• ページ数 : 376頁
  • 書籍発行日 : 2023年7月
  • 電子版発売日 : 2023年8月18日
8,800
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商品情報

内容

初版発行から15年、『新版 急性中毒標準診療ガイド』待望の刊行!

2008年に刊行された『急性中毒標準診療ガイド』(日本中毒学会編)は、わが国の中毒診療の基本として常に参照すべきものとされてきました。しかし時代の変遷とともに診断や治療の潮流も変化し、それらに対応しきれていない点から長らく改訂が強く要望されてきました。初版刊行から15年、本書は最新の知見、エビデンスをふまえ、新版として新たに編集したものです。

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序文

新版 発刊にあたって

『急性中毒標準診療ガイド』の初版は2008 年に発刊されたが,当時の状況について,本学会元代表理事の吉岡敏治先生は以下のように書かれている。

「欧米では,…(中略)…EBM に基づき,急性中毒の治療に大きくメスが入れらた。…(中略)…一方,本邦においては経口中毒例の90%を超える症例に胃洗浄が行われており,かつ施設や医師によって,治療手技がバラバラで,世界的な潮流に取り残された感すらあった。この事態を重視した日本中毒学会では,消化管除染はもとより,呼吸・循環管理等の対症療法にいたるまでの『急性中毒の標準治療』と,さらに一歩進んで,主な起因物質に関する『中毒医療ガイドライン』を作成することを作業目標として,2001 年7 月に学術委員会を発足させた」

爾来,この『急性中毒標準診療ガイド』は中毒診療の基本として常に参照すべきものとされてきたが,時代の変遷とともに中毒原因物質や治療の潮流の変化に対応しきれていない点から改訂が強く要望されてきた。

本学会学術委員会は2011 年からは中毒標準治療委員会と名称を変えたが,その後2016年から再度学術委員会として須﨑紳一郎前代表理事が改訂作業を開始された。2018 年からは現委員長である織田順先生が指揮をとり改訂作業を加速させたところで,新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響により学会活動全般が滞ることとなった。その間でも日本中毒学会やその他の関連学会の学術集会において改訂内容を紹介,討論する機会を経て今回の出版に至ることができた。

今回の改訂にあたっては安全確保,ABCDE に沿ったprimary survey を重視する考え方については踏襲しているが,現在の治療状況に合わせたモニタリング手段や検査方法についてアップデートがなされている。また,執筆者だけの見解に偏らないように配慮するため,学術委員会委員の複数の査読に加え,関連学会の専門家による査読も行っている。他学会や他分野のガイドラインとは異なり,エビデンスレベルの高いものとはいえないが,「単なるレビューではなく,学会の総意として捉え,会員のコンセンサスを得て,信ずるところをまとめた所信声明書である」との初版の考え方は一貫するものである。

執筆,編集,査読等の作業にかかわったすべての方々のご尽力に感謝するとともに,本書が,中毒診療にかかわるすべての人に役立つことを祈念する。


2023年6月

一般社団法人 日本中毒学会 代表理事
さいたま赤十字病院 院長
清田 和也


新版 編集にあたって

日本中毒学会では2001 年に学術委員会を発足させ,国内外の急性中毒診療に関する情報を収集し,代表的な中毒原因物質に対する診療を整理しました。その結果,2008 年に初版となる『急性中毒標準診療ガイド』が発行されました。これにより本邦における急性中毒の診療に一定のよりどころが示されたとともに,診療に携わる医療者に共通言語が生まれました。また,急性中毒の初期診療は専門外の診療科によって行われることが多い傷病でもあります。標準診療ガイドはそのような臨床現場においても重要な役割を果たしてきました。

長期的には,安全意識の向上と技術の進歩によって急性中毒の発生件数が減少することが期待されます。しかし残念ながら,事故・事件による中毒事例は依然として一定数発生し続けており,急性中毒診療のニーズはむしろ増加している面もあります。また初版発行以来,国内外で診断や治療に関する新たな知見も得られてきています。

今回の改訂にあたっては上記をふまえまして,安全確保,ABCDE に沿ったprimary surveyを重視する考え方については継承しつつも,国内外の診療状況,エビデンスの蓄積を勘案しつつ,現在の医療環境に合わせてモニタリング手法や検査方法のアップデートを行いました。さらに各論の充実を図り,また多職種,異なる専門性からなるチーム医療を意識した教育と実践にまで言及する内容としました。

