第3版　監修の言葉──本書をすべての医師に捧ぐ

医療の現場は常に変動の渦中にあり，その波に乗ることは我われの使命であり喜びである．

『ホスピタリストのための内科診療フローチャート』第3版は，医療の航海図ともいうべき存在である．ホスピタリストのみならず，幅広く内科医，総合診療医，研修医の方々に既にご愛顧いただいているが，今版においては，エビデンスの海が一層深く，広がりを見せている．

修養と研鑽の精神に基づき，1078頁にわたり精緻を極めたこの書籍は，症状の糸口から治療の結び目に至るまでの一貫した流れと確かな情報を提供してくれる．読者が医学の進歩という激流の中でしっかりとした足場を築けるよう，最新かつ実証された知見を結集した．

単著でこのような大作を完成させた著者の苦労と功績は，計り知れないものがある．その細部に至るまでの厳密さ，患者さん一人ひとりに対する深い配慮，そして知識と経験を結晶させるための努力は，本書の価値をさらに高めている．

貴いページを紡ぎ，新たな局面においても読者の羅針盤となるべく，私は監修という役割を担わせていただいた．著者の絶大な努力に敬意を表しつつ，書籍の精神と意義は一貫している．診療の現場で求められる確固たる知識と，変わらぬ医療の姿勢を，本書が支えることを願っている．

熟慮深き内省とともに、読者の日々の診療に寄り添い，共に成長し続けることができますように．医療の光明を照らす一書として，第3版を皆様にお届けすることを，心より光栄に思う．

2024年2月吉日

上田剛士

第3版　序

2016年に本書の初版が，2019年に第2版が出版され，ありがたいことに今回第3版の出版となった．改訂の度に新たな薬剤，検査，そしてエビデンスが増加し，ますます医療は複雑化していることを実感する．その中で，基本的な診療の軸を見失わず，それらの検査やエビデンスをうまく使いこなすことが日常診療では重要なスキルであると確信している．

私にとっての「基本的な診療の軸」の一つの指標となるのがフローチャートである．疾患や主訴からのアセスメントをフローチャートとして俯瞰的に見下ろし，要所要所に適切な検査や治療を組み込む．これを基本として，各施設のルールや状況，各個人の経験から自らの診療スタイルを作ると，より効率的な抜けのない診療が可能になると思う．この本を手にとっていただいた皆様にとっても，フローチャートが診療の軸の構築に少しでも役に立つならば幸いである．

昨今はAIが急速に発達し，医学情報もAIをいかに駆使して検索を行うかが重要となっている．今後はこの流れがさらに加速するだろう．紙の本から得る情報などはすぐに時代遅れとなってしまい，いわゆる「エビデンスブック」は執筆する価値がなくなってしまうのではないかと心配している．

現状ではこの『内科診療フローチャート』は，国内の事情やコマーシャルベースで施行可能な検査，処方可能な薬剤（今後承認されると予測される薬剤も含んでいる）を活用して診療できるように構築しており，AIで雑多な情報から検索するよりも効率的な情報収集が可能だと自負しているが，その優位性も時間の問題という気がする．そうなった時にこのスタイルも役目を終えるのだろう．

2024年1月吉日

髙岸勝繁