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- 深頸筋膜の解剖学的構造から学ぶ 頸部郭清術
商品情報
内容
頭頸部癌や甲状腺癌の治療で広く行われている頸部郭清術を系統立てて解説した手術書.本書では臨床の最前線で40年あまり活躍している著者が頸部郭清術の知識や技術を披露する.また従来の術式にこだわらない患者の機能温存に重きを置いた術式を綺麗なシェーマで紹介し,実際に継承されることが難しい技術を解説して新たな選択肢を提供する.
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序文
序文
頸部郭清術は,頭頸部癌治療の根幹をなす重要な手術であることは,衆目が一致し全く異論のないところである.多くの頭頸部外科医が,頸部にリンパ節転移が発症した場合に,適応があればおのずと頸部郭清術を遂行されていると思われる.その背景には,Martinによって確立された頸部郭清術の概念が広く受け継がれているためと考えられる.
Martinは頸部郭清術に対して偉大な足跡を残しており,その概念が今日まで連綿とあまねく継続されている.それは,根治的頸部郭清術であろうと機能的(保存的)頸部郭清術であろうと,最初に皮弁を作成し手術のための必要な郭清術野を設定していることからも明らかである.副神経を温存することを唱えたBoccaの論文でさえも,術野の設定という点においてはMartinの考え方をそのまま踏襲している.すなわち皮弁作成後に,まず郭清術野を全視野下に置き,そのなかで温存する組織を選択して頸部郭清術を行っている.筆者がこれまでに見学した国内外の有名な癌専門病院でも,ほとんど同じように郭清術野を設定していた.つまり,頸部郭清術を施行する場合,皮膚切開⇒皮弁挙上⇒郭清術野の設定⇒胸鎖乳突筋の処理⇒…というように手術手順が設定され,それに従って頸部郭清術が行われている.
筆者はこのような考え方に20年以上前から疑問をもっていた.というのは,胸鎖乳突筋は温存する組織であることが広く認識され,実際の頸部郭清術でもそれが実践されているにもかかわらず,頸部郭清術の最初の段階で,術野を全視野に置くための皮弁が作成され,胸鎖乳突筋の全容を露出することを大前提にしているからである.筆者はMartinの提唱した概念に基づく頸部郭清術を遂行しながら,「深頸筋膜に囲まれたリンパ節を含む脂肪塊を摘出することが頸部郭清術の一番の目的なら,手術ではそれを最短で達成できる方法を最優先して選択すべきである」と,常々考えていた.頸部郭清術の郭清対象は,胸鎖乳突筋や内頸静脈あるいは副神経ではなく,あくまでも深頸筋膜で囲まれたリンパ節を含む脂肪塊であり,この脂肪塊が確実に郭清されれば,頸部郭清術の目的は達せられるのではなかろうか.
筆者はこの考えを実践に移すため,従来の皮膚切開や皮弁を作成することにこだわらない方式,すなわち皮弁の作成は拘縮が発症しない程度に最大限僅少化し,胸鎖乳突筋の内面に直接入ることが可能となる皮膚切開の設定を考案した.そして,この切開による頸部郭清術を多数の症例に対して施行し,従来のMartinの方式によるen blocでの頸部郭清術と比較しても治療成績や再発率について有意差や治療成績に遜色がないことを確認し,さらに手術時間が短い,術後の頸部の違和感が少ない,手術による患者の負担が軽いなどのメリットも大きく,それを常々体感してきた.
筆者は,従来のMartinの考え方を踏襲した頸部郭清術を否定しているわけではない.本書で紹介している頸部郭清術でも十分にその役割を果たすことができ,とりわけ胸鎖乳突筋や副神経を温存することを目的とする機能的頸部郭清術を施行する場合には,その役割を十分に達成できるものと確信している.
