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- 生殖医療フロントラインMOOK(3)がん・生殖医療 がんサバイバーシップ向上を志向して
商品情報
内容
生殖医療の最前線の知識と技術を伝えるシリーズ第三弾.がん患者の生存率の増加が著しい昨今,生殖医療はもはやマイナーな問題ではなく,重要なトピックの一つである.本書では,チーム全体で共有しておきたい基礎知識から最新の知見までを網羅した.執筆陣には医師のみならず,がん患者のサポートを行うコミュニティの代表なども参加.「がんサバイバーシップ向上」をキーワードに,多角的にがんと生殖医療を学べる1冊である.
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序文
序文
がん・生殖医療は,「がん患者の診断,治療および生存状態を鑑み,個々の患者の生殖能力に関わる選択肢,意思および目標に関する問題を検討する生物医学,社会科学を橋渡しする学際的な一つの医療分野である.臨床においては患者と家族が子どもを持つため,また,その意味を見つめなおすための生物医学的,社会科学的なほう助を行うことにより,生殖年齢およびその前のがん患者の肉体的,精神的,社会的な豊かさをもたらすことを目的としている(一般社団法人 日本がん・生殖医療学会)」と定義されています.本医療は,がん治療により根絶してしまう可能性のある患者の生殖機能(妊孕能)を何らかの手段で温存する医療,つまり「将来の選択肢を残す」ことが目的の一つとなります.将来子どもを授かるかどうか,その選択肢を自身で選択できる情報提供を行う医療であり,特に多職種による意思決定支援が重要な領域となります.また,がん・生殖医療の対象が不妊症患者ではなくがん患者であることから,がん・生殖医療はがん医療の一環に含まれます.そのため,がん治療開始前等にがん患者とその家族が妊孕温存を自己決定する過程において,原則としてがん治療が何よりも最優先されるべきです.がん治療医を含む医療従事者は,がん治療による妊孕性低下や喪失のリスクに関する情報,患者の予後,がん治療開始の遅れによる疾患に対するリスク,将来の妊娠が及ぼすがん再発への影響,ホルモン操作によるがんそのものに与える影響等の情報を,生殖医療を専門とする医師とともに十分に検討した上で,治療法を選択することになります.一方,がん・生殖医療においては,妊孕性温存を選択しなかった患者,選択できなかった患者等に対する継続的な心理社会的なケアの提供も必須となります.
2004年にベルギーで,若年造血器腫瘍患者に対する卵巣組織凍結・融解卵巣組織移植による世界初の生児獲得に関して報告されて以来,2006年にISFP(International Society for Fertility Preservation:国際妊孕性温存学会)やOncofertility Consortium(米国)等の団体が相次いで設立され,がんサバイバーシップ向上を目指したがん・生殖医療に関する取り組みが,欧米を中心に発展してきました.一方本邦においては,2012年11月にがん・生殖医療領域に特化した初の学術団体として日本がん・生殖医療研究会(現学会:Japan Society for Fertility Preservation;JSFP)が設立され,がん診療に関連のある学術団体(日本癌治療学会,日本小児血液・がん学会,日本乳癌学会等)においても徐々に本領域が取り上げられるようになって参りました.また,妊孕性温存療法を施行する側の学術団体(日本産科婦人科学会,日本泌尿器学会等)においては,医学的適応による妊孕性温存に関する見解等を示し,がん治療医との密な連携のもと慎重に適応を決定する仕組みが講じられて参りました.そして,2021年4月には,国は自治体と共に,がん患者の経済的負担軽減を目的とした「小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」を開始しました.生殖医療フロントラインMOOK3では,がんサバイバーシップ向上を志向した本邦における小児・AYA世代がん患者に対するがん・生殖医療の最新の話題をご紹介いたします.
最後に,生殖医療フロントラインMOOK3の企画編集の機会を賜りました,編集主幹の柴原浩章先生に衷心より御礼申し上げます.また,編集に際して多大なるご支援を賜りました中外医学社の関係者の皆様に深謝申し上げます.そしてお忙しい中,「MOOK3がん・生殖医療―がんサバイバーシップ向上を志向して」に大変貴重な原稿を作成していただきました執筆者の皆様に深甚なる感謝の意を表します.
