スポーツ外傷・障害後のスポーツ復帰

怪我によりスポーツ活動の休止を余儀なくされた選手の多くは，「できる限り早く復帰したい」と願います．その願いは，スポーツへの参加に積極的であるほど，強いものです．スポーツ選手にかかわる専門家には，患者の可及的速やかな復帰をサポートすることが求められ，そのサポートには“スポーツ復帰の適切なタイミングの提案”も含まれます．近年，スポーツ医学領域では，受傷・発症後のスポーツ復帰に際して，受傷後あるいは手術後の経過期間だけでなく，客観的な機能評価に基づく判断が求められています．疾患によっては，特異的な評価やパフォーマンス指標に関するデータが具体的に設けられているものがあります．しかしながら，定量的な指標のみでスポーツ復帰を判断できるものではない，というのも事実です．適切な復帰可否判断には，柔軟性や筋力，各種スポーツパフォーマンステストといった量的な評価の結果のみならず，再発や二次的なトラブルにつながる運動パターンの有無など質的な要素に関する情報が必須となります．そこで，本特集号では「スポーツ外傷・障害後のスポーツ復帰」と題し，各疾患における病態や標準的な治療・リハビリテーションに加えて，スポーツ復帰を見据えたアプローチと復帰判断に必要となる量的・質的な情報を整理することを目的としました．特集するに当たり，各領域のエキスパートにご寄稿をお願いしました．

まず総論として，スポーツ外傷・障害後のスポーツ復帰に関する現状と課題について，多角的な視点で解説していただきました．

つづいて各論では代表的なスポーツ外傷・障害として，脳振盪，肩関節脱臼，投球肩肘障害，テニス肘，腰椎分離症，腰椎椎間板ヘルニア，鼡径部痛症候群，ハムストリング肉ばなれ，膝前十字靱帯損傷，ジャンパー膝，脛骨過労性骨膜炎（MTSS），アキレス腱障害，足関節外側靱帯損傷，Jones 骨折について取り上げ，先生方に解説していただきました．重篤な後遺症が起きかねない脳振盪においては，最新の世界的コンセンサスに基づき，受傷からスポーツ復帰までのマネジメントやその注意点を解説していただきました．他の代表的なスポーツ外傷・障害については，各疾患の病態や発症・受傷メカニズムを整理したうえで，安全かつ円滑なスポーツ復帰を目指したリハビリテーションのプロセスを提示していただきました．

最後に，ご多忙の中，執筆の労をお取りいただいた著者の皆様にお礼を申し上げたいと思います．本特集が，スポーツ外傷・障害にかかわる多くの専門家の目に留まり，日々の治療や予防的なアプローチに役立てば幸いです．

特集編集：古賀英之（東京医科歯科大学教授）
廣幡健二（東京医科歯科大学）