皮膚付属器腫瘍 update―WHO分類第5版からの最新知見―

32巻4号（2014年）「皮膚疾患のみかたⅡ―腫瘍および腫瘍様病変―」において，本誌で最後に皮膚付属器腫瘍が取り扱われて以来10年が過ぎた．2023年に公開されたWHO分類第5 版β版では49 種類と数多くの皮膚付属器腫瘍が列挙されているが，腫瘍の分化の特定がしばしばHE標本のみでは困難なこと，同一腫瘍であっても組織パターンに多くのバリエーションが存在すること，などの理由から不得手とする病理医も少なくない．

WHO分類第5版において，皮膚付属器腫瘍は前版同様，Tumours with apocrine andeccrine differentiation， Tumours with follicular differentiation， Tumours withsebaceous differentiation，Site-specific appendageal tumoursの4つのカテゴリーに分類され，Tumours with apocrine and eccrine differentiationではNUT carcinomaの追加とcribriform tumourの名称変更が，Tumours with follicular differentiationではtrichoadenomaの追加とtrichodiscomas and fibrofolliculomasの名称変更が， Site-specificappen dageal tumoursではadenocarcinoma of anogenital mammary-gland type の名称変更がなされている．また前版からの流れを汲んで，分子異常や疾患概念についても大小様々な変更が加えられる．しかしながら，皮膚病理を専門とする病理医が多くの免疫染色を用いて検索しても，分類困難な皮膚付属器腫瘍もしばしば存在し，未だこの分類も完全というには不十分な感がある．

本特集号では，項数に制限があることを考慮し，皮相浅薄なoverviewとなるよりも，近年腫瘍特有の分子異常が特定され，免疫染色などの手法を用いてより正確な診断が可能となった腫瘍や疾患概念に大きな変更があった腫瘍を抜粋して，それらの臨床病理学的特徴や診断手法，鑑別診断などについて解説することとした．またWHO分類では表皮系腫瘍に分類されてはいるが，免疫染色でBer-EP4，CK17陽性となり毛芽細胞への分化を示すbasal cell carcinomaについても，日常診療で最も頻繁に遭遇する皮膚付属器悪性腫瘍として，多彩な亜型や臨床的悪性度との相関を中心に改めて取り上げた．

最後に，WHO分類第5版や本特集号でも取り上げられていない新たな腫瘍や分子異常も現在進行形で報告され続けており，筆者らもついていくのがやっとの現状ではあるが，本特集号が今日皮膚付属器腫瘍の診断に苦慮しながらも従事している病理医にとって，何らかの形で貢献することができれば望外の喜びである．

特集編集
古賀佳織 ［福岡大学病院 病理部］
平木　翼［ 静岡県立静岡がんセンター 病理診断科］