introduction

人工股関節全置換術（total hip arthroplasty；THA）は誰がやってもそこそこの成績が出るといわれる時代になりました。材質も良くなり，手術技術も良くなり，手術支援技術も進歩しています。変形性股関節症診療ガイドラインでも，THAはこれまでよりも長期成績は向上していると記載されています。そのため，手術適応の低年齢化が進み，より筋腱温存による低侵襲手術の必要性が求められるようになりました。

THAの術後合併症の質も変化してきました。ライナーのポリエチレンへのクロスリンク処理やビタミンE 添加により摩耗や非感染性の弛みは皆無に近くなりました。術後感染症と静脈血栓塞栓症への対策も進歩し，インプラントの設置精度の向上から脱臼は極端に減ってきました。そのため，耐用年数の向上，健康寿命の延伸，それによる年齢の高齢化が相まって，骨粗鬆症治療薬は年々進歩しているもののインプラント周囲骨折が次の課題になってきました。そうなると，長期的に骨温存をいかに保ち続けられるか，次の再置換に備えたstemをどう選択するかなど，インプラント選択のコンセプトも変化します。

そのような時勢から，成績の良いcurved short stem（CSS）とfull HA coating stem にスポットライトが当たってきたのは，自然の流れかもしれません。ただし，各社の各種コンセプトの細やかな違いもあり，また単なる外国で製作されたデザインをそのまま受け入れるのではなく日本人により適したデザインも考えられてきており，それらの知識を深めて使用することは非常に重要なことといえます。

より低侵襲を目指すのであればCSSは有利です。万が一，次の再置換術が必要になった場合にはprimary THAのインプラントが設置できる利点も有します。さらに屈曲挿入が許容され，骨・軟部組織の温存はより高まります。しかし，高度な手術テクニックが必要とされます。一方，full HA coating stemについては，汎用性が高く，良好な長期成績も明らかになり，セメントインプラントのコンセプトに近いことから，重度の骨粗鬆症患者にも推奨されます。仮にセメントユーザーがセメントレスユーザーに移行する場合でも，違和感を最小にできるかもしれません。つまり，選択肢が広がったともいえます。

最近注目されているCSSとfull HA coating stemは，いずれもインプラントコンセプトの知識に加え，適応や手術テクニックのコツとピットフォールが存在します。本号では，そこに焦点を絞り込んだ特集を企画し，第一線の先生方にご執筆いただきました。先生方にはご多忙のなか，玉稿を賜りましたこと，この場をお借りして深謝を申し上げます。本特集が関節外科医の知識や手術技術のアップデートになり，質の高い治療法の標準化につながれば，これ以上の喜びはございません。

北里大学大学院医療系研究科
高平尚伸