序文

読者の皆様，最近診療で多くの糖尿病患者をご覧になっているのではないでしょうか。終戦直後の欠食児童の時代は遠い過去となり，高度成長時代，大量消費時代に青春期を過ごした団塊の世代が高齢者となった本邦では糖尿病患者が増加しています。さらにコロナ禍の影響で在宅が増えたためか，コントロール不良な糖尿病患者が多くなっている印象があります。そこで今回は糖尿病と泌尿器疾患との関係をまとめて解説する特集を企画しました。いただいた原稿を読ませていただきましたが，とても内容豊富で目からウロコの情報も盛り込まれ，執筆依頼の想定をはるかに超える充実した内容になっています。お忙しいなか執筆をご快諾いただいた先生方に深謝します。

「糖尿病の成因と治療─泌尿器科疾患との関係─」では，2 型糖尿病治療の最新アルゴリズムを紹介し，さらに免疫チェックポイント阻害薬，ステロイド，アンドロゲン除去療法に伴う糖尿病を解説いただきました。「糖尿病性腎症の病態と最新治療」では，微量アルブミン尿を認める早期腎症診断の重要性，SGLT2 阻害薬，ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬，GLP-1 受容体作動薬による腎保護作用について解説いただきました。「糖尿病と尿路結石」では，本邦の疫学研究，糖尿病・肥満が尿路結石のリスクとなるメカニズム，炎症・酸化ストレスの関与について解説し，さらにこれらをターゲットとした新しい尿路結石予防法について展望していただきました。「糖尿病と泌尿器がん：泌尿器がん診療における血糖コントロールの必要性」では，糖尿病患者で膀胱がん，腎がんの発症リスクが上昇すること，逆にがん診断後に糖尿病発症率が上昇し，がん死亡率に影響することが解説され，大変興味深く読ませていただきました。「糖尿病と頻尿および多尿」では，糖尿病下の膀胱虚血により過活動膀胱，排尿筋低活動の両方が起こりえること，浸透圧利尿による多尿（夜間多尿）について分かり易く解説いただきました。「糖尿病と低活動膀胱/ 排尿筋低活動」では，病態のメカニズムと治療法，課題について包括的に解説いただきました。「糖尿病患者の尿路感染症治療の注意点─特徴，気腫性尿路感染症，SGLT2 阻害薬の影響─」では，糖尿病患者での尿路感染症の疫学，病態，治療，SGLT2 阻害薬の影響について解説いただきました。日常診療でも難治性・再発性尿路感染症に難渋したり，怖い目にあった先生方も多いかと思います。「糖尿病における性機能障害」では，神経原性，血管原性ED，女性糖尿病患者における性機能障害についても解説いただきました。「糖尿病と泌尿器科周術期管理」では，未治療糖尿病を念頭にした術前評価，心血管系評価，血糖値を含めた術中・周術期管理，ケトアシドーシス・非ケトン性高浸透圧性症候群について分かり易く解説いただきました。明日からさっそく役立つ内容だと思います。

自分の経験から，日頃から忙しくて泌尿器科以外の領域の最新情報を習得する時間をなかなか持てない先生方が多いかと思います。本特集が先生方のお役に立てば幸いです。

日本大学医学部泌尿器科学系泌尿器科学分野
髙橋　悟