ねらい

2021（令和3）年9月に医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律（令和3年法律第81号）が施行され，各所では医療的ケア児支援センターの設置・運営が進んでいます。医療的ケアを必要とする子ども（以下，医療的ケア児）たちは，在宅療養へ移行後も引き続き高度な医療行為や複数の医療的ケアなど，一人ひとりの身体機能やニーズに合わせたケアの継続が欠かせません。また，一人の子どもとして，当たり前に保育園や幼稚園，学校へ行き，地域のなかでの成長・発達を望んでいます。そのなかでは，医療的ケア児を受け入れるための地域資源が限られている現状に直面することがあります。医療的ケアを理由に登校できない，自宅周辺に子どもを看てもらえる訪問看護事業所がない，入浴サービスがないため好きなお風呂に入れてあげられないなど，一人の子どもとして当たり前の権利やささやかな願いさえも叶えることを困難にしている場合があります。さらには，子どもが自宅で過ごすために親が離職せざるを得ない，きょうだいが寂しい気持ちを抱え込んでしまうなど，家族の日々の暮らしが大きく揺らぐこともあります。

子どもと家族がもてる力を最大限に発揮し，必要な医療やケアを受けながら，就園や就学などのライフイベントを住み慣れた地域で迎えられることを，医療的ケア児と家族の支援に携わる看護師の皆が願っていると思います。そして，地域特性に応じた課題を抱えながらも，一人ひとりの子どもと家族に合った支援を模索したり，創出しながら日々支え続けています。医療資源や地域資源の限られた地域であっても，実は良質な資源が点在していて，十分に活用されていない現状もあります。医療的ケアを必要とする一人ひとりの子どもと家族が望む場所での暮らしが実現できるように，保健・医療・福祉・教育・行政のあらゆる多職種は相互に連携し合い，地域一体となって支え続ける必要があります。そうした，たゆまぬ努力がやがて子どもと家族の暮らす地域を耕し，点在する貴重な資源同士がつながり，持続可能性のある支援を実現するのだと思います。

本特集では，医療的ケア児と家族が，家庭環境やライフスタイルに応じた切れ目ない支援を受け，地域のなかで成長・発達していくのを支えるための看護について考えることを目的とし，地域のあらゆる場所で子ども・家族を支え続ける看護師や他職種の皆さんの貴重な取り組みを紹介します。いかなる地域においても，医療的ケア児と家族のよりよい暮らしを支えるために，皆さんと共に考える機会となることを願っています。

みちのく療育園メディカルセンター看護部，
岩手医科大学医学部小児科学講座研究員，
いわてチルドレンズヘルスケア連絡会議運営委員，
シブリングサポーターいわて～きょうだいと家族の応援団～副代表／
小児看護専門看護師
伊藤由香 Ito Yuka