編集にあたっては執筆者の個別の意見に偏らないように,学術委員会の複数の委員による査読に加え,関連学会の専門家からも編集協力を得て,記述内容の検討や修正を繰り返しました。本診療ガイドは他の学会や他分野のエビデンスレベルに基づくガイドラインとは異なる趣で作成されていますが,可能なかぎりエビデンスの渉猟を行い,学会全体の合意と会員のコンセンサスを反映させることを重視してまとめられました。

本書の改訂には,執筆者や編集委員,査読者など多くの方々の大いなるご協力をいただきました。そのご尽力に深く感謝いたします。本書が日本中毒学会の学術的な知見と経験を広く共有し,急性中毒にかかわる医療者や関係者の専門性を向上させる一助となることを願っています。急性中毒事例の減少を図っていく一方で,新たな脅威やリスクが現れる可能性もあります。持続的な研究と情報共有が重要です。

最後になりますが,本書が急性中毒の患者やその家族,医療者,関係者にとって有益であり,よりよい診療に貢献することを心から祈念いたします。


2023年6月

一般社団法人 日本中毒学会学術委員会 委員長
大阪大学大学院医学系研究科救急医学
織田  順

目次

第Ⅰ章 急性中毒初期診療総論

1 急性中毒初期診療総論

中毒とは何か/急性中毒の疫学/曝露経路/急性中毒治療の原則/対症療法/吸収の阻害および排泄の促進/簡易分析法/試料採取と保存/中毒発生状況の把握と情報収集/トキシドローム/インフォームドコンセント/中毒診療と再発防止

第Ⅱ章 診療体制の構築

1 チーム医療

はじめに/中毒診療における多職種連携体制/中毒診療における各職種の役割

2 院内体制

はじめに/資器材・薬剤/施設・設備/体制・部門

3 日本中毒情報センターの概要

はじめに/中毒診療における情報収集:JPIC による情報提供/症例情報の共有により実現するtoxicovigilance/まとめ

第Ⅲ章 急性中毒の標準治療

1 全身管理

1)primary survey

急性中毒の初期診療手順/急性中毒患者に対する初期対応/まとめ

2)気道管理

気道確保が必要な状況/気道確保の方法/気管挿管困難/まとめ

3)呼吸管理

急性中毒生じる呼吸障害の原因/呼吸障害の臨床症状・徴候/検査・モニタリング/治療/まとめ

4)循環管理

急性中毒生じる循環症状/急性中毒による循環障害への対応/中毒事例に対する脈拍異常・循環不全に対する特殊治療/まとめ

5)痙攣対策

痙攣とてんかん発作/中毒に伴う痙攣の疫学/中毒におけるてんかん発作、痙攣の病態/てんかんの発作型と脳波、CT 所見/中毒時の痙攣の治療・管理

6)体温管理

急性中毒での高体温・低体温/急性中毒による高体温・低体温の治療/高体温をきたす特殊疾患/まとめ

7)標準的なモニタリング

急性中毒におけるモニタリングの意義/急性中毒患者に考慮されるモニタリング法/体温管理に重要なモニタリング 69

2 吸収阻害

1)消化管除染の位置づけ

消化管除染の評価におけるPosition statements の影響/消化管除染の評価に関する今後の展望/『急性中毒標準診療ガイド』改訂のポイント/Position statements の背景と消化管除染のエビデンス

2)胃洗浄

背景とエビデンス/適用/方法/合併症/禁忌

3)活性炭

背景とエビデンス/適用/方法/合併症/禁忌

4)腹部CT 検査と上部消化管内視鏡

背景とエビデンス/適用/方法/禁忌

5)催吐、腸洗浄、緩下剤

催吐/腸洗浄/緩下剤

3 排泄促進

1)体内動態

薬物動態学とは/薬物動態学の必要性/薬物動態学パラメータ/中毒時の薬物動態学/まとめ

2)強制利尿(forced diuresis)と尿のアルカリ化

薬毒物の尿中排泄/強制利尿と尿アルカリ化による尿中薬毒物排泄促進のメカニズム/強制利尿・尿アルカリ化の適用症例/方法/まとめ

3)急性血液浄化法

急性中毒に対する血液浄化法の適用/血液浄化法の選択/禁忌/EXTRIP workgroup について/血液浄化法が適用となる中毒/血液浄化法を考慮してもよい中毒/血液浄化法の適用がない代表的な薬毒物/まとめ

4 解毒・拮抗薬

解毒・拮抗薬の評価/未承認薬の国内承認・適用拡大/病院での在庫/インフォームドコンセント

[各論]