令和5年2月
聖マリアンナ医科大学産婦人科学 主任教授
鈴木 直
目次
Chapter I がん・生殖医療とは
[1]がん・生殖医療とは〈木村文則〉
1.がん経験者の増加
2.がん治療による妊孕性の障害
3.がん経験者の心理
4.がん患者への生殖医療技術の応用とがん患者のreproductive health and rights
5.がん・生殖医療とは
[2]がんサバイバーシップ〈谷山智子 清水千佳子〉
1.がんサバイバーの定義
2.がんサバイバーシップの歴史
3.がんサバイバーシップケア
4.がんサバイバーシップケアのモデル構築
5.がんサバイバーシップ研究の主なトピック
6.がんサバイバーシップの今後の課題
[3]意思決定支援〈小泉智恵〉
1.がん・生殖医療における意思決定支援研究
2.妊孕性温存に対する意思決定の規定要因
3.効果的な意思決定支援とは
4.今後の展望
[4]造血器腫瘍とがん・生殖医療〈鈴木達也〉
1.造血器腫瘍とがん・生殖医療のポイント
2.造血器腫瘍診療におけるがん・生殖医療連携の重要性
3.主な造血器腫瘍の標準治療と生殖機能温存について
4.急性白血病
5.急性骨髄性白血病(AML)の標準治療
6.急性リンパ芽球性白血病・リンパ腫(ALL/LBL)の標準治療
7.急性白血病における生殖機能温存について
8.悪性リンパ腫の標準治療と生殖機能温存について
9.国立がん研究センター中央病院での取り組み
[5]小児とがん・生殖医療〈片岡伸介〉
1.小児がんの疫学・生存率
2.小児がんの診断
3.小児がんの治療と妊孕性温存療法
4.小児に特有の課題
5.小児がん患者における妊孕性温存療法の適応
6.妊孕性温存療法の方法
7.妊孕性温存療法と小児がん治療との調整
8.小児がん治療後の妊娠・分娩について
9.今後の展望
[6]乳腺腫瘍とがん・生殖医療〈北野敦子〉
1.AYA世代の乳がん
2.乳がん治療による妊孕性低下
3.挙児希望の乳がん患者に対する妊孕性温存の方法
4.乳がん治療後の妊娠
5.乳がん診療におけるがん・生殖医療の課題
[7]骨・軟部腫瘍とがん・生殖医療〈山口さやか 中山ロバート〉
1.骨・軟部腫瘍とは
2.悪性骨・軟部腫瘍の病期分類と治療戦略
3.悪性骨・軟部腫瘍の疫学とがん薬物療法の適応となる疾患の特徴
4.悪性骨・軟部腫瘍に対する標準的ながん薬物療法と性腺機能に与える影響
5.妊孕性温存療法の適応となりうる対象患者
6.骨盤・後腹膜発生の悪性骨・軟部腫瘍の患者における妊孕性の課題
7.悪性骨・軟部腫瘍におけるがん・生殖医療の実際と今後
[8]ASCO guideline 2018 Summary〈銘苅桂子〉
1.ASCO guideline 2018の目標と更新点
[9]欧州の妊孕性温存に関するガイドライン2020年版について(ESMOならびにESHRE)〈中村健太郎 鈴木 直〉
1.ESMO臨床診療ガイドライン
2.ESHREガイドライン
[10]日本癌治療学会ガイドライン〈原田美由紀〉
1.ガイドラインの3つの特徴
2.ガイドラインの与えた影響
[11]ヘルスケアプロバイダーの役割
A.がん・生殖医療専門心理士(がん側)の役割,がん治療期からサバイバーシップの視点を含めて〈渡邉裕美〉
B.がん・生殖医療専門心理士(生殖側)の役割,多職種連携,伝えたいこと〈奈良和子〉
C.オンコファティリティーナビゲーターナース(がん側)〈渡邊知映〉
D.オンコファティリティーナビゲーターナース(生殖側)〈中村 希〉
1.患者の状況や意向,ニーズを把握する
2.診察の同席と意思決定の支援
3.通院中から治療終了後の継続的支援
E.薬剤師〈米村雅人〉
F.認定遺伝カウンセラー®〈沼田早苗〉
1.遺伝カウンセリングと認定遺伝カウンセラー®の役割
2.遺伝性腫瘍と妊孕性温存
G.胚培養士〈泊 博幸〉
1.がん・生殖医療における生殖細胞ならびに組織の凍結保存技術
2.凍結生殖細胞ならびに組織の適切な長期保存管理
H.認定がん・生殖医療ナビゲーター〈小野政徳〉
1.認定がん・生殖医療ナビゲーターの役割
2.認定ナビゲーターの資格要件(概要)
3.認定がん・生殖医療施設の資格要件(概要)
Chapter II 妊孕性温存療法
[1]胚(受精卵)〈堀江昭史〉
1.妊孕性温存療法としての胚凍結の位置づけ
2.排卵誘発法の違い
3.受精方法-媒精か顕微授精か
4.凍結胚の選択―初期胚凍結か,胚盤胞凍結か
5.未受精卵子凍結,受精卵凍結における選択
[2]未受精卵子〈加藤恵一〉
1.未受精卵子および胚の凍結保存法
2.血液疾患未婚患者に対する未受精卵子保存
