特集にあたって

心原性ショックの死亡率はいまだに高く，十分な改善が認められていない。この背景にはいくつかの課題がある。心原性ショックの病態把握が統一されておらず，それにより初期対応が遅れてしまう状況があることと，初期対応から治療への流れが円滑に行われる体制が整っていない現状があることである。これらを解決するためには，前者については基本的な病態把握法の普及，後者については適切な技術を有したチーム体制を構築することがその解決につながる可能性がある。このような重要ポイントを念頭において，欧米では，SCAI分類が提唱され，チーム体制を整えるためのステートメントも公表され，それに基づいた体制づくりが進められている。一方，いかに治療すべきかについての数多くの研究は行われてはいるものの，エビデンスと言うにはまだまだ十分に確立されていない現状があり，この点も課題の1つである。エビデンス構築のためには，統一された病態把握に基づく患者選択，合併症対策を含む医療側の技術的レベルを念頭においた研究が行われていかないと方向性が見いだせないように思われるが，現状あるエビデンスを共有しながら実臨床のなかで工夫をしながら，ぜひともチームでの対応体制を各施設なりに構築していただければと思う。

まだ多くの課題が残されている心原性ショック診療ではあるが，6つのテーマについて心原性ショックupdateと称してエキスパートの先生方に解説いただいた。まず，日本の疫学データを中心に現状の把握についてまとめていただき，地域ネットワーク体制についても参考にしていただいた。心原性ショックの病態を考える上で，補助循環用ポンプカテーテルが利用できるようになったこともあり，心力学的観点からの病態理解は極めて重要であり，基本に立ち返ってわかりやすくまとめていただいた。臨床現場で有用なSCAIの分類は世界的標準になりつつあり，その内容についても理解し自施設への導入も含めて理解を深めていただければと思う。実際の治療に際し，薬物療法のエビデンスを振り返りつつ改めて薬剤の特性を理解すること，そして薬物療法で血行動態が改善しない場合の機械的循環補助についてデバイスの選択とどのように管理すべきかについてもまとめていただいた。最後に，心原性ショックの対応と同時並行で基礎疾患に対する対応は極めて重要であるが，そのなかで主要因となる虚血性心疾患と心筋炎についてまとめていただいた。これらの知見を一読していただき明日からの実臨床に役立てていただければ幸いです。

佐藤　直樹
かわぐち心臓呼吸器病院循環器内科