序

本書は，現代の教育心理学の多様な研究領域を広く概観するものであるが，2017（平成29）年に文部科学省より示された「教職課程コアカリキュラム」に準拠し，主に「発達」と「学習」に関連する内容で構成されている．本書のメインターゲットは，大学の教職課程において初めて教育心理学を学ぶ学生であり，それゆえに，専門的で硬い表現をできるだけ避け，図表やイラストを多用して視覚的にも理解を深めることをめざした．また本書は，日本体育大学の教員が中心となって編集・執筆を行っているが，保健体育に偏ることなく，他大学の教職課程においても対応できるように，幅広く使いやすい内容にすることを心掛けた．

教育心理学は，教員採用試験の教職教養の出題領域である．本書は，教員採用試験に頻出するポイントを考慮して構成されているため，教員採用試験の対策用のテキストとして使用することも想定している．試験対策をする学生は，必要に応じて本書を読み返し，履修した授業の復習を行うことで，効率的な学習ができる．本書を読んで学んだ学生が，一人でも多く教員採用試験に合格することを願っている．また本書は，各章で一つ，事例やトピックを用意し，教育現場の「いま」を伝えている．教員や教員志望者は「理論と実践の往還」が必要とされるが，本書は理論のみではなく，教育現場で実践される最新の教育心理学的知見も数多く盛り込んでいる．その意味では，教職をめざす学生のみならず，現在教師として現場で活躍されている教員や，教育心理学に興味がある一般の人々にも読んでもらえる本になるだろう．

近年，教職のブラック化が社会問題となり，長時間の労働や膨大な仕事量など，現代の教職という仕事の過酷さが浮き彫りにされている．令和4年度学校教員統計（中間報告）によると，精神疾患を理由に退職をした公立小中高校の教員数は953人となり，過去最多となっている．また，公立学校教員の2024年度教員採用試験の志願者数は，前年度から6,061人（4.5％）減少しており，教職を志望する者が年々減っていることが危惧されている．これらの現状は，教師の働き方を含めて教職という仕事の抜本的な改革が急務であるだけでなく，教職という仕事の本質的なあり方が問われていることを示すものである．今後，学校教育現場は大きく変化していくであろうし，変化しなければならない．そのような激動の時代において，教師をめざし日々努力をする学生に対し，本書が少しでも役に立てれば幸いである．

末尾ながら，本書の発刊に際し多大なご厚情をいただいた中山書店の鈴木幹彦氏をはじめ，本書に関わってくださったすべての人に心より感謝申し上げる．

令和6年1月

編者を代表して　市川　優一郎