introduction

曲がった樹がまっすぐ育つように，幹に添え木を結わえ付けた日本整形外科学会のロゴマークは，フランス人医師Nicolas Andry が整形外科の語源となった著書『L'orthopedie』で用いた挿絵に由来する。このことからもわかるように，四肢の変形矯正は運動器学古来の治療テーマであった。上肢においても，骨折後遺症として生じる肘，前腕，手関節や手指の変形を日常診療で扱うことはまれではない。上肢の変形は，外観の悪さによる精神的苦痛のみならず，隣接関節の可動域制限，不安定性，疼痛，関節症の進行，末梢神経障害など，さまざまな機能障害を引き起こす。

1900 年代前半から行われるようになった矯正手術は，骨折治療技術とともに進歩してきた。しかし，3 次元的に正確な解剖学的矯正が治療上重要とされる上肢の変形は，荷重軸を正常化させることに主眼を置く下肢の変形矯正と分けて考える必要がある。そのため，下肢では緩徐延長・矯正に代表される創外固定を用いた治療法が近年長足の進歩を遂げてきたのに対して，上肢における変形矯正にブレークスルーは長らく訪れなかった。一方，CT 機器やコンピュータ技術の発展，医療用3D プリンターの出現により，正確な3 次元術前計画とそれを実現するためのカスタムメイド医療機器の作製が可能となってきた。このような背景から生まれた患者適合型手術ガイド・プレート（Accurio 上肢変形矯正システム®）は日本で開発され，先進医療を経て昨年実用化を果たした。

本誌編集部より「上肢変形治癒骨折に対する矯正手術」をテーマにゲストエディターのオファーを受けた際，私が中心となって開発した本システムの実用化に合わせて企画されたものであるものと了解した。従って，本特集は，上肢の変形矯正の歴史とAccurio 上肢変形矯正システム® の開発経緯について私が概説した後に，開発に携わった先生方にいくつかの項目を分担執筆していただいた。併せて変形が隣接関節機能障害を及ぼすメカニズムを深く理解するために誌面を割いた。一方，上肢変形矯正の分野ではこれまで多くの日本の先生方が貴重な貢献をしてきた。橈骨遠位端，内反肘，前腕のそれぞれの部位おけるコンベンショナルな手術方法について，国内の一線の先生方に執筆にいただいた。また，上肢においても創外固定が変形矯正に有用な場面は必ず存在する。後半では肘から前腕，手指の創外固定による変形矯正についてエキスパートに解説していただいた。

上肢の変形治癒骨折についてまとめて解説した書籍は国内外を問わず珍しく，本特集は貴重な情報を提供できるものと考える。今回の企画が日常臨床に携わられる先生方の知識の整理と，新しい治療方法への足がかりとなることを願ってやまない。ベルランド総合病院整形外科

村瀬　剛