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- 外来で見つける先天代謝異常症―シマウマ診断の勧め <小児科ベストプラクティス>
商品情報
内容
「ひずめの音を聞いたらシマウマでなく,ウマを考えろ」.これは一般的な疾患から鑑別するようにという基本的な診断法である.先天代謝異常症は希少疾患であるが,本書では①救急外来と②一般外来で見つけて対応するため,症状と検査所見から展開し,シマウマの正しい見つけ方を指南.
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序文
序文
シマウマ診断の勧め
「シマウマ診断」という言葉を聞いたことがあるだろうか.これは,“When you hearhoofbeats, think of horses, not zebras.”という有名な言葉から生まれたもので,1940年代にメリーランド大学医学部教授のTheodore Woodward 先生が残したものらしい.「ひづめの音を聞いたら珍しいシマウマでなく,普通のウマを考える」すなわち,診断するときは,いきなり稀な疾患を鑑別疾患の上位にもってこないで,一般的な病気から考えなさいという意味である.米国の研修病院では,レジデントが稀な疾患を考えて次から次へと検査をしていると,指導医から“You are looking for Zebra!”と怒られるらしい.
先天代謝異常症は稀な疾患である.確かにけいれんで入院した患児に対し,全例にアミノ酸分析をしている医師をみると,「このシマウマ探しは完全に間違っているな」と思わざるをえない.なぜなら,彼らはシマウマを探しているのではなく,「シマウマではない」ことを求めているからだ.手当たり次第に検査を行い,異常値でなければ正常とする考えは間違っている.検査とは,特定の疾患を想定して行うべきものであり,否定するために行うのではない.たとえば,アミノ酸分析を行う理由として,「非ケトーシス性高グリシン血症」を疑ったのならアミノ酸分析は意味があるだろう.しかし,「先天代謝異常症を否定するため」に行ったのであれば,もともと疾患を見つけるためには行っていないわけで,ほとんど意味のない検査である.「けいれん精査」という目的で入院し,毎日,採血,採尿,脳波,CT,MRI と検査ばかりされ,結局すべて異常なしで「おそらく熱性けいれんですね」ということがあるとすれば,それは診断学における「徹底検討法」にみえるが実はそうではない.それではシマウマは見つからない.
では,シマウマ探しは本当に間違っているのか.ここで明確に「正しいシマウマ探しはある」と断言したい.皆さんは,シマウマが非常に特徴的な鳴き声であることをご存知だろうか.シマウマは「ヒヒーン」とは鳴かない.「ワンワン」と犬のように鳴くのである.つまり,ひづめの音が聞こえて,同時に犬のような鳴き声を聞いたら,第一にシマウマを考えるべきなのである.
私はこのことを千葉県こども病院にいらっしゃった高柳正樹先生(現 帝京平成大学)から教わった.先天代謝異常症の診断も,まさにそれだと思ったのだ.先ほどの例をあげれば,けいれんだけでは先天代謝異常症を疑わないが,それに高アンモニア血症を伴っていたらどうだろう.しかもその数値が600μg/dL を超えていたら,集中治療室で透析をしながら先天代謝異常症を考えていかねばならない.つまり,「高アンモニア血症」がシマウマの鳴き声なのだ.そしてそこに血液ガスの結果や,改めて詳しく聞いた家族歴が加わり,シマウマである確率が上昇していく.これは診断学における「仮説演繹法」に近い.次々に方向性をもって情報を得ていくことでシマウマに近づいていくのである.
ここでポイントが2 つある.1 つ目は,少しでも「いつもと違う」と感じた患者に対して検体を採取しておくことである.シマウマを想起する材料を集めておかねばならない.それがfirst line の検査,すなわち,「血糖,血液ガス,アンモニア,乳酸,ケトン体」なのである.これらは迅速に結果が得られ,診断の方向性をつけるのに非常に有用である.前述の意味のないアミノ酸分析とは大きく異なっている.
そして2 つ目は知識だ.シマウマの鳴き声が犬に似ていることを知らなければ,「犬と馬が一緒に走ってきた」だけになってしまう.知っているか知らないかで,シマウマが最終的に鑑別診断に残るかどうかが変わってきてしまうのだ.小児科医は常に学び続けなければならない.その知識を得るために,そして診断したことがない疾患を診断するために,この本を企画した.
まずは「先天代謝異常症に向き合う」を読んでいただき,先天代謝異常症に対する考え方をさまざまな側面から知っていただきたい.
次に通常の教科書では疾患名が列記されていると思うが,本書ではまず,救急外来での症状や検査結果から入ることにした.実際,病名のプラカードを首から提げて救急外来を受診する患者はいない.最初はひづめの音しか聞こえなかったところから,どうやってシマウマの鳴き声を聞き取るのか,すなわち,どのように病歴聴取と身体診察を行い,最初の検査をオーダーすべきなのか,それを先天代謝異常症の専門家たちが教えてくれている.そしてシマウマだという確証がなくても,救命のためにすぐに行うべき治療もある.それらを症例も含めて解説していただいた.
また,比較的余裕をもって日中の小児科外来で診断するケースもある.新生児マススクリーニング陽性例や,特異的顔貌・骨格異常,そしてさまざまな神経学的異常をきたす症例がそうだろう.しかし,そのなかでも治療を急ぐべきポイントがあり,それも含めて解説していただいた.