アセチルシステイン/亜硝酸アミル・亜硝酸ナトリウム・チオ硫酸ナトリウム/ヒドロキソコバラミン/プラリドキシム[PAM]/アトロピン/フルマゼニル/ナロキソン/ホメピゾール/エタノール/メチレンブルー/ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸鉄(Ⅲ)水和物(不溶性プルシアンブルー)/ジメルカプロール/デフェロキサミン/ペニシラミン/エデト酸カルシウム二ナトリウム/グルコン酸カルシウムゼリー/グルコン酸カルシウム・塩化カルシウム/ピリドキシン・リン酸ピリドキサール/はぶウマ抗毒素/まむしウマ抗毒素/ヤマカガシウマ抗毒素/ビタミンK/4因子含有プロトロンビン複合体(4-Factor PCC)/プロタミン硫酸塩/静注用脂肪乳剤/抗ジゴキシン抗体/酸素(O2)

第Ⅳ章 トキシドロームと検査・分析

1 情報確認

中毒患者を診療するときに確認すべき情報について/確認すべき項目(全般)/確認すべき項目(分野別)

2 トキシドローム:toxidrome

トキシドロームとは/さまざまなトキシドローム/臨床検査との併用/集団中毒におけるトキシドローム

3 簡易尿中薬物検査キット

はじめに/尿中薬物簡易検査の仕組み/キットの種類/偽陽性と偽陰性について

4 実用的分析法

1)医薬品

(1)ベンゾジアゼピン系薬剤/(2)バルビタール系薬剤/(3)ブロモバレリル尿素/(4)三環系・四環系抗うつ薬/(5)アセトアミノフェン/(6)サリチル酸塩:とくにアスピリン/(7)カルシウム拮抗薬/(8)ジフェンヒドラミン/(9)選択的セロトニン再取り込み阻害薬/(10)カフェイン・テオフィリン

2)農薬

(1)有機リン系殺虫剤/(2)カーバメート系殺虫剤/(3)グルホシネート/(4)グリホサート/(5)パラコート

3)工業用品・その他

(1)メタンフェタミン/(2)メタノール/(3)エチレングリコール/(4)シアンおよびシアン化合物/(5)ヒ素化合物

第Ⅴ章 教育

1 卒前教育

1)薬剤師養成における教育

はじめに/薬剤師6 年生教育へ至るまでの変遷/薬学6 年生教育の概要/薬学教育モデル・コアカリキュラムの概要と中毒学領域/中毒学領域の国家試験問題/薬学部のweb シラバスからみた中毒学教科の現状/薬学における中毒学教育の必須項目/中毒学教育の充実のために日本中毒学会ができること 275

2)医師養成における教育

はじめに/試験制度からみた医学部教育/コア・カリキュラムからみた中毒学教育/医師国家試験からみた中毒学教育/医学部教育から専門医制度へ/日本中毒学会が医師養成過程における中毒学教育で果たすべき役割

3)臨床検査技師養成における教育

はじめに/臨床検査技師養成所指導ガイドラインで規定した臨床検査技師教育の内容と必要機器/臨床検査技師国家試験出題基準/臨床検査技師の卒前教育におけるさまざまな取り組み/臨床検査技師の卒後教育における中毒学教育

4)救急救命士養成における教育

救急救命士と中毒診療/救急救命士の卒前教育における中毒/救急救命士に期待される役割と再教育

2 卒後教育

中毒診療教育の必要性/日本中毒学会認定制度:認定クリニカル・トキシコロジスト/中毒診療のminimun requirement とは/日本中毒学会が実施してきた急性中毒標準治療セミナーとこれから

第Ⅵ章 中毒診療と災害対応

1 現場での初期対応と安全確保

中毒に対する病院全診療/現場での初期対応/病院との連携/まとめ

2 C(化学)災害・テロ対応(薬剤含む)

危険性物質(HAZMAT)による災害/化学テロなどによる災害/問題となる物質/C(化学)災害時の対処/治療方針

3 多数傷病者発生時のトリアージ

4 中毒災害時の診療への備え

平時の訓練/災害対応時に考慮すべきこと/災害対応後に考慮すべきこと

第Ⅶ章 中毒情報と臨床研究

1 日本中毒情報センター受信報告からみた疫学

はじめに/中毒事例発生状況/家庭用品/医薬品/自然毒/工業用品/農薬/食品、その他/小児と高齢者の中毒/今後の課題

2 情報源

中毒・災害情報/化学物質/自然毒/医薬品/ドラッグ/その他

3 症例報告・臨床研究の方法 333

はじめに/現代の研究デザイン/症例報告を書くための情報収集/ECTRにおけるチェックリスト/倫理的指診/まとめ

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書籍情報

  • ISBN:9784867190715
  • ページ数:376頁
  • 書籍発行日:2023年7月
  • 電子版発売日:2023年8月18日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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