修しようと父の出身医局である慶應義塾大学の小児科へ入局し，研修医となった。研修1年目の当直時に出会った6カ月の女児が，全身紅斑と膿疱でブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群と思われたが，オーベンは皮膚科にコンサルトを行い生検され，膿疱性乾癬と診断をつけた。このことが強い印象として残り，皮膚科へと転科するきっかけとなった。

私のサブスペシャリティーはいぼである。自分の皮膚科のサブスペシャリティーを決めるタイミングはいつだったのかを思いおこしてみる。ウイルス性皮膚疾患に興味があり，大学院に行く際テーマについて当時の慈恵医大主任教授新村眞人先生にご相談したところ，慈恵医大の大学院2年目以降は国内外の研究室に行くことが自由であったので，パスツール研究所パピローマウイルス部門（Orth教授）のところに行くかと聞かれた。当時私はすでに26歳になっていたが，海外旅行はおろか飛行機にも乗ったことはなくフランス語も話せないのに，新村先生の「研究所内は英語である」との話を信じて簡単に行くことを決めた。実際には研究所内はすべてフランス語で，実験で同僚と話すときだけ英語であった。毎週月曜日のOrth教授との実験の話も最初フランス語で行っていた。終わると下痢（後で気づいたが神経性）であった。途中実験をわかってないと言われ，そのときからOrth教授とは英語しか使わなくなった。研究内容はヒト乳頭腫ウイルス（HPV）5型の系統樹作成とバキュロウイルス蛋白発現系でのウイルス様粒子の作製であり，ウイルス様粒子がとれたときはうれしかった。

新村先生に臨床と基礎研究は両輪であり，いぼ専門外来でもしっかりと症状を診ることを教えられた。また新村先生の臨床皮膚科のあとがき^1）にも，「皮膚科を選んだ者は，皮膚科の職人にならなければならない。（途中略）まず基礎的な事項をすべてまなばなければならないが，そのうえで1つか2つ何か興味のあることを見つけることである。（途中略）一つのことを一生懸命に3年もやっていれば，そのことに関しては日本一に簡単になれるものである。20年もやっていれば，いつのまにか世界に通用する専門家になっている。こういう何か一つを持つことも大切なことである」と書かれていた。2002年7月パリの世界皮膚科学会に参加した際，新村先生がそれまでに診られていた1,000名以上の神経線維腫症1型の患者さんについてご講演されているのを聞き感銘を受けた^2）。

大学院を修了し3年ほどたったときに，国立成育医療研究センター立ち上げに向けて皮膚科医の公募がありそれに通ったので，国立小児病院との統合前の国立大蔵病院へ異動した。国立小児病院と併任となり小児皮膚疾患をみる機会が増えた。大学では意外と小児の皮膚をみる機会が少なく，研修医以来であった。国立成育医療研究センターに移行して勤務を開始したが，以前と違いプライベートでは外科医の妻と結婚し子供がちょうど生まれたときであった。妻がテキサス大学MDアンダーソン癌センターの乳腺外科へクリニカルフェローで行きたいという希望があったため，当初は私が子供と残り妻を単身赴任させようと考えていたが，アメリカのテロでビザが妻単独ではおりなかったのと，単身赴任だと妻が子供の成長をみることができず，それも家族の形態としてどうなのかと思ったので，苦渋の選択で国立成育医療研究センターをやめることにした。その状況を心配された新村先生に「おまえは子守りにいくのか？」と言われてしまった。自分でポスドクのできるラボを探してヒューストン・ベイラー医科大学分子細胞生物学講座（Roop教授）に2回目の留学となった。くしくもフランスとアメリカ，独身と家族という対照的な生活を経験した^3）。

2回目の留学後に慈恵医大に戻ったときは主任教授が中川秀己先生にかわっていてその後7年，東京逓信病院（江藤隆史部長）に6年，自治医大さいたま医療センター（出光俊郎教授）に3年，千葉愛友会記念病院に2年，現在の病院で14個目の病院勤務となった。いくつもの病院に勤務したことで色々な人との交流や異なる皮膚疾患を経験できたことはよかったと思っている。また細々と，いぼをいかに治すかをライフワークとして継続できている。

今基礎研究は，計画をあらかじめ立てないと臨床材料も取れないが，臨床は皮膚科医でありさえいれば続けられる。ぜひとも日常診療においても興味のあることをみつけてほしいと願う。

川瀬正昭
Masaaki KAWASE，東京慈恵会医科大学葛飾医療センター皮膚科，診療部長

【文献】

1）新村眞人：臨皮，52：480，1998

2）川瀬正昭：臨皮，65（増）：59，2011

3）Cadetto. jp：Vol.　6，2013年10月15日