特集にあたって
発達が気になる⼦どもたちの生活を支えるために

小児看護に携わっている皆さんは，医療機関・福祉機関・教育機関などで，待つことが苦手で走り回る子ども，すぐにカッとして相手に対してきつい言葉を言ったり暴力をふるってしまったりする子ども，社会的なルールを理解することが難しい子ども，いろいろなことをすぐに忘れてしまう子ども，友達同士の輪のなかに入っていくことが難しい子ども，運動の不器用さが目立つ子どもたちに出会ったことがあると思います。このような子どもたちは神経発達症（発達障害）やその疑いがあると診断されることがあります。また，診断はついていないけれども，「発達が気になる子どもたち」の発達過程を注意深くたどっていく必要がある場面や，ちょっとした支援を必要とする場面など，私たち医療者がそのような子どもたちとかかわる場面が今後多くなっていくことは想像に難くありません。また，保護者や学校関係者などから，育児や教育のしづらさを相談されることもあると思います。

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所^1）によると，発達障害とは脳の働き方の違いにより，物事のとらえ方や行動のパターンに違いがあり，そのために日常生活に支障のある状態とされています。学校教育で特別な支援を必要とする発達に課題がある子どもは年々増加傾向にあります。2022年の文部科学省の調査^2）によると，全国の小・中学校において，通常の学級に在籍して学習や行動に特別な支援が必要とされる子どもは，全児童の8.8% にみられ，通級指導教室という週に数回程度，ほかの教室でその子どもの特性に応じた学習内容の教育を受ける制度を利用する子どもは10年前の約2.5倍になっています。このような背景などから，文部科学省初等中等教育局特別支援教育課は2021（令和3）年6月に，「障害のある子供の教育支援の手引；子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて」という手引きを作成しました。学校教育だけではなく，医療や福祉の世界においても，子どもたち一人ひとりの発達の課題とニーズを踏まえて支援することがとても重要であるといえます。

2023（令和5）年に施行されたこども基本法の第一条には，「すべてのこどもが，心身の状況や置かれている環境等にかかわらず，将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指す」と明記されています。小児看護に携わる看護職には，発達に課題があり，生きにくさを感じている子どもたち一人ひとりが，その子らしく，特性を否定されず，また特性をうまく生かしながら幸福な生活を送ることができるように支援することが求められています。

本特集では，神経発達症（発達障害）に関する基本的な知識を専門医が概説し，理学療法士，作業療法士，言語聴覚士，臨床心理士（公認心理師）などがリハビリテーションなどのアプローチ法を紹介します。その後，病院や地域のさまざまな施設において看護師が実践している具体的な内容を紹介していく構成にしました。本特集が，発達が気になる子どもたちへの支援において，役立つものになることを願っています。

済生会横浜市東部病院人材開発センター／小児看護専門看護師
仁宮真紀
川崎市北部地域療育センター所長，小児科
山口直人

【文献】

1）　国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所：知的・発達障害の概要．https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiteki/about/disability（2024年4月4日最終アクセス）

2）　文部科学省：通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について．2022．https://www.mext.go.jp/content/20230524-mext-tokubetu01-000026255_01.pdf（2024年4月4日最終アクセス）