3.研究開発部門としての妊孕性温存療法との関わり
[3]ランダムスタート法調節卵巣刺激〈岩佐 武 柳原里江 山本由理〉
1.ランダムスタート法の原理
2.ランダムスタート法の歴史とエビデンス
3.ランダムスタート法の実際
[4]AI併用卵巣刺激〈岡田英孝 中尾朋子〉
1.AIの作用機序と特徴
2.排卵誘発薬としてのレトロゾール
3.妊孕性温存療法におけるレトロゾールの位置付け
4.乳がん患者へのレトロゾールによる卵巣刺激法
5.レトロゾール併用の卵巣刺激による乳がん患者への影響
6.児への影響について
[5]DuoStim法〈田村 功〉
1.DuoStim法とは
2.DuoStim法の原理
3.DuoStim法の実際
4.DuoStim法の有効性
5.ESHREガイドラインにおけるDuoStim法の位置付け
[6]Onco-IVM〈福田愛作〉
1.未熟卵体外受精(IVM)について
2.IVMと通常IVFではどこが違うのか
3.IVMとIVFではどこに違いがあるのか
4.IVMを妊孕性温存に有効活用できる理由
5.Onco-IVMの課題
6.まとめ
[7]卵巣組織〈高山恵理奈 前沢忠志〉
1.適応
2.方法
3.融解移植
4.卵巣組織へのがん細胞混入のリスクについて
5.成績
6.今後の展望
[8]GnRHによる卵巣保護〈脇本 裕 荻野奈々〉
1.化学療法による卵巣毒性
2.化学療法の卵巣毒性に対するGnRHaによる卵巣保護の機序
3.GnRHaによる卵巣保護についてのASCOの見解
[9]精子(TESEも含む)〈湯村 寧〉
1.がん治療が引き起こす男性不妊症
2.抗がん剤・放射線治療による造精機能低下のメカニズム
3.がん治療後の妊孕性の回復
4.精子・精巣組織凍結の実際
5.Onco TESEについて
[10]精巣組織凍結〈白石絵莉子 岩端威之 杉本公平〉
1.男性がん患者における妊孕性温存療法
2.精巣組織凍結の研究の歴史
3.精巣組織凍結の方法
4.若年男性の妊孕性温存の実際
5.今後の展望
1 [1]人工卵巣〈岩端秀之 鈴木 直〉
1.卵巣組織移植における“がん”の卵巣転移による問題
2.卵巣組織移植の代替手段としての人工卵巣
3.新規実験系としての人工卵巣の応用
4.ホルモン補充療法の代替手段としての人工卵巣
Chapter III がん・生殖医療の課題と展望
[1]ピアサポート(女性)〈御舩美絵〉
1.ピアサポートの実態
2.がん・生殖医療におけるピアサポート
[2]がん・生殖ピアサポート(男性)〈岸田 徹〉
1.課題
2.展望
3.患者にとっては「妊孕性温存」がゴールではない
[3]オンコ・ウィメンズヘルスケア〈太田邦明 高橋俊文〉
1.新しいエビデンスからみえてきた晩期合併症の問題点
2.オンコ・ウィメンズヘルスケアに求められる今後の展望
[4]プレコンセプションケア〈安岡稔晃〉
1.がんサバイバーにおけるプレコンセプションケアの重要性
2.妊娠前の健康状態や行動,社会的・経済的環境の重要性
3.がんサバイバーの栄養学的プレコンセプションケア
[5]里親・特別養子縁組〈新屋芳里 杉本公平〉
1.里親制度・特別養子縁組制度について
2.がん・生殖医療と里親制度・特別養子縁組制度
3.今後の課題と展望
[6]医療連携(全国)〈竹中基記〉
1.日本におけるがん・生殖医療連携の現状
2.地域格差の問題点の抽出
2.全国均霑化に向けた施策
[7]移行期医療〈寺下友佳代 真部 淳〉
1.小児がん患者の晩期合併症
2.小児がん患者の産婦人科領域の移行
3.移行期医療の課題
[8]登録制度―日本がん・生殖医療登録システム(JOFR)の現状と課題〈重松幸佑 高井 泰〉
1.日本がん・生殖医療登録システムの現状と課題
[9]公的助成金制度〈洞下由記 鈴木 直〉
1.がん・生殖における患者の経済的負担
2.小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業
[10]がん・生殖医療の今後の展望〈原田美由紀 大須賀 穣〉
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書籍情報
- ISBN:9784498160446
- ページ数:190頁
- 書籍発行日:2023年5月
- 電子版発売日:2023年4月24日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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