特集：アミロイドーシスupdate

病理医にとってアミロイドーシスは独特の位置を占めている．その診断は今日でも純粋に形態学的な根拠に基づき，Congo red 染色後，偏光顕微鏡下にアップルグリーン色の複屈折を認め，電顕観察により幅約10nmのアミロイド線維を認めることによりなされる．本症はVirchowにより，19世紀半ばに初めて記載された．当時Virchowは，沈着した臓器がヨード反応液に陽性を示すことから，でんぷん，セルロースなど糖質の異常沈着と考え，“類でんぷん質”という意味を込めてamyloidosisと名づけた．現在では，様々な前駆タンパク質が立体構造を変化させ，アミロイド線維を形成して組織に沈着することが明らかになっており，実に40種類以上の前駆タンパク質が報告されている．

アミロイドーシスが『病理と臨床』34巻5号（2016年）で取り上げられて以来，早8年半が経った．この間，アミロイドーシスの診療を取り巻く状況は大きく変化した．新規治療薬が次々に保険収載され，アミロイドーシスは，早期に適切な治療を施せばもはや不治の病ではなくなりつつある．このため病型診断の重要性が飛躍的に高まり，我々病理医に対する臨床医からの要望も，日に日に高度化しているのが現状である．

このような状況の中，厚生労働省アミロイドーシスに関する調査研究班では，2018年4 月よりアミロイドーシス病型診断コンサルテーションを開始した．現在全国10施設が参加し，独自に作成した抗体を用いた免疫染色，質量分析装置を用いたプロテオーム解析による病型診断を行い，全国の病型診断の精度向上，均てん化に貢献している．

本特集は，前半4題の総論と後半5題の各論よりなっている．総論では概論の後，上記コンサルテーション活動で蓄積した知見を踏まえ，疫学，免疫組織化学を中心とした病理診断の実際，プロテオーム解析による病型診断の実際を解説する．各論では各病型の病理・臨床の実際に加え，アミロイドーシスに関連する最新情報を解説する．各病型の解説では，2024 年4 月から運用の始まった指定難病の改定診断基準・臨床調査個人票にもふれ，臨床医がどのような診断基準に基づき診断しているのか，病理診断に何を期待しているのかを理解する一助となるよう工夫した．

本特集が日常の病理診断におけるささやかな指針となることを期待するとともに，アミロイドーシスという疾患に対する病理医の関心，情熱を高めることを願っている．

内木宏延 ［福井大学医学部病因病態医学講座 分子病理学分野］
堂本裕加子 ［日本医科大学付属病院 病理診断科］