頸部郭清術が記載された手術書は数多くあるが,その内容は数ページで物足りなさが大きく,どこかで見たことのある解説の焼き直しに近い内容のものがほとんどであった.臨床現場で役立つ書籍があれば有用ではないかと考え,頸部郭清術を学ぼうとする諸氏に術者の生の声を直接伝えたいと強く思うようになった.本書では頸部郭清術の基本的概念と頭頸部癌の治療医を目指す諸氏に理解してもらいたく,そして実際に継承されることが難しい手技の技術の向上に少しでも寄与できれば幸いである.
手術は伝統と習慣・主観と因習とが経時的にとぐろを巻いて踏襲されているものであり,新しい考え方は,なかなか受け入れられにくいものである.本書で紹介する考え方に厳しい批判が多いことは百も承知であるが,あえて本書を出版することで一石を投じる思いである.
2023年2月
元 埼玉県立がんセンター頭頸部外科 診療科長
上尾中央総合病院頭頸部外科 顧問
西嶌 渡
目次
第1章 頸部郭清術とは
1 根治的頸部郭清術(RND)・根治的頸部郭清術変法(MRND)と機能的頸部郭清術(FND)
a.根治的頸部郭清術(RND)の変遷
b.根治的頸部郭清術変法(MRND)の提唱
c.機能的頸部郭清術(FND)の提唱
2 頸部郭清術に対する筆者の術式の変遷
第2章 初回治療の頸部郭清術
1 頸部郭清術の概念(郭清範囲の設定)
a.筆者の考える術式
b.剝離すること(はがすこと)の概念
2 頸部郭清術を学ぶにあたって
a.AAO-HNSのLevel分類
b.posterolateral neck dissection(PLND)とは
第3章 手術手順
1 皮膚切開と郭清範囲の設定および神経・脈管の温存
a.皮膚割線を加味した皮膚切開
b.胸鎖乳突筋前縁の露出
c.頸部郭清術における剝離の手順
d.胸鎖乳突筋裏面の剝離と副神経の処理
e.頸動脈鞘(大血管)と迷走神経の処理
f.交感神経の走行の同定と,内頸後リンパ節連鎖の脂肪塊(六面体)前縁の設定
2 深頸筋膜線維の構造と剝離の方向
a.献体例における頸部郭清術の筋膜
b.椎前筋群直上の深頸筋膜の構造
c.頸神経と深頸筋との関係
d.筋膜線維の方向からみた頸部郭清術における剝離の方向
3 内頸静脈周囲のリンパ節脂肪塊の処理
a.内頸静脈側方のリンパ節脂肪塊(内頸静脈後リンパ節群)の郭清
b.内頸静脈正中側のリンパ節脂肪塊(内頸静脈前リンパ節群)の郭清
第4章 郭清領域の境界と全頸部郭清術,分割頸部郭清術
1 Level ⅠとLevel Ⅱとの境界
2 Level Ⅰの郭清を加えた,Level Ⅰ〜Level Ⅴの全頸部郭清術
3 分割頸部郭清術(SgND)という概念
第5章 ドレナージの挿入,出血・咽頭浮腫への対応と予防的頸部郭清術
1 局所の清拭とドレナージの挿入
a.局所の清拭
b.ドレナージの挿入
c.ドレナージの抜去
2 頸動脈の破綻時の対応
a.頸動脈周囲の剝離操作に関する注意
b.脳の虚血や梗塞(塞栓)に対する予防
c.頸動脈の遮断時間
d.止血操作
e.総 括
3 頸部郭清術と喉頭浮腫
4 予防的頸部郭清術とは
第6章 Level Ⅰの郭清
1 Level Ⅰの特徴
2 舌骨上筋群と舌神経,舌下神経との関係
3 広頸筋の支配している神経と顔面神経下顎縁枝は同根である
4 顔面神経下顎縁枝の温存方法
a.動脈の同定
b.愛護的な皮弁の作成と顔面神経下顎縁枝の同定
c.下顎骨下縁の露出
d.筋鉤を多用した術野の設定
付 録 本術式(segmented neck dissection)と一塊摘出(en bloc)頸部郭清術の治療成績での比較
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書籍情報
- ISBN:9784525310912
- ページ数:84頁
- 書籍発行日:2023年3月
- 電子版発売日:2023年5月26日
- 判:A4判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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