いわゆるsecond line の特殊検査を行った場合,その結果をどう解釈するかは本当に難しい.これらの検査は,正常範囲だからといって安心してはならないし,異常値にさしかかっているからといって焦ってもならない.的確に判断し,急ぐべきときは急ぐという心構えが必要である.これは初級者には難しく,やはり,多くの症例を経験するか,学ぶしかない.
最後に,そのsecond line の特殊検査をどこに依頼すればいいのか,まとめて掲載させていただいた.これによって,専門家に教えていただきながら,正しい最終診断に至ることができる.
つまりこの本は,救急外来であっても,日常診療のなかでも,どうやって小児科外来で先天代謝異常症を疑い,診断し,治療にもっていくのか,つまり,シマウマをどうやって見つけ,対応するのかが書かれている.
さあ,一緒にシマウマを探しに行こう!
2022 年12 月
国立成育医療研究センター総合診療部
窪田 満
目次
1章 先天代謝異常症に向き合う
先天代謝異常症の臨床的側面と研究的側面 (村山 圭)
先天代謝異常症の診断と臨床推論 (児玉和彦)
先天代謝異常症を疑ったときの親への説明 (大石公彦)
2章 救急外来で見つけて対応する-時間的余裕のない場合
症状
not doing well (松本志郎,阿南浩太郎)
嘔吐 (田中藤樹)
筋痛 (小林正久)
急性肝不全 (安田亮輔,加藤 健,水落建輝)
心筋障害,心不全 (武田充人)
突然死 (松永綾子)
検査所見
低血糖 (齋藤寧子,和田陽一)
高アンモニア血症 (城戸 淳)
代謝性アシドーシス (坊 亮輔)
高乳酸血症 (志村 優)
ケトーシス (大塚博樹)
3章 一般外来で見つけて対応する-時間的余裕が少しある場合
新生児マススクリーニング
アミノ酸マーカー陽性例 (石毛美夏)
有機酸,脂肪酸マーカー陽性例 (小林弘典,松井美樹)
ガラクトース関連物質陽性例 (中島葉子)
【コラム】NPO 法人タンデムマス・スクリーニング普及協会 (小林弘典,松井美樹)
症状
failure to thrive (沼倉周彦)
特異的顔貌,毛髪,皮膚 (小林博司)
精神運動発達遅滞 (清水教一)
筋力低下 (福田冬季子)
けいれん・てんかん (李 知子)
運動異常-運動麻痺,運動失調,不随意運動 (青天目 信)
【コラム】高アンモニア血症と神経発達 (城戸 淳)
骨格異常 (古城真秀子)
尿臭,体臭 (伊藤哲哉,中島葉子)
眼振,眼底所見異常 (野口篤子,高橋 勉)
四肢疼痛 (杉山洋平)
検査所見
アミノ酸分析(新生児マススクリーニング以外) (濱崎考史)
尿中有機酸分析(新生児マススクリーニング以外) (長谷川有紀)
タンデムマス分析(新生児マススクリーニング以外) (山田健治)
極長鎖脂肪酸分析 (下澤伸行)
尿中ムコ多糖分析 (小須賀基通)
高脂血症 (永松扶紗,中村公俊)
酵素活性測定 (但馬 剛)
遺伝子診断 (笹井英雄)
頭部MRI (酒井規夫)
4章 各施設への検査依頼の方法
島根大学医学部附属病院難病総合治療センター検査部門 (小林弘典,松井美樹)
福井大学医学部附属病院小児科代謝検査部門 (湯浅光織,重松陽介)
広島大学小児科/国立成育医療研究センター研究所マススクリーニング研究室 (但馬 剛)
岐阜大学高等研究院科学研究基盤センターゲノム研究分野(岐阜大学病院検査部難病検査部門・岐阜大学高等研究院遺伝子検査室) (下澤伸行)
日本疾患メタボローム解析研究所 (大瀬守眞,久原とみ子)
ミルスインターナショナル横浜ラボラトリ(横浜市登録衛生検査所) (張 春花)
かずさDNA研究所 (小原 收)
脳神経疾患研究所先端医療研究センター (鈴木 健,衞藤義勝)
国立成育医療研究センター臨床検査部高度先進検査室 (小須賀基通)
秋田大学大学院医学系研究科医学専攻機能展開医学系小児科学講座 (野口篤子)
埼玉医科大学病院小児科/ゲノム医療科 (味原さや香,大竹 明)
順天堂大学医学部小児科学講座 (三森愛美,春名英典,田久保憲行)
千葉県こども病院代謝科 (村山 圭,伏見拓矢)
藤田医科大学オープンファシリティセンター (前田康博)
大阪公立大学大学院医学研究科発達小児医学 (濱崎考史)
鳥取大学医学部脳神経小児科 (成田 綾)
久留米大学医学部質量分析医学応用研究施設 (渡邊順子)
熊本大学大学院生命科学研究部小児科学講座 (澤田貴彰,中村公俊)
岐阜大学大学院医学系研究科小児科学教室 (笹井英雄)
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書籍情報
- ISBN:9784521749242
- ページ数:344頁
- 書籍発行日:2023年1月
- 電子版発売日:2023年2月24日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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