スポーツとサプリメント
－“Food First but Not Always Food Only”の思索－

栄養摂取はパフォーマンス向上のために大切であることは明らかだが，サプリメント摂取もパフォーマンス向上に欠かせないものとばかりに，すべての年齢層や競技レベルの選手に広まってきた．販売されている製品はそれぞれ異なる課題や対象者をターゲットとしており，サプリメント利用により利益が得られるシーンもあるが，乱用や安全性が確保されていない製品の摂取により健康やパフォーマンスを損ねたり，ドーピング防止規則違反に抵触する可能性もある．したがって，サプリメントの使用を決める前にしっかりとした栄養アセスメントを行い，使用によるメリットがあるかどうかをよく考える必要がある．

国際オリンピック委員会は2018 年にサプリメント使用に関する合意声明を発表し，選択や使用決定の際のリスク軽減のためのフローチャートを提示し，選手がサプリメントの使用を開始する前に専門家に相談することを強く推奨している．また，特定の使い方によりパフォーマンスに利益をもたらすというエビデンスがある5 つの成分をパフォーマンスサプリメントとして分類している．しかし，これらのエビデンスは競技レベルが高い選手を対象としており，日本人（またはアジア人）を対象とした研究はほとんどないことに留意すべきである．ジュニアを含む日本人選手にそのまま適用できるかは不明であり，多量摂取の医学的なリスクについてもよく検討する必要があることを忘れてはならない．

サプリメント利用に対して否定的な見方を示す栄養士や医科学スタッフもいることと思う．安易な使用はもちろん避けるべきであり，選手・指導者や保護者には食品・食事による栄養摂取を最優先する姿勢（フードファースト）を身につけていただきたい．また，「これを飲まないと勝てない」などとジュニア選手が思い込む（心のドーピング）ような状況は避けなくてはならない．一方で，トレーニングや試合に際してサプリメントを有効活用できるケース，あるいは必要とするシーンもあることから，エビデンスとアンチ・ドーピング関連の注意点について十分に踏まえたうえで，各選手のスポーツ栄養マネジメントプランの中で計画的に上手な使い方をしていただけるようになることを願っている．

そこで本特集では，「スポーツとサプリメント」という本題に「“Food First but Not AlwaysFood Only”の思索」という副題を掲げ，前半は中央競技団体で指導経験豊富なスポーツドクター，公認スポーツ栄養士，スポーツファーマシストの方々に，現場編として現状と課題および現場応用の考え方などをまとめていただいた．後半はエビデンス編として，これらの有資格者に加えスポーツ医科学の研究者の方々に科学的および医学的な理論的背景をご執筆いただいた．

本特集ではサプリメントに関する現時点での最新情報をお届けできるものと確信している．

特集編集：田口素子（早稲田大